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先週は、出版社の方にお酒をご馳走になった。しかし、ほぼ初対面の人と飲酒するのはハイレベルな交遊術で、酔っぱらうにしたがって、会話内容や食事に対する態度がルーズになっていくのが自分でも分かる。
いかに酩酊しながら自分を律していけるか、試されている気がした。僕は毎日ひとりで好きなように生きているので、人との距離感が分からない。
その前日、いつもの店にモーニングを食べに行ってコーヒーをおかわりして、玉川上水の緑が晴天の下で輝くようだったので、そのまま井の頭公園まで散歩した。
すると、ちょうど休憩所が開店の時間で、お姉さんがアルバイトの女性に開店準備の手順を教えているところだった。
スポーティな雰囲気の中年男性が明るく挨拶しながら入店していったので、僕も彼に続いた。さすがに、平日の午前11時から飲んだら嫌な顔をされるかな?と危惧したが、後から入店してきたオジサン2人組、若い夫婦、どのテーブルでもビールを開けていたので、これで良かったのだ。
窓の外には、新緑が青々と広がっている。信じられないぐらい、毎日を自由にのびのびと生きている。遠い昔に見た夢の中のように感じる。
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翌日は、すみだ北斎美術館へ。
下町風情の残る、ちょっと辺鄙な場所にあって、周囲には建物を面白く使ったハイセンスな店舗が散在している。
御茶ノ水のビル1階、テラス席のあるビアホールでIPAを2杯頼んだ。
まだ16時だが、だからこそ飲む価値がある。頭のうえに広がった夕空を眺めながら飲んでいると、女性の一人客がテラス席に陣取り、料理とビールを注文した。
そう、堂々と振る舞えばいい。僕の自由なふるまいに感化された人たちが、「じゃあ自分も……」と解放されていくのだから。
御茶ノ水といっても、ニコライ堂を経由して外堀通りに面した店である。そのまま、17歳~18歳ぐらいのころ通っていた御茶ノ水美術学院を横切って、かえで通りに出る。
しっとりとした、静かな通りだ。
実はあの頃、予備校にはカバンだけ置いて、半分以上をサボっていた。僕の絵に対する興味や情熱なんて、その程度のものだった。自分を誤魔化していたから、そのまま20代後半になっても人生が重たくてつまらなくて、どこへ行って何をしたいのか曖昧なままだった。
逃げるようにして、高校がえりに好きだった女子と一緒に御茶ノ水周辺を歩き回っていた。その風景に愛着はあるが、今となっては甘い思い出ではない。人生後半がおおらかで自由になればなるほど、あの頃のことを思い出すことも少なくなるんだろう。
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38歳で離婚したときから、僕の人生が始まった。
2005年ごろだから、その時期の音楽や映画は懐かしく感じる。離婚直前は2ちゃんねるに逃避していたから、あの時代のネット文化も好き。
横浜市戸塚から三鷹へと、居住の拠点が代わっていく。どんどん捨てていく、どんどん足どりが軽くなる。確かに寂しくはあったのだが、それは心地よい孤独であった。静かな景色がどうして美しいのか、寒さを知った分だけ理解できるようになった。
どんどん、一人になっていった。仕事に執着せず、人と争わず、懇意にもなりすぎず、孤独になればなるほど、静かで穏やかな気持ちが流れこんできた。同じ景色が、前よりも美しく見えるようになった。その自由な心のかたちこそが、何にも代えがたい財産だ。
僕は、この空っぽの人生を、質の高い時間で満たそうと試みるようになった。
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「スープストック」は女性の“聖域”だった? 離乳食無料に賛否も…炎上の理由は(■)
この炎上は、僕の知ったときには鎮火しつつあった。この件に顕著なように、飲食店のハードルを下げると、結局は妬みぶかい低レベルの客に合わせることになってしまう。
彼らは自分から追及して意識を高めることはせず、「調理のしかたが自分のときだけ雑だった」「料理の量が自分のときだけ少なかった」等と不平等感にこだわり、「自分だけガチャが外れた=運が悪いだけ」と、いじけた納得のしかたをしようとする(彼らは「損」「ズル」という概念/感覚にとらわれているので、すぐ分かる)。
それが不幸になる回路なのだ。「人間は平等なはず」と妄執すると、その硬くて狭い平等の範囲内だけが「正解」となって、人生の価値観が小さく固着してしまう。ある部分では確かに損しているかも知れないが、別の部分では不当なほど、圧倒的に優遇されている……つまり、人間の不平等さを認めて逆に利用すればいい。
全国チェーンやフードコートのように人がたくさん集まっているところには、貧乏や不幸へいたる回路が必ずある。それを見つけて避けられるかどうかだし、そもそもそういう店には近づかないのが最良だろう。
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最近観た映画は、『祇園の姉妹』『鳩の撃退法』『イエスマン “YES”は人生のパスワード』。
『祇園の姉妹』は大学時代にも観たが、映画は見るたびに関係性が変わる。価値観は自分の外側にあるのではなく、内側に生じるもの、自分で更新するものだと思う。
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