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昨日土曜日は、都心の美術館は避けて、練馬区立美術館へ。『平子雄一×練馬区立美術館コレクション inheritance, metamorphosis, rebirth [遺産、変形、再生]』、なんと一部屋に一枚の巨大絵画のみ、あとは同館コレクションから数枚という大胆な展示。
この美術館に来るたび気になっていた喫茶店、REINO COFFEE STOREに入ることも出来た(美術館から徒歩2~3分)。
窓際の一人がけの席に座ったが、本当は陽だまりのできているソファに座りたかった。しかし、そこにはエレガントな装いの女性が座っていて、その隣に座る勇気はなかったので、遠慮した。席には多様性があり(テラス席もいくつかある)、店内に大きな木が植えてあるのも良かった。
帰りは、以前に途中下車して気に入った阿佐ヶ谷北四丁目のあたりを歩いてみる。駅からは離れているので静かだし、個性的な店が多い。喫茶店もたくさんある。
すると、骨董品屋のガラスの向こうに犬がいて、僕がのぞき込むと立ち上がって尻尾を振って、はしゃぎはじめた。
ドアの前に座って、「開けて入ってきて」と催促するのだが、まさか犬に触わるためだけに日本刀や着物を扱っている高級な店へは入れない。無視するのも可哀そうだし、どうしようか考えた。すると、若い夫婦連れが通りかかり、犬はその人にも反応していたので、誰にでも懐くのかも知れない。
子供のころに飼っていた犬たちには、十分にいい思いをさせてやれなかったので、後悔がある。彼らは、たまに夢に出てくる。
そういえば、行きの電車とバスの中では緊張感から発汗して、あわてて薬を飲んだり途中でホームに出たりした。
どこでどう緊張するかは予想できないが、今回は僕がペットボトルの水を飲んでいたため、向かいの席の幼児たちが親に「喉かわいた」と言ったことがトリガーになっていた。子供の前でそういう姿を見せるべきじゃなかった。
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陽光のなか、阿佐ヶ谷北から歩いて、駅近くの20TAPSへ寄ってみた。若い店主のおススメの仕方はツボを心得ていて、つい3杯も頼んでしまう。
この店はビール工房という系列の店らしいが、阿佐ヶ谷北国のごみごみした猥雑な雰囲気に、とてもよくマッチしている。土曜の14時台、見晴らしのいい2階席には僕しかいない。のびのびとIPAを各種試せる。値段は620円ぐらいからだから、高くはない。
実は一昨日も吉祥寺で飲んだばかりなのだが、二日酔いになってしまった。1軒目は「お客様、マスクは?」の第一声からして不愉快だったし、最後に立ち寄った店は薄暗い地下にあって、昼間から飲むありがたみがない。解放感がなく、店員の対応は機械的だった。
酒もドラッグなのだから、「セット・セッティング・投薬量」が適切でないとダメージにしかならないという勉強になった。その手の無神経な店は、例外なく値段も高い……というより、「割に合わない」と感じさせる要素が必ずあるのだ。店主の態度、窓の有無、店の広さ……慎重に選べば、この上なく贅沢な時間が過ごせる。それを分かっているからこそ、選択を間違えると自己嫌悪に陥るのだ。
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最近観た映画は『ミッドナイト・ガイズ』と『ヒート』。どちらも、アル・パチーノ主演だ。
凝ったプロット、適切なアクションとサスペンスを入念に配置した『ヒート』のほうが頭のいい映画だ。しかし、『ミッドナイト・ガイズ』の間が抜けていると言ってもいいほどの緩さに、かなり心が癒された。
3人の元ギャングたちが老境に差しかかり、いわば死に場所を探して歩く。ドラッグや車を盗み、顔なじみの売春宿で(次から次へと美女が登場し)絶倫ぶりを誇示したりする。そうした他愛のない都合のいい出来事が、ほぼ何の障害も葛藤もなく進行していく。その一切が、(まるで僕のキャバクラ遊びのように)たった一夜のうちに起きる。その現実感のない、一夜の夢のような構成もいい。ミシェル・ゴンドリーの現実逃避的で甘口なファンタジーにも似ている。
最も痛快なのは、盗んだ車に暴行された女性が閉じ込められており、行きずりで出会った彼女を助けて、顔も知らぬ暴行犯たちに報復するシークエンスだろう。強きをくじき弱きを助けるヒロイズムが、都合よく実現される。やっぱり、ファンタジーなのだと思う。
カット割りに意味があるとか、構図に暗喩が込められているとか、最早そういうものはどうでもいい、一種の彼岸に属する映画なのだろう。つまり、レーンから降りた試合放棄した映画ーー。
「この世に生まれてきたのに、楽園に住まないでどうする?」……これが僕の心情だ。それは他人から称賛や尊敬を集めたり、他人の認める価値を自分の身にまとわせることではない。自分の信じる、自分の蓄積した価値観の中で高みを目指すことだ。
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