■0624■
1年以上にわたって準備してきた展覧会『日本の巨大ロボット群像』(■)、あちこちのニュースサイトに情報が載りはじめています。
ビジュアル・デザインは、植松久典さん。美術館に通うのが単なる趣味だったはずの僕は、なんとキュレーターとして招かれました。
一部媒体でフライング的に明らかにされたように、宮武一貴さんに巨大なロボット絵画をお願いしていて、その制作を見守るために、5月末から1ケ月近く、せっせと横須賀美術館へ通いつづけていたのでした。
■
東京でレギュラーの仕事を進めながらとはいえ、週に2~3日は海と山に挟まれた横須賀に滞在していたわけで、それは夢のような泡沫のような、リアリティの薄い非日常な日々だった。バスから見える壮大な水平線にも、いつしか慣れてしまった。
ホテルを出て6~7分ほど歩くと、駅前の喧騒から離れた喫茶店“かうひいや かーぼ”がある。
店名のセンスが、すでに70~80年代っぽい。合皮レザーの椅子、レンガ壁、そしてフュージョンというか打ち込みの薄っぺらい耳ざわりのいい曲の流れる店内。何種類かあるモーニングセットの中から、いちばん高い生野菜とロースハムのサンドを頼む。入り口ドアのガラス越しに、外光が差し込んでくる。「カフェ」なんかではなく、昭和らしい「喫茶店」。もちろん、新聞・漫画雑誌も本棚にぎっしり。
すっかりレトロな気分に染まって、ちょっと歩いたところにあるデニーズさえも、80年代風に見えてくる。西海岸というか、大滝詠一のアルバムジャケットのような、古き良きアメリカ文化の雰囲気……。デニーズの外装って、こんなに良かったっけ?と思う。
「ぺんぎんずばあ」というか「サントリー缶ビール」、「ダウンタウンソーダカムパニィ」とか、80年代のアルコール飲料CMの軽薄かつロマンティックな気分。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的なオールディーズ感。まあ、店内はガッツリと2023年ジャパンだと思うので、海岸通りに向かうアメリカンな空気感だけ味わっておく。
海岸通りを目指して寂しい道を歩くと海が見えてきて、海沿いのテラス席で、戦艦三笠を眺めながらクラフトビールを一杯やれるのである。頭の上は青空でいっぱい。
こうして、一つ所に留まることなく、あちこちへ旅するように仕事したかったはずなのに、毎晩居酒屋には行くし、金銭的な不安もなくはない。通知されてきた税金の高さには、いつも驚かされる。横須賀美術館へ行くたび、「毎日ご苦労様です。ハイ、出張手当一日一万円です」ってわけにはいかないのである。
いまの僕だったら、自分が何をやろうが楽しいわけだから、用務員や清掃員でも意義を見つけて、まあまあ前向きに取り組めるんではないかと思う。地味で寂しいのが好きだし、ほどほどに楽しめるんじゃないだろうか。若い頃のような「有名にならなくちゃ」って焦りもないし、結婚も海外旅行も経験できたし、もう人生にそれほど巨大な娯楽を求めちゃいない。
これからキュレーターになろうが、用務員になろうが、「自分が主軸」なので大して違わないとすら思いはじめた。
■
最近観た映画は『シカゴ』、ヒッチコック監督『逃走迷路』。
シリアスなサスペンスに見えて、実は支離滅裂なシーン展開で何度も何度もどんでん返しを続ける『逃走迷路』のアナーキーなスタイルには、驚かされた。ストーリーもテーマもなく、ただ観客の予想を裏切るため奇想天外なシーンを繋いだだけ。無理やりなロマンスもあるし、終盤でキーパーソンだったはずの人物が出てくる頃には展開が錯綜しすぎ、もう彼が何者なのか分からなくなっている。ヒロインが「それって誰だったかしら……」と言うのだから、確信犯だろう。
そうそう、ヒロインが「道路の看板のモデル」とかいう奇妙な設定で、今後の展開を暗示するかのようなキャッチコピーを刷った看板が随所に登場するのにも笑った。でも、これがエンタメなんだと思う。途中、あまりに面白すぎて泣きそうになったぐらい。「なーんだ、真面目に見ることないんだな」という開放感があるんだよね。ラストも、いきなりバツンと終わってしまうし、これでいいんだよな。
そして、しっちゃかめっちゃかな『ピアニストを撃て』は映画の形をしたヒッチコック論だったのだと、あらためて思う。
| 固定リンク
コメント