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ホビージャパンヴィンテージ Vol.10 明日発売
1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』放送、『ガメラ 大怪獣空中決戦』公開などを起点としたキャラクター文化の夢のような繁栄期を多数のプラモデルと共に振り返る40ページ巻頭特集の構成・執筆を行いました。
インタビューは『カウボーイビバップ』の南雅彦プロデューサー、メカニックデザイナーの山根公利さん。もう一本、平成『ガメラ』シリーズの怪獣造形で知られる原口智生さんにも取材しました。ツクダホビーのソフビキット、あんなにお金のない時期だったけど、ちゃんと八王子の模型屋で買って組み立てたんだよなあ……と、ちょくちょく書いているように、苦しいアルバイトで貧乏暮らししていた90年代がものすごく懐かしい。なので、この特集には、当時の風俗や流行もなるべく掲載しました。
(地下鉄サリン事件は、八王子の模型工場でアルバイトしているとき、ラジオで聞いた。そのアルバイトは時給1000円で、他のバイトたちより多くもらっていたのに、それでも3食100円の焼きそばを友達に買ってきてもらって、毎日そればかり食べていた。その友だちは奥さんの実家に住んでいたので、晩御飯に呼んでくれたりもした)
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ようやくライター業にありつけたのは1998年、『ガンダム』20周年の前年。それまではテレビで『Gガンダム』や『∀ガンダム』を見て、アルバイト代でオモチャやプラモを買っていた。『Vガンダム』の頃は、すぐ近所に住んでいた女友達に録画してもらっていた。
その人とは、互いの家で安酒を飲んだりして、クリスマスには彼女の友だちと3人でパーティーしたことさえあるのだから、貧乏とはいえ割と楽しかったんではないか……と、まるで他人の人生を覗き見ているような不思議な気持ちになる。
何が苦しかったかといえば、自分は本当は映画監督(というか何か凄いクリエーター)になるべき才能があるのに、誰からもぜんぜん認められてない……という自己肯定感の低さなんだろうな。25歳のときに彼女ができて、僕のシナリオを読んで「凄いじゃない、もうプロ並みだね」と誉めてくれたけど、ぜんぜん価値がないと自分で分かっていたから、余計に苦しくなった。恋人だからって内輪受けでシナリオを誉めてもらって、恥ずかしくすらあった。
「こんな程度の低いシナリオを誉めてしまうような女と付き合っていたら、さらに自分はダメになってしまう」という不安が強まり、その恋人とは1年ぐらいで別れてしまった。あれほど彼女が欲しくて誰にでも声をかけていたくせに、いざ女が出来ると不満しか出てこない。
枯渇感・飢餓感を自分で再生産しているというか、わざわざ苦しくなるほうへ自分から向かって行って、「ホラな、やっぱりダメだったろ?」と不幸を確認して、そこに安住していたんだと思う。本気じゃないというか、本当は何をどうしたいのか考えていない。
人生には何か難解で崇高な答えがあって、何かしらの困難な方法によって、この脆くて傷つきやすい自我が救済されねばならないと、30代前半まで信じていた。「いつまでたっても一向に救われない自分」に酔っていた。だから、よく泣いていた。何もかもが、つまらなかった。
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先ほど書いた『Vガンダム』を録画してくれていた女友だちは、僕の嘆き癖をよく見抜いていて、恋人ができるたび「結局、きみもマイホームパパ、平凡な人生か」と揶揄してきた(当時は、FAXでよくやりとりしていた)。無論、僕が結婚する時にも、精一杯の嫌みを言っていた。確かにその後、離婚したり何だりで、ひとりで海外へ行くのが楽しみな人生になったのだから、女友達の言うことは大当たりだったのだ。
女友達は、僕のパニック発作にも理解があって、取材で人と会わねばならないと電話で告げると,「じゃあ、お薬いっぱい飲まないとね」と精神安定剤のことを肯定的にとらえてくれていた。今ここにいる自分を否定せず、精いっぱい楽しむしかないのだと、あの人には分かっていたんだろうな。
壮絶にオンチな僕のことを笑わず、よくカラオケにも行っていた。「じゃあ、20代のころ楽しかったんじゃん!」と、我ながら思う。
その女友達は旅行作家になって、今でも本を出しつづけている。
「〇〇君(僕につけられた仇名)も、海外へ行けばいいのに」と、よく言っていた。彼女に言われた通り、離婚後の僕は海外旅行を大好きになったのだから、羅針盤はそっちを指し示していたのだ。きっかり30年前の話である。思い出しながら、唖然としている。
あの絶望的な貧乏時代に、「こっちへ行けば脱出路があるぞ」と道は示されていた。だのに、僕にはそれが脱出路に見えなかった。
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プレイステーションのギャルゲーを買って、西八王子駅南口の古本屋で安い本やCDを買って、少しでも知識を増やして……そうこうする間に、30歳をすぎてしまった。
八王子~豊田の低賃金の工場、アルバイトでしか稼げないと信じていた沢山の人たち。彼らを乗せたバス。あの小さな世界が、今では不思議と愛らしい。その後につづく、牢獄のような結婚生活すら、ふいに愛おしくなるのだから人生は面白い。自分を肯定すると、過去がすべてポエムになる。
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最近観た映画は、変わった邦画『ケイコ 目を澄ませて』、『TANG タング』、あと仕事関係で『ジャスティス・リーグ』など。
ドン・バージェスが撮影監督をした『フォレスト・ガンプ 一期一会』も再見したが、『キャスト・アウェイ』とは演出に明確なスタイルの違いがあって、共通点は見つけづらかった。
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パニック発作で、初来店時には猛烈に発汗してしまった喫茶店、3度目に行って来た。
小学生の頃に自転車で通りすぎた道、中学~大学にかけて犬を散歩させた道が、水槽の向こうに沈んでいるかのような静寂に包まれている。その向こうでは、物理的でない雄大な時間が流れている。それは死を内包した、永遠の時間とも言える。
一万円で買ったバッグが壊れてしまったので、駅前のカバン専門店で18,000円のカバンを買った。
そのカバンを背負って歩くこれからの時間を買うつもりで、ケチらずにお金を使う。服でもそうだが、「本当に欲しかったのはコレじゃない」と思って歩いていると、毎日が暗くなる。未来へ投資するつもりで買う。
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