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2022年12月 6日 (火)

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昨日は凍えるような寒さではあったが、仕事の素材が届かず家でやることがないので、渋谷へ行ってきた。Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・クワント展」。
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まったく知らない服飾デザイナーではあるが、展示は狭い会場を華やかに色分けして、実際の衣装と平面資料を織り交ぜて、魅力を強烈に押し出していた。ドレスも靴も、色づかいが温かくて元気がある。解放的だ。くどくどした説明や気どった雰囲気がないところも良かった。
自分だったらどっちの色がいいか、どの柄が好きか考えながらウロウロするのが楽しかった。


海洋堂が渋谷PARCOにポップアップストアを出していたので、そこに立ち寄ってキットを購入。
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続いて、PARCOから歩いてすぐの場所にあるTAP&CROWLER渋谷店へ。
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週に3回も行っているのだからクラフトビールを飲みすぎかも知れないが、博打のような楽しさがある。
自分の中に「あの味」という理想像があり(それは横浜の公園通りで飲んだ銘柄で、名前も調べてある)、少しでもそれに近い味を探し当てようとしている。そのものズバリの銘柄を買ってきてはダメなのだと思う。
理想を目指しながら、ちょっとずつ現実に出会って、理想の精度を高めるか着弾点をずらす。もやもやとした理想自体に手を加える。そもそもの出発点を作りかえる、いわば自分を騙していくのである。妥協とは違う。「理想を追っていたくせに、わざわざ理想を裏切る」と言ってもいい。
その狡猾さと奔放さは、恋愛にも似ている。だから、ちょくちょく飲みたくなる。やはり、賭けに近い遊びなのだろう。

この日は値段が1000円することもあって一杯で帰ったけど、スーパーで安く売っているクラフトビールが、また別の面白さを持っていることに気がついてしまった。流行っている、ということでもあるのだろう。


そういえば、Bunkamuraへ行くまでの道で喫茶店を検索して、Googleマップで「眺めがいい」と評価されていた店へ寄ってみた。円山町のホテル街を抜けた先、映画館の複数入ったビルの一階だった。
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テラス席をビニールで覆ったような席に着くと、店のお姉さんがストーブを点けてくれた。底冷えするような雨模様で、通りの向こうには駐車場が広がっているだけ。その寂寥とした眺めに、むしろ安堵をおぼえた。
コーヒーは出来合いのものだし、チーズトーストは市販のチーズをレンチンしただけで、ジャンクな雰囲気を高めてくれた。30代の前半は、渋谷のこの辺りで打ち合わせだとか飲み会だとかを頻繁にやっていて、半分ぐらいは酔っぱらっていて記憶にないのだが、ここには書けないような恥を無数にさらしてきた。その流れの中で、後に結婚する人とも知り合った。
暗雲に蓋された、濁った記憶の眠る町に、不思議な安堵をおぼえる。まだ青年と呼べる年齢で、苦しいながらも夢を信じていた。……今こうして対岸から振り返ると美しいのだが、何も実現できなくて、知識も経験も足りなくて、当の本人は毎日が苦しくてたまらなかった。夢に逃避するしかなかったのだ。


最近観た映画は、『静かなる男』と『血の祝祭日』。
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『静かなる男』のラスト近く、ジョン・ウェインが列車で逃げ出した妻(モーリン・オハラ)を連れて帰る。夫は、強引に妻の手を引いて歩く。引っ張られていやいや歩く妻は、ホームに置かれた鞄を飛び越える。同じカットの中で、もうひとつ荷物を飛び越える。さらに、建物の門に置かれた荷物をトントンと登る。とてもリズミカルに。
その後、妻は夫にズルズルと引きずられてしまうのだが、そこは美しくない。障害物を飛び越えるほうが、夫の強引さとそれに無理やり合わせている妻の立場を、スマートに見せられている。
「事実と表現は違う」と思う。夫が妻を引きずって歩く姿は「事実」でしかなく、「表現になっていない」のだ。このニュアンスは、言葉にしづらい。(余談だが、表現規制したがる人たちは、ここでいつもつまづいている。胸の大きく描かれた女性キャラクターの「胸が大きい」という事実しか見ておらず、それが「表現された」部分を丸ごと無視している。「わざと皮肉っている」「あえて誇張している」という工夫の部分が見えない、「自分には見えないものがある」とすら思っていないのだ)

難しいからこそ、真摯に向き合って言語化する必要があるのだろう。覚めた、白けさせる結果が待っていたとしても、目を背けて黙っているよりはマシと思える。

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