2018年11月12日 (月)

■ジンバブエ旅行記-7■

■11/7-1 ノーマテンバー
昨夜は、ザンべジ・ビールとポテトチップを食べて、間もなく眠ってしまった。
ホテル“Lynn's Guest House”の主人は、ジェームズ・アール・ジョーンズ風の渋い男であった。22時30分という深夜に着いたのに、まるで怒らず、三つの部屋からひとつを選ばせてくれた。
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小屋のような部屋を出ると、外に保温されたお湯とミルクが用意してあった。コーヒーを淹れて、ゆっくり飲んだ。
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そこは、暗闇を抜けなくてはたどりつけない光の世界で、風が葉っぱを揺らす音、さまざまな種類の鳥の鳴き声だけが聞こえていた。
約束の10時に、朝食の用意されているコテージへ向かった。すると、メイドさんが「卵はどう料理しますか?」と聞きにきた。目玉焼きにしてもらった。「水は要りますか?」と聞かれた。水道水ではなく、ポリタンクに入ったものを運んできてくれた。
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パンだけは自分でトーストしたので、焦げてしまった。この朝食、たった10ドルである。
メイドさんは、上目づかいで睨むような目で、早口で会話を切り上げる人なので、何か怒っているのだろうかと怪訝に思った。料理は温かく、素晴らしい味だった。
「これですべてよろしいですか?」と、メイドさんが踊るようにして部屋に入ってきた。すっかり笑顔になっている。フワッとスカートが舞って、花びらのようだった。「もちろん、とても美味しい」と、僕は答えた。彼女は静かな笑顔を湛え、背筋をのばして凛として遠くを見つめながら、「私の名前はノーマテンバー」と告げた。
その自信にあふれた態度に、僕は呆然と見とれた。「ノーマテンバー……」と繰り返すと、彼女は遠くを見たまま、「イエス」と静かに、はっきりと答えた。

僕は、天国はこのような場所であってほしい、と思った。
ノーマテンバーを遠めに見ると、特に容姿が優れているわけではない。大胆な表情の変化、風景や空気、天気や年月までもが彼女の美しさに味方しているような、世界そのものが美しく、ノーマテンバーはその一部である……とでも言えばいいのか。
ジンバブエで出会ってきた女性たちすべてが、巨大なひとつの癒しであるような気がする。間違いなく、僕は魂の一部を切り取って、あの国に残してきた。それは今でも、ものすごい力で僕の心臓に逆流しようとする。
「思い出すと胸がドキドキする」って、そういうことだと思う。

■11/7-2 ブラワヨ発、ハラレ行き

さて、ブラワヨ発ハラレ行きの飛行機は15時半に出る。13時には、空港に着きたいと思った。そこで、主人にタクシーを呼んでほしいとお願いした。
しかし、待てど暮らせど、タクシーはやって来ない。「タクシー、遅いですね」と言いに行ったら、「えっ?」という顔をされた。主人は言いづらそうにしていたが、バウチャーに「空港への往復シャトル、25ドル」と日本語で書かれていたのを思い出した。彼は片道で25ドルとらざるを得ないので、それで申し訳なさそうにしているのだ。「料金は、ちゃんと払います」と、僕は翻訳ソフトに打ち込んで、彼に見せた。では行こう、という話になった。
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昼間のブラワヨ市街を抜ける。
別れ際、「英語を聞くのも話すのも下手で、申し訳ない」と言うと、主人は大きな手で僕の肩をたたき、「大丈夫、ちゃんと伝わってるよ」と微笑んだ。
ひとりで空港のロビーに座っていると、涙が出てきた。ここ数日、出会った人たちのことを思い出しながら、ひさびさに声を出して泣いた。

■11/7-3 ピンクのシャツ
夕方、飛行機は首都ハラレに着いた。
「タクシー?」と、ピンクのシャツの男が声をかけてきた。彼は「日本から来たのか? トヨタの国じゃん!」と興奮して、日本車が南アフリカでどれだけポピュラーか力説した。
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しっかしまあ、ここが首都か?と言わざるを得ないヤバい雰囲気が漂っており、タクシーなくして通過は不可能と思われる。
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びっくり仰天したことに、運転手は路傍に車を停めると、「ちょっと友だちに手紙を渡してくる」と中央分離帯を横断して、対向車線の車に何かの封筒を渡した。きわめて犯罪的な行為に見えなくもないが、本人はケロッとしている。
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今夜のホテルは、「まさか」と思うほど立派な高層ホテルであった。「ところでな、明日の朝は早いんだろう? そんな時間、交通機関は何もないぞ。良かったら、ホテルに迎えに来るけど、どうだ?」と、運転手は提案した。願ってもない話だ。翌朝5時に来てくれるよう頼んだ。

■11/8 寝坊
ところが、遅刻してしまった。スマホの時計が狂っていたので、テレビの時報を見て修正したのだが、どうも近隣の別の国の番組だったようで、きっちり一時間、遅くなっていたのだ。
僕がレセプションに行くと、昨日の運転手が「おい、寝坊か?」と、入ってきた。40分も、僕の時計が遅れている。「そりゃあ、ジンバブエの時刻じゃないぞ。早起きして待ってたのに……とにかく急ごうぜ、ブラザー!」

彼がアクビをかみ殺しながら、苦笑まじりにあれこれ言うので、僕は黙りこんでしまった。40分なんて、僕なら怒って帰っているところだ……。
「ところで」と、運転手は、長い沈黙のあとに口を開いた。「今度は、いつジンバブエに来るんだ?」「今度? 次なんて、いつになるか分からないよ。どうして?」「どうしてって、次にアンタが来たときはビクトリアの滝、遺跡、草原、動物たち、いろいろと見せてやりたいからだよ!」
……ぜんぶ見てきたよ。だけど、言わなくていいよな。そんな野暮なことはしない。
「俺は、アンタを長いこと待たせてしまった。申し訳ない」と、あらためて謝った。「もう気にしてないよ。それより、俺のネームカードを持っているよな? こんど来るときは絶対にメールしろよ」。彼は間違いなく、僕にとってのジンバブエ代表だった。「旅、気をつけて」と、最後に彼は言った。
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この後、ヨハネスブルグのホテルで猛烈に不愉快な夜を過ごし、北京まで13時間もの機内泊、さらに空港で12時間を費やしたが、それは書く必要はないだろう。
ジンバブエの出国手続きをするとき、メガネの担当女性が僕のパスポートを見るなり「ジャッパーーーーン!」と無意味に叫んで、笑わせてくれた。さらに言うと、手荷物検査で、もうはちきれんばかりのパツンパツンのシャツを着たグラマーな女性がいて、体を丸めると、しなやかな背中がシャツから丸見えになる。お土産屋に入ったら、その人が店員だった。
「さっき、手荷物検査で水を没収されてたでしょ?」と、彼女は笑った。太陽を空から切り抜いて、こしらえたような人だと思った。

(おわり)

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■ジンバブエ旅行記-6■

■11/6-1 ビクトリア・フォールズ→ブラワヨ
ビクトリア・フォールズからブラワヨへ戻る長距離バスは、昼過ぎに出る。果てしなくどうでもいいことなんだけど、ようやく電気が復旧して安眠できたと思ったら、朝になってまた停電してんの。まあ、もう帰るからいいんだけどね。
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(しつこいけど、130ドル、1万5千円の朝食。)
僕は荷造りをして、坊主頭のメイドさんに「タクシーを呼んでほしい」とお願いした。「すぐに来るから、待ってて」って、椅子を運んできてくれて。彼女、いろいろと世話を焼いてくれる。で、「タクシーが来たわよ」って呼ぶんだけど、女将の車が買い物から帰ってきただけ(笑)。思わず「え? これがタクシー?」って聞いてしまったよ。
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で、女将の運転する車でバス停まで送ってもらって。
インターケープ・バスの発着場所は、ケンタッキーのお店の入ったガソリンスタンドで「TOTAL」という場所。これは、さすがに地元の人でないと分からないな。
女将が、近くに座っていた青年に「バス停って、ここでいいの?」「この人もブラワヨへ行くんだって」と確認してくれて。悪い人ではないんだよね。

そして、インターケープのバスは一時間も遅刻してきて、降ろさなくていい荷物まで降ろしたりして、本当にイライラさせられる。

■11/6-2 暗闇

ブラワヨに帰り着いたとき、もちろん周囲は真っ暗だ。さて、どうやってタクシーを探そうか……と考えていたら、小柄なオジサンが「タクシー?」と声をかけてくれた。
日本から印刷してきたホテルへの地図を見せると、「分かりづらいけど、多分大丈夫」と言う。タクシーは、暗闇の中を走り出した。町中ではなくて、えらい外れにあるので、もう街灯なんて一本もない。
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で、やっぱり迷ったんだよ。この暗闇の恐ろしさは、あの場に行かないと分からない。暗闇の中に、ポンとガソリンスタンドが浮かび上がって、オジサンは僕の印刷してきた地図を持って、店員さんに聞きにいってくれて。
結局は地図が間違っていたので、オジサンは手書きで地図をつくりはじめた。「間違った地図で、申し訳ない」と謝ると、オジサンは「何を言ってるんだ、僕の車にGPSがないのがイカンのだよ」と、少しも怒らない。雰囲気を和らげるためか、「日本語でハローは何て言うの?」なんて話題をそらしてくれて。
しかし、道が複雑すぎて、どんどん暗闇に迷い込んでいく。

■11/6-3  マタネ!
道沿いのバーに寄って、もう一度、道を聞きなおすことにした。僕はまだ余裕があったのだろう、「この店で缶ビールを買っていきたい」と言うと、オジサンは笑って僕の背中を叩いて。
「種類が分からないから、缶ビールを2本、どれでもいいから頼んでくれる?」とお願いしたら、オジサンは笑いながら「ザンベジ!」ってオーダーして。2本で、たったの2ドルだった。
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でもね、そこからさらに迷うの。
これはもう、ダメだろう……。俺は、町中に戻ってもらって、前に泊まった“The Bulawayo Club”に行ってもらえないかと提案した。場所なら確実に分かるし、もし部屋が空いていれば、安心して泊まれるだろうから。
オジサンは別のガソリンスタンドや、すれ違った車にまで声をかけてくれた。そして、「ちょっと待って。あの車が案内してくれるって!」
たまたま近くを通りかかった車が、僕らの探していたホテル“Lynn's Guest House”を知っているという。

「あの人は、とても親切だ……」と、オジサンは先導してくれる車を見つめながら、つぶやいた。いやいや、あなただっていい人でしょう、こんな見ず知らずの日本人のために……。
すると、暗闇の中に“Lynn's Guest House”の看板が浮かび上がった。「ありがとう、お休み!」と、オジサンは先導してくれた車に声をかけた。
一時間半も、暗闇の中をさまよった。僕らは握手して、抱き合って喜んだ。「日本語でバイバイはなんて言うんだ?」と、オジサンが聞く。サヨナラでは冷たすぎるので、「マタネだよ、マタネ」と教えると、オジサンは嬉しそうに「マタネ! マタネ!」と言いながら、帰っていった。

彼の書いた地図は、捨てずに日本に持ってかえってきた。
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(つづく)

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■ジンバブエ旅行記-5■

■11/5-2 胡散臭そうなオジサンたち
『地球の歩き方』のコピーを持っていったんだけど、ビクトリア・フォールズ周辺でも強盗事件が起きたってね。有名なバオバブの木の近辺だってね。タクシーの運転手が、「でかい木があるの知ってる? そこで記念撮影すれば?」って気をつかって、連れてってくれたよ。
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何しろ、象に乗れるツアーまでは5時間もある。『地球の歩き方』のコピーに、自然保護区に隣接したワニに触れる動物園があって、そこまでタクシーで運んでもらったんだ。「いくらかかる?」と聞いたら、たった10ドルだという。
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本当は、こういうエリアを周回するバスを運行させればいいと思うんだよ。いちいちタクシーと交渉しなくてはならないんだけど、なぜか彼らは決してボラない。
で、そのワニ園を案内してもらって何時間かかるかと言うと、13時には回り終えるから、ピックアップしてくれるという。その帰りに、バオバブの木に寄ってくれたんだけど、周囲には土産物屋を売る露店が出ていて、もはや強盗が出るような雰囲気じゃないよ。俺は『星の王子様』とかどうでもいい汚れた人間なので、なんかこういうのは好きじゃない。

むしろ、町中にタムロしている時点では、あまりにも胡散臭そうなオジサンが、たった10ドルで約束を守って時間より早めに来てくれて、追加料金なんて請求せず、よくよく顔を見ると、目が澄んでいる。その方が美しい、と俺は思ってしまう。
旅の後半は、そんな心の優しいオジサンたちと連続して出会うことになる。
この時は、俺のほうから少し多めに払ったんだ。誠意に答えるには、それが一番だよね?

■11/5-3 オペレーション
さて、意外と早くワニ園を回ってしまったので、ビクトリア・フォールズの町で遅めの昼食をキメた。
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ハンバーガーが15ドル、ビールが5ドル。これでお腹いっぱいなのだから、130ドルの朝食の意味が本当に分からない。
ツアーの集合場所近くなんだけど、タクシーから降りたとき、足がもつれて思い切り地面に転んでしまった。トイレで鏡を見たら、ものすごい汗。一杯しかビールを飲んでないのに、頭がクラクラしている。しかし、コレラの初期症状ではない。ツアーをキャンセルしようか?とも考えた。

でもね、旅行会社に入って椅子で待たせてもらっていたら、運転手のお兄さんのスラックス、靴の色、すべてが美しく調和して見えた。目が覚めるぐらい綺麗だった。ちょっとした意識変性状態だったと思うんだが、あれは何だったんだろうか。
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象さんに乗れるツアーの参加者は、僕を入れて8人だったかな。他はみんな白人で、面白かったよ。白人は白人同士としか話さないから。僕には挨拶すらしないし、お礼もない。
でも、ガイドの人がそういう雰囲気を察知したのか、いちいち僕に「説明は分かった?」と話しかけてくれて。「ちょっとだけなら」と答えると、「大丈夫、俺だって日本語はちょっとしか分からないからさ」と、親指のツメの先っちょを見せてくれて。

象に乗って、一時間ほど平原を回るツアーは、確かに幻想的で良かった。雷雲が近づいていて、曇り空が美しくて。
だけど、それ以上に旅行会社のクルーが団結して、「待ち時間をつくらない」「客を飽きさせない」「記念写真やビデオなどの俗化した要求にも対応する」オペレーション遂行の段取りが、本当に素晴らしかった。たとえば、象にエサやりさせてくれるんだけど、手を洗うためのタンクを運んできて、ひとりずつ手を洗った後は、清潔なタオルが人数分用意してある。その後で、手づかみで現地の料理を食べさせるから、念が入っている。
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で、どうして料理を食べさせるか?というと、撮影したばかりの写真をソフトで編集して、客にサンプルとして見せるためなんだ。気に入った客は、その場で追加料金を払ってDVDに焼いてもらう。DVDを要らない客は、ただ映像を見ながら食べて飲んでいれば無駄な時間ではないわけ。

おまけに、僕がビールを美味そうに飲んでいたら、「美味いだろ? ザンベジってビールなんだよ。もう1本どう?」と、確実に予算オーバーだろうに、2本も追加してくれた。

■11/5-4 停電
さらにすごいのは、客たちをひとりひとりホテルまで運んでくれること。
僕が泊まっている朝食130ドルのホテルは、やっぱり地元には知られていないんだ。たまたま僕がホテルのネームカードを持ってきていたので、幸いにして電話番号が分かって、それからの旅行会社の対応が素晴らしかった。
まず、他の客たちを先に降ろすから、あなたは事務所でバスを待っていてほしい、と。で、バスが外を回っている間に、事務所ではホテルへ電話連絡。社員同士で情報交換して、「分かった分かった、大丈夫だ」と、場所を確認しあう。
そして、ガイドの青年がバスに同乗して、責任もってホテルまで届けてくれる。

運転手は新しい人に代わっていたんだけど、家族の話をしてくれた。息子が4人いて、いちばん下は4歳なんだよ、とかさ。この会社のスタッフたちは、僕が日本人らしくお辞儀をしたら、「日本人はそうやってお礼をするのか」と喜んでくれたし、「日本にも雨季はあるの?」「いつか日本のどこかで会いましょう」とかさ、リップサービスにしても嬉しいじゃない。悪い気はしないもの。
今朝のペテン師の青年()が「日本人かい? うーん、日本はいいよね!」って似たようなこと言ってたんだけど、あの薄っぺらさは何なんだろう?

で、旅行会社の見事な連携でホテルに帰りついたら、停電してるんだよ。「そんなことより、象に乗ったんでしょ? どうだったの?」って、女将は見事に話題をそらすんだけど、エアコンが効かないから、暑くて眠れないわけ。
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坊主頭のメイド(この人はキモがすわっていて、何かと頼もしい人だった)が、ロウソクなんて持って来るんだよ。女将は「20~30分で復旧するわよ」なんて言ってたくせに、結局は4時間もかかった。
「サービスとは何か?」について、考えさせられてしまうよなあ……。

(つづく)

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■ジンバブエ旅行記-4■

■11/4-2 ビクトリア・フォールズの朝食
この写真の朝食、いくらに見えるだろうか?
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答えは、130ドル。本日のレートだと、14,831.24円。1万5千円。これが2日分で260ドルだから、計3万円もとられた。ビクトリア・フォールズで泊まったホテル、“Sweet Holiday Homes”。要注意である。
朝食はオプションなのだが、値段の書いてないメニューを見せられ、「じゃあ、フライド・エッグとソーセージと、ジュースと……」と希望を言うと、その場で女将が値段を口にする。現金のみ、レシートはない。
このホテルがあるのは、チノチンバという現地の人たちが住む住宅街で、観光地からは徒歩50分ぐらい。ビクトリア・フォールズまで歩けば、レストランがいくつもある。
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このハンバーガーとビール2本で、ぜんぶで31ドル。130ドルの朝食が、いかに法外か分かるだろう。
またいきなり話が飛んでしまったが、ビクトリア・フォールズといえば、260ドルも現金で朝食代をとられたこと。VISAカードが、いくつかの店で使えなくて、ビクビクしながらお金を使ったこと。まずは、この2点が思い出される。

■11/4-3 小さな花
長距離バスで6時間ほど、ビクトリア・フォールズに着いた日の夕方は意地になって町まで歩き、急いで滝を見に行った。入場料30ドル。
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しかし、ちょっと広めの公園といった程度でガッカリした。アルゼンチンのイグアスの滝は、3日通っても飽きないほど色々な組み合わせのアクティビティがあり、飲食できる場所も豊富だった。何より、景観を楽しめるよう様々なルートが用意されていた。
ビクトリアの滝は翌日も端から端まで歩いてみたが、単調で、すぐ飽きてしまった。

ビクトリア・フォーズに着いた初日、良かったこともある。
●タクシーの運転手が、迷いながらも粘り強くホテルの場所を探してくれたこと。値段は僕に決めさせてくれたので、かなり多めに払った。とにかく、タクシーがボッたくったことは一度もない。「そんな安くて大丈夫か?」と思うような値段を提示してくる。
●歩いてホテルに帰る道すがら、バスが停車してクラクションを鳴らした。気にせず歩いていたら、運転手の青年が降りてきて、知らずに歩道に落としていたカメラを拾って届けてくれた。驚いて御礼を言うと、素晴らしく澄んだ瞳の青年であった。
●コーヒーを持ってきたホテルのメイドさんが、緊張した顔で「明日の朝食は何時にしますか?」と聞きに来た。「7時」と答えると、パッと別人のような愛らしい笑みを浮かべた。まるで、小さな花が咲いたようだった。キザなことを言うようだが、黒人女性の表情の変化は、素晴らしい。顔の造形ではない。美醜ではない。神秘的な表現力がある。

ホテルには3人のメイドがいて、それぞれ個性的だった。コーヒーを持ってきてくれた子は、おそらく最も若くて未熟なんだと思う。翌日の夕方、ホテルが停電になったとき、僕が大げさに驚いたり嘆いたりしていると、口に手を当てて、声をころして笑っていた。
なんとまあ、美しいお嬢さんだったことだろう。滝なんかより、何倍も美しいものが見られた。本当に、小さな花みたいなんだよ。

■11/5-1 ペテン師

翌朝も、歩いてビクトリア・フォールズの町まで歩いた。女将が車で通り過ぎて拾ってくれることもあったが、基本的には「がんばって歩け」などと平気でいう。誠意のない人だったなあ……。

そして、ツアーを申し込むために旅行会社に立ち寄ったものの、カードが使えるかどうか不安なので、しどろもどろになってしまう。
ガッカリして、ふらふらと旅行会社を出たところ、20代後半か30代ぐらいの元気のよい青年に捕まってしまった。「なにかアクティビティを探してるのかい? ヘリコプターもラフティングも何でもあるよ! 俺は旅行会社に勤務してるんだ。ホラ、あれが俺のオフィスだよ!」などと調子のいいことをまくしたてるので、まず一軒目だけ着いていってみた。
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ヘリは時間が短いし、象さんを見るだけなら、100ドルしないのでそれかなあ……と思っていたら、象さん関係のツアーは120ドルだという。カードは、やっぱり使えないので現金で払うか……いや、朝食代で260ドルもとられたショックで、120ドルも現金は払えない。だけど、彼らに現金を見せてしまったんだよね、チラリと。
すると、青年は「じゃあ、ディスカウントするよ。俺に25ドル、窓口に座っている彼に50ドル、現金で出せないか?」 だから、現金は使いたくないって。「この会社はダメだなあ。もっと大きな会社に行ってみよう!」って、おいおい。「俺のオフィスだ」って言っただろうが。

次の旅行会社に行ったら、あっさりとカードは使えたんだけどね。だから、その青年に騙されたってほどではないんだ。
でも、いつの間にか「俺はアーティストなんだ。俺の彫った置物を見てくれるかい?」って、いつの間にか旅行会社勤務からアーティストに設定が変わってるよ。
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で、上の7センチほどの置物を21ドルで買うまで、離してくれなかったんだけど、土産物屋に入って「俺のお姉さんだよ!」って、スラリとした美人を紹介するんだよね。そのお姉さんが、ニコリともしないので、なんかすべて分かった気がした。こうやって毎日毎日、買う気のない観光客を店に連れてきて、どうしょうもないセコい商売してるんだろうなあ……って。
130ドルの朝食に、21ドルの置物ねえ。

ツアーの時間は15時なので、それまで5時間も時間をつぶさないといけない。
もう一度、ビクトリアの滝に入園して、園内でジュースを買ったら、売り手の少年が「コールド、コールド」って笑顔で言うんだ。その笑顔が、本当に綺麗というか、邪気がなくて。
ホテルの女将もペテン師の青年も、笑顔がドス黒いんだよ。肌の色のことじゃないよ。笑顔にウソがあるのは、人種国籍を問わない。滝よりも動物よりも、人間のほうが面白いんだ。

(つづく)

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■ジンバブエ旅行記-3■

■11/3-5 カミ神殿
ブラワヨの“Licenced Restaurant”のバーカウンターで、パーカーのフードを頭からすっぽりかぶっていた女の子。僕にビールを渡すとき、「栓抜きがない、どこへやったっけ?」とキョロキョロしていた仕草も、よく覚えている。
だが、先へ急ごう。僕はホテルに戻り、レセプションに待機しているモーガン・フリーマンのような守衛さんに「カミ神殿へ行きたい。タクシーを呼んでもらえないだろうか」と話した。守衛さんは、「今すぐですか? お待ちください」と電話を手にとった。
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ホテル“The Bulawayo Club ”の内装は、素晴らしいものだった。細かな調度品にまで、しっかりと手入れが行き届いている。
ロビーで待っていると、ヒョロッと背の高いタクシー運転手の青年が現れた。モーガン・フリーマン似の守衛さんは、「あとは2人で決めてください」と、深入りせずに距離を保った。
間違いがないようにメモ帳に図を書きながら、僕と青年は相談した。彼の場合、10キロごとに10ドルかかるという。カミ神殿までは30キロだから、往復で60ドル。格安だ。
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僕がカミ神殿を見学している間、青年はタクシーで町に戻っていると言っていたのだが、なんとなくガイドの女性と3人で歩いて回ることになった。
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青年はガイドさんの解説を聞いて、「ここってコンクリートで補強してないんだって」「この岩、面白い音がするから叩いてみて」と面白いポイントをシンプルに切り取って、僕に伝えてくれる。そのセンスは素朴だが、卓越したものだった。
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神殿の一角に、コインが溜まっている場所があった。ローマの「真実の口」みたいなものだろう。ガイドさんは「寄付だと思って、ぜひコインを置いてほしい」と言った。僕が札しか持っておらずグズグズしていると、青年がポケットから1ドル硬貨を取り出して、十字の真ん中に置いた。僕は、1ドル札を青年に渡した。
青年の判断はひとつひとつが的確で、フェアだった。

カミ神殿の名物のひとつが、隣接するダムだ。
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ダムまで行って入り口まで戻ってくると、ざっと2時間ほどだ。僕と青年は、トイレに向かった。こんな土地柄なので、水洗ではない。手を洗うための水道はガッチリと固まっていたが、「あそこにもうひとつあるよ」と、青年が水道を見つけた。まるで、神様が正しい道へ青年を導いているような気すらするのであった。彼は、とても丁寧に手を洗った。
ハンドルを握る仕事だから? コレラが怖いから? どちらにしても、彼の行いは完璧に洗練されていた。帰りの道では、「これがさっきのダムの水だよ!」と窓をあけて写真を撮らせてくれた。反対側の窓も開けて「撮ったかい? じゃあ、行こう」。僕は彼の段取りの良さに、すっかり感服した。
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ブラワヨの町に戻ってきた。
青年は約束どおり、「60ドル」と言ったが、僕は75ドル渡した。ホテルに戻ると、モーガン・フリーマン似の守衛さんが「神殿はどうでしたか?」と微笑んだ。そして、やや表情を堅くすると「……運転手は?」と聞いた。「彼は素晴らしい。とてもいい仕事をしてくれたよ」と、僕は素直に伝えた。ホッとした守衛さんは、僕の渡した青年のネームカードを見ると、番号をメモして、彼に電話をかけていた。おそらく、お礼の電話だろう。
プロは、プロの仕事を認める。

■11/3-6 バス停
いちど部屋に戻ってシャワーを浴びると、明日の早朝、向かわねばならないバス停を確かめておきたくなった。
なので、守衛さんに日本から持参した地図を見せながら「ここまで歩きたいのですが」とお願いした。もはや、信頼というよりは甘えである。「ホテルの前の通りが、8番なのです。9番、10番、11番と12番の間にバス停があります」と、その教え方は合理的で無駄がなかった。そして、かみ締めるように何度もしっかりと繰り返してくれた。繰り返すたび、ますます無駄がそぎ落とされていった。
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バス停に寄ってから、僕は例のレストランへ行ったわけだ。
どこかで歯磨き用の水を確保しておきたかった。ガソリンスタンドは物騒なムードを発していないので、そこで2本購入した。カード払いばかりで現金を扱うのに慣れていないので、レジの女の子に「このお金が何だか分かる? 今日、この国に来たの?」と子ども扱いされたが、少しも腹が立たなかった。

■11/4-1 インターケープ
翌朝、まだ暗いうちからバス停に向かった。レセプションにいたのは、昨日の守衛さんではなく、もっと年上の男性だった。なので、素晴らしい働きをしてくれた人に挨拶すらできなかった。
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しかし、守衛さんの完璧な説明のおかげで、迷わずにバス停に着くことができた。
インターケープはネットで乗車券が購入でき、バスの中にはトイレもあると評判が高い。しかし、朝5時半に来いと言っておきながら、数分遅れて、ようやくひとりだけ社員が来た。出発時間の6時になってもバスは来ないし、そもそも社員がだらだら出社してくる。
2時間も遅刻して、ようやくバスが到着するのだが、このだらしなさには閉口した。
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夜が明けてきた。昼間は暑くなるが、朝はコートを着ている人までいる。僕はTシャツと短パンで震えていた。
インターケープは時間にもだらしないが、サイトで乗車券を予約しようとすると便が少なく、どうしても早朝や深夜に発着することになってしまう。せっかく優れた車両を持っていても、効率よく運用できていない。インフラの悪さは、旅のあちこちで感じた。それゆえ、効率的に仕事を回そうとする人たちの働きが、際立って感じられるのであった。

ともあれ、バスで6時間かけてビクトリア・フォールズへ向かう。

(つづく)

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■ジンバブエ旅行記-2■

■11/3-2 コレラとクーデターの国
僕は日本国内とは逆に、海外旅行すると、女性と子供には声をかけられる。去年、マルタ共和国を旅したとき、ナイジェリア人の女性と話して「楽しかった」と言われたほどである。
しかし、「私のこと、おぼえてます?」などと聞かれたのは初めてだ。だって、昨日の夜遅くに着いたばかりじゃないか。「タクシー探してましたよね?」「それで、よく寝られたんですか?」 なんだか、怪しげな微笑を浮かべているのである。あれは幸福な瞬間だった。

そういえば、入国審査の女性も、不思議なムードを持っていた。
ビザの取得には30ドル払うのだが、「これは私へのチップかしら?」などと聞くのである。「え? ハハハ、違います」と一応否定すると、書類に目を落としたまま、「あれ? 私へのチップじゃないの?」「どうして? どうして私にはチップをくれないの?」などと、なんだか甘ったれたような口調でつづけるのである。あの時も、心臓をつかまれたよなあ……。
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さて、手荷物検査の女性は、「私のこと、おぼえてます? 私はあなたと話したこと、ちゃんと覚えてますよ」と、まだ謎かけのようなことを言う。
「覚えてないんだ、申し訳ない」と謝っても、フフンと余裕の笑みを浮かべている。思い当たることがあるとすれば、昨夜、国際便の手荷物検査のとき、「英語は大丈夫ですか?」と聞いてきた女性だ。「少しだけなら」と答えると、ツカツカと前をあるきながら「あら。もっと話せないとダメですよ?」などと、高飛車な物言いをしてきた、あの人だ。

こうして思い出しながら書いていても、彼女たちが愛しくて懐かしくて、今回の旅は、僕と通りすがりの女たちと、そして熱いオジサンたちのショートストーリー集だったのだなあ……と、胸がチクチクする。コレラとクーデターの国のくせに、なんてキュートな人たちなんだ!
大好きだ。涙が出る。「僕は、あなた方の国が大好きです」と、ずっと誰かに言いたかった。誰にも言えなかったけどね。

■11/3-3 小さな飛行機
さて、ハラレからブラワヨへ向かう小さな飛行機に乗る。ここでまた、「よお!」と声をかけられる。おそらく、昨夜のタクシー運転手だ。おそらく、ブラワヨへ出張なのだろう。
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機内で、タクシー運転手の彼は、スマホを差し出して「お前の番号、教えてくれ」などと言う。そんなもの知って、何をどうするという(笑)。だけど、不思議なことに、タクシー運転手はみんな人懐っこかった。理由は分からない。観光客相手の商売だから?
飛行機を降りると、運転手は親指を立てて、乗客とは別の方向へ歩いていった。やはり、仕事だったのだろう。

■11/3-4 ブラワヨ
ジンバブエ第二の都市、ブラワヨへと着く。そういえば、ジンバブエの朝は非常に冷える。タクシーでホテル“The Bulawayo Club ”に10時半ごろにチェックインしたとき、「毎日こんなに寒いの?」と聞いたら、モーガン・フリーマンを若くしたような守衛さん(そういう制服を着ていた)は「毎日ではありません」と答えた。なので、出かけるために長袖のシャツとスラックスに着替えた。
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どこから話せばいいのだろう、このブラワヨの魅力! まだ午前中だ。官公庁も近いので、真面目な人たちは出勤した後なのだろう。鉄格子のかかった店舗の前には、露天商が出ている。「ゴキブリ殺しの毒があるぜ」などと声をかけられるが、振り向いてはいけない。
僕は、金の入ったバッグを胸の前に持ってきて、両腕を交差させた。それぐらい、怖い。だけど、活気がある。信号が少ないので、車も人も、自己判断で道を横切る。いつしか僕は、信号無視のコツさえつかんでいた。

とても、道行く人々にカメラを向けられるムードではないのだが、新聞の見出しだけを刷って、歩道に壁新聞のように貼っているのは、カッコよかった。
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郊外に行くと、火力発電所があったりして……。そうそう、この町では白人を見かけなかった。まして、アジア人など僕ひとりなので、「何だこいつは?」という目で見られた。
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午前中歩き回ってお腹が空いてきたけど、とにかく安心して入れるような店構えのレストランなんてないわけ(笑)。どの店も薄暗いか、ビールを手にした男たちがサッカー観戦して路上まであふれていて、怖くて入れない。
そんな中で、“Licenced Restaurant”という看板が目に入った。公認? 国から許可されてるの? それなら安心だろうと思って、入った。店は半分に区切られていて、入ってすぐが立ち飲みバー。奥に入ると椅子とテーブルがあって、親子連れが食事している。客に手を洗わせるための水が用意してあるのも好印象だ(店員さんが大きなヤカンをテーブルまで持ってきてくれる)。
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奥にはバーカウンターがあって、酒を飲んでる人もいるので、ビールぐらい頼んでもいいだろう。
ただ、種類が分からないので「あなたが選んで」と、カウンター内にいた女性に頼むと、「あはははは!」とお腹をかかえて笑い出した。冷蔵庫を指差して、「あなたが選んで」と繰り返す。彼女は寒いせいだろうか、パーカーのフードをかぶっていて、神秘的な瞳をしていた。
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結論から書こう。僕は昼過ぎに、ブラワヨ郊外にあるカミ神殿へタクシーで行った。その後、再びこのお店に戻ってきて、「何か食べるものはある?」とフードをかぶった彼女に聞いた。
その時、彼女がメニューを渡しただけですませたと思う? カウンターの上で、僕と肩をくっつけて、一枚のメニューを一緒に見ながら、最初からひとつひとつ説明してくれたんだ。
「これは牛のシチューね。ご飯かパンが選べるよ」「サイズは大きい?」「うん、大きいよ。あ、あとコレはどういう料理か知ってる?」って感じに。きっとそれは、ジンバブエ独特の料理だったんだと思う。でも、説明が難しくて、よく分からなかった。ちょっと早めの夕飯は、シチューとご飯にしたんだ。

翌日、バスでビクトリア・フォールズに向かい、またブラワヨに戻ってくるんだけど、彼女の店にちょっとだけ寄ろうかと思った。また別のドラマがあったので、そういうわけにはいかなかった。
「料理はどうだった?」と皿を片付けに来たときの、あの覗きこむような瞳は、死ぬまで忘れない。美しかった。そうだ、カミ神殿に行った話を書かないといけない。次は、男たちの話だ。本当に、今回の旅はショート・ストーリーズだったんだ。

(つづく)

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■ジンバブエ旅行記-1■

GOODS PRESS(グッズプレス) 2018年 12 月号 発売中
45862143_1958116057615632_76765784180年代アニメのプラモデル特集記事を、全5ページ書きました。ウェーブの『装甲騎兵ボトムズ』開発チーム、大河原邦男先生へのインタビューを含みます。

スーパーミニプラ、ガシャプラ、マクロスモデラーズ、他にもグッドスマイルカンパニーから『六神合体ゴッドマーズ』のプラモデルも発売されました。こんなに豊富なネタがあるのに、「80年代ロボ」の「プラモデル」という括りで見られたことは、なぜか一度もありませんでした。
あちこちに企画を持っていくうち、「大河原メカ」という一本のラインがグッズプレス編集部から出されて、5ページの記事にまとまりました。


11/1(木)~11/10(日)まで、アフリカのジンバブエまで旅行してきた。ハイパーインフレとコレラの国、最新ニュースはクーデターである。
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最初に、いかにも観光地っぽいビクトリア・フォールズ近辺の写真を載せておこう。ここまではガイドブックにも載っているし、飛行機でビクトリアの滝まで来て、Uターンして帰る人も多いと思う。
象の背中に乗って草原をグルリと歩いてまわったり、ワニの赤ん坊に触れるのも、ビクトリア・フォールズの町でツアー会社やタクシーに相談すれば、誰でも出来る。

過去の僕の旅は、すべてガイドブックのページをたどって歩くようなものだった。
今回のジンバブエは、ちょうど一年前にクーデターが起きた国だ。外務省からレベル1に指定されているほど、犯罪が多いそうだ。
ハイパーインフレ後に米ドルが使えるようになったが、調べれば調べるほど交通の便が悪い。僕は北京とヨハネスブルグを経由して2日がかりで行ったが、ジンバブエ国内の移動は飛行機と長距離バスを、旅行の直前になってネットで予約した。夜遅くホテルに着いて、翌朝暗いうちに出発して、移動だけで終わる日が大半になってしまった。
また、首都ハラレでコレラが流行、9月に緊急事態宣言が出されたばかりだ。水道水が飲めないのはもちろん、歯磨きの水すら自分でミネラルウォーターを確保せねばならないのも面倒だった。

■11/2-1 ビール
なんとなく、大きな滝と石造遺跡があるなら行ってもいいかな……ぐらいに思っていた。英語も通じるし、ドルが使えるし、昼間からビールを飲んでも怒られないし。
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ヨハネスブルグ(南アフリカ)からジンバブエへは、小さな飛行機で入国した。二時間ほどのフライトで、夕暮れの雲上の風景は素晴らしいものだった。
機内ではハンバーガーがひとつ出て、飲み物が選べたのでビールを頼んだ。すると、一見すると強面のCAさんが、食後にもビールをくれた(他の人にはコーヒーか紅茶か聞いていたのに、「あなたはビールでいいわよね」と)。
飛行機を降りる時、ドアが開くまではムスッとした顔だったのに、降りてもOKになった途端、グッと親指を立てた。そのCAさんの表情と仕草のギャップが、実はジンバブエの第一印象であり、ジンバブエの女性たちは最後の最後まで、それぞれ個性的な言動で、僕を強烈に魅了しつづけた。

■11/2-2 ハラレ空港
いきなり大きく話が飛躍してしまったが、11/1~2は北京からヨハネスブルグへの移動だけでつぶれてしまう。
最終目的地のビクトリア・フォールズには二泊する予定で、その前後は首都ハラレ、第二の都市ブラワヨに一泊ずつする。ハラレの街はタクシーで通過しただけだが、到着したのが夜だったため、空港の雰囲気からしてヤバいのが分かった。
これは確かに、治安が悪そう。必死にタクシーを探した。Dscn0579

写真がブレているのは、まず天井の電灯が半分ほど切れかけていて、やけに暗いせい。それと、とにかくその場を脱出したかったので、あわてていたためだ。

■11/2-3 『ブルーベルベット』

ところが、空港専属のタクシーが市街へ走り出すと、外は暗闇である。とにかく街灯がない。時折、暗闇の中に人影が浮かび上がる。犯罪や交通事故が多発するのも、道理である。タクシーの運転手と、その相棒は陽気に雑談しているが、車外では雷が光っている。
これは、とんでもない国に来てしまった。この衝撃的な印象は、旅の後半にかけて、少しずつ、劇的に変化していく。

さて、予約してあったホテルの一階には大きなネオンサインがあって、クラブのような音楽が階上まで響いていた。古いホテルの周囲は真っ暗で、とても食事に出られる雰囲気ではない。
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仕方なく、ホテルの一階にある陰気なレストランで、夕食をとった。バイキング形式で、食べた分だけ、レセプションで料金を払う。
客は僕のほかには、老夫婦が一組だけ。ガランとしている。

レストランの隣にバーが併設されているのだが、とても近づく気にはなれない。『ブルーベルベット』かヴィスコンティの映画のような陰気なムードなのだ。シラフのまま、はやばやと寝てしまった。旅先で酒をのまずに寝たのは、おそらく初めてだろう。
そういえば、レセプションは女性たちが仕切っていて、無愛想というわけではないが、あまり熱心に仕事しているように見えず、レストランのボーイたちの陰鬱な表情だけをよく覚えている。

■11/3-1 ハラレ→ブラワヨ

朝5時にタクシーに来てもらうよう、前夜にお願いしてあった。空港~ホテル間は30ドルだったと思う。カードは使えないので、タクシーは現金払いだ。しかし、現金をまとめて持ち歩くのは怖いので、前夜に三つに分割しておいた。いつ盗まれてもいいように……。
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ハラレ市街をタクシーで通過する。なんとなく、ヤバい雰囲気が分かってもらえるかと思う。
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空港は、割とカッコいい建物であった。しかし、僕が使うのは国内便なので、もうひとつの地味な建物へ移動する。
手荷物検査があるのだが、係の女性に「私のこと、おぼえてます?」と声をかけられた。その瞬間から、旅のムードは一変する。

(つづく)

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