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12日月曜日は、午前中から横須賀美術館で打ち合わせだったので、横浜駅近くに前泊した。
前日夜は、もちろん居酒屋を探すのが楽しみなのだが、料理だけでなく店の雰囲気、接客すべて丁寧で素晴らしいお店って、お客さんも品がいい。子供がいても、別にうるさいとは感じない。
僕の隣には、20~30代の女性たち4人が座った。そのうち一人の誕生日を祝う宴のようだ。当人は「〇〇じゃねえか」「そうじゃねえだろ」と男っぽい口調で話していたが、不思議と耳ざわりではない。ふんわりと、柔らかく聞こえるのである。
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横須賀美術館での打ち合わせ翌朝は、ほぼ同じメンバーで新宿で打ち合わせ。
僕だけ、そのまま国立近代美術館へ向かった。企画展の大竹伸朗展はさして面白くなかったが、コレクション展はかなり入れ替わっていて、新鮮な気持ちで堪能できた。
ソリッドな抽象画は、世界に対して謙虚であるように感じる。主張に乏しい分、表現としての純度が高い。
雨の中を歩いて、神保町のクラフトビール屋を尋ねてみたが、どこも営業していないようである。そのうち、雨があがって日が差してきたので、東京ドームシティのビアスタンドへ足を伸ばす。
以前は「外でビールを飲める店」という感覚でしか捉えていなかったが、ここはクラフトビールを出すのだと気がついた。と言っても、三種類しかないのだが。
言葉も出ないほど美しい雨上がりで、寒いけど、総武線で信濃町に降りた。
信濃町のシェーキーズのテラス席へ座ろうと思ったが、期待したほど光線の具合が良くない。一駅歩いて、もう何度か訪れたGOOD MORNING CAFE NOWADAYSのテラス席へ落ち着いた。ここでも、IPAが飲める。
店のお姉さんがストーブを点けたり、クッションを持ってきたり気をきかせてくれて、冬らしい寂しい夕暮れを楽しむことができた。
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さすがに翌日は家の近辺でノンアルコールで過ごして、木曜日は国立新美術館の「Design Musium Japan」展……入場無料のせいか、単調でつまらない。
そのまま六本木ヒルズまで歩いて、森美術館へ行った。「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」展。マスクをできないか聞かれたが、「出来ないんですけど」と口ごもったら、「咳をするときはハンカチで口を覆うなりしてください」、これだけで入れる。
いかにも「どうですか、変わってるでしょ? これがアートなんですよ、ねえ面白いでしょ!」と言わんばかりの作品のなか、玉山拓郎氏の作品は墓場のような異様な厳粛さに満ちていた。真っ赤な照明のなか、黒い木製のオブジェが部屋のなかに詰まっており、「ズーン……」と地響きのような音が鳴りつづけている。
不吉な感じがするので足早に立ち去る人が多かったが、僕は2度入った。
会場を出た眺めのいい部屋にある、久門剛史氏のインスタレーション。
部屋の隅の電球はひっそりと点滅し、天井に吊るされた電球は振り子のように揺れている。室内にはジャングルの動物たちの声が響く。
優れた作品は、人工物を介して自然に帰ろうとする。あるいは、記憶や深層意識に訴える。心地よく感じるものは、すべて身体に属しているような気がする。
帰りは、国立競技場駅で乗り換え、千駄ヶ谷駅からすぐのモスプレミアムで「インドの青鬼」を飲んだ。缶からグラスに移しただけだろうが、歩きながら「このあたりのケヤキ並木を眺めながら飲みたいな」と思った、その思いつきのオーダーにはしっかり応えてくれた。小規模ながらテラス席があって、ストーブも点けてくれるのだ。
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翌日は、つまり昨日だが、わざわざバスに乗って松井商店へ行った。いつものように、天窓から日光が降りそそぐ。
僕のマイナンバーカードが三鷹警察署へ届けられていたので、それを取りに行くのが主な用事だったのだが、バスを乗り継いで井の頭公園の松月で飲んでしまった。(松月の新しいバイトの女性にも、顔を覚えられていた)
ということは、1週間に3度も昼飲みしてしまった。その代わり、夜は飲んでいないのだが、Facebookに昼飲み・夕飲みの写真をアップしても「いいね」が付かないことが多い。普通の人から見れば、遊んで暮らしているようにしか見えないだろうし、「けしからん」と思うかも知れない。
月の半分ぐらいは本を作っているはずだが、自分でも毎日が日曜日のような平穏な暮らしが出来るとは思ってもいなかった。銀行に何百万も貯金があるわけじゃない。百万あれば多いほう。残金20万でも50万でも、毎日の暮らしは変わらないのではないだろうか。
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電車の発車ベルが鳴ると、猛ダッシュする人がいる。ほとんどの人が、そんなに急がなくても次の電車で間に合うはず。
ダッシュする人は「一本早く乗れた」「得した」という、短いスパンの小さな満足感を繰り返すことによって、長いスパンの大きな満足感を打ち消してしまって、ゆったりと満ち足りた人生の過ごし方に気がついていない。大きな満足ほど現れるのが遅いから、それを待ちきれないのだ。
クーポン券、ポイント、「実質0円」、どれも同じ「小さくて短い満足」だ。発車ベルで走り出す人は、まずその癖をやめてみたら人生が変わると思う。
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最近観た映画は『ラストナイト・イン・ソーホー』、『フェイシズ』、『トコリの橋』。
『フェイシズ』は、カサヴェテス得意の手持ちカメラで、酔っぱらって騒ぎつづける男女の顔をクローズアップで追い続ける。だが、彼らのふざけ方が幼稚で、しかも一時間ぐらい延々と続くため、途中で何度か止めた。
『こわれゆく女』も『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』も、すごく面白かったのに、『フェイシズ』は分からないなあ……。
『トコリの橋』は配信していないので、中古DVDを買った。実際の空母や戦闘機を大量に使った、いわばメカニック映画。50年代らしいスクリーン・プロセスを駆使しながらも、実写のカットと綺麗につながっている。ストーリーは空疎だが、表現として固有のスタイルを持っていると思う。
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