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2022年12月29日 (木)

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23日、先週の金曜日はアーティゾン美術館へ。企画展「パリ・オペラ座 ー響き合う芸術の殿堂」は大したことなかったが、コレクション展には唸らされた。
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狩野典信の「松梅図屛風」は金田伊功か板野一郎かと思うほどスピード感と動きがあって、左側で爆発が起きて、爆風がフレームから上へ外れ、今度はミサイルの軌跡となって画面右側を飛び交っているように見える。横長の構図の中に、時間が生成されている。

東京ステーションギャラリーは「マスクを着けられないのであれば、代わりに……」と何やら細かいことを言われたので入らず、八重洲口へ戻って常陸野ブルーイング・ラボ Tokyo Stationの開店時間を待った。
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ここなら、暮れていくビル街を眺めながら飲める。15時台から、酒盛りする男性客が二組もいる。一杯だけ飲んで、サッと帰っていく女性もカッコよかった。
翌日のクリスマスイブは吉祥寺駅南口で、ふだんは16時以降からしか開いていないRogueで一杯。窓際の席に座れたが、なんか今ひとつ風流に欠くので、そのまま松月へ歩いて一番搾りの中瓶と肉シュウマイ。
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日曜日のクリスマスは、珍しく昼間から団体客でにぎわう三鷹南口のBeer shop Llamaへ。
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クラフトビールはタップから注いでもらってナンボだろうと思うのだが、店内の冷蔵庫から缶や瓶のビールを買う客がいて、缶を選んで店内で飲むという面白さを覚えてしまった。
翌日月曜日は、夕方まで吉祥寺で打ち合わせがあったので、前から興味のあった吉祥寺タップルームへ。
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この店は、店主が西洋人。いろいろ説明してくれるのだが、半分ぐらい英語に聞こえる(笑)。ここでも、瓶で一本頼んでしまった。


さすがに一日休んで……と言いたいところだが、スーパーやコンビニで安く売っているIPAも悪くないと気がついて、火曜日は家で飲んだ。それでも二日酔いにはならない不思議。
昨日28日(水曜日)は、東京都美術館のコレクション展を観に行った。しかし、お目当ては以前にも行ったことのある谷中ビアホールだ。今回は「クラフトビールを飲む」ことに意識が傾いているので、店の価値も変わって見える。
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しかし、3/4パイントでも1000円以上とお値段だけ高くて、味も雰囲気も今ひとつ。今後は素通りすると思う。
古民家を改装した店内は、外国人観光客で大賑わい。隣の席の日本人の女性二人が「めっちゃ」を連発しながら雑談していた。ユーチューバーとお笑い芸人の話題、『すずめの戸締り』でめっちゃ泣いた、でもネタバレになるから内容は言えない等々……が、片方が一方的にしゃべりつづけていて、もう片方が聞き役であることが横で聞いていると分かる。

いかにも楽しそうな会話に聞こえるけど、本当はそんなに仲良くなくて、「この前、友だちと谷中で遊んだ」「あの子とは仲いい」という事実が欲しいのだと思う。意地悪なことを言うけど、人間関係なんてそんな程度のものだ。世の中のたいていの人は、「一人である」状態に耐えられない。こんなに自由で楽しいのに……と思うのだが、ようするに多くの人たちは不幸でも孤独でもなく、自分の持っている幸せに「気がつかない」「幸せを幸せだと認識できない」だけなのだ。
幸せを感じるのは能力であり、センスであって、磨かないと錆びていく。センスが発達すれば、幸せの概念だって変化していく。


こんな面倒なことを考えてしまうのは、谷中ビアホールが「見栄」を喚起する小洒落た店だからだろう(と店のせいにしてしまう)。
観光客でごった返す谷中銀座をくぐり抜けて、いつもの中華料理屋へ落ち着く。
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入ってすぐのところに、4~5人ぐらいの家族が宴会しており、あとは女性の一人客がポツポツ。15時台では混んでいるほうだ。
80歳ぐらいのお母さんが注文をとりにくるのだが、餃子5個を二皿も間違って持ってきた。僕の餃子3個は、その間違って作ってしまった餃子を転用したせいか、いつもより早く出てきた(笑)。隣の女性客が、かた焼きそばか何かをずーっと待ち続けているので、あまり美味しそうには食べられない。(この女性は注文の品が来ると、音もなく綺麗に食べ終え、会計に立つ振る舞いも洗練されていた。食べ物関係では、特に品位が出る)

今年たまたま見つけたこの店では、不愉快な思いをしたことが一度もない。いつも、CDで古い洋楽(ギルバート・オサリバンやルイ・アームストロング)が流れていて、懐かしいような永遠のような……もっと言うと、「あの世」というか「楽園」の雰囲気がある。今日が死ぬ日なら、最後はここで飲みたい、といった気持ちになる。商店街の喧騒から外れた、人通りの少ない駅の近くという寂しいロケーションも好き。
そんなこんなで一週間七日間、休まず酒を飲んでしまった。確かにクラフトビールは一杯1000円前後するのだが、それで暮らしが脅かされるほどではない。一番安い酒を大量に飲む、それが節約であり「お得」なのだ……という考え方こそが、貧しさの正体だと思う。


最近観た映画は『白蛇伝』、それから『安寿と厨子王丸』、『わんぱく王子の大蛇退治』、『ちびっこレミと名犬カピ』。芹川有吾監督の作品を、集中して見てみた。ことに、『ちびっこレミ~』は人間たちのシリアスな絵柄と動物たちのコミカルさの共存が素晴らしく、息を殺して見入ってしまった。
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この時代は、子供が(文化的な意味で)とても大事にされていたのではないだろうか。

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2022年12月22日 (木)

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20日(火)は、東京都現代美術館へ。「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展は大したことなかったが、コレクション展が大幅に入れ替わっていた。
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火薬を利用した、蔡国強氏の作品。まるで異星人の書いた設計図のようで、横長の作品が2枚続けて展示されていて、シンプルな力強さがあった。木を炭化させた遠藤利克氏の作品と同じ空間に置かれることで、火を使った作品という共通点が浮かび上がる。
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撮影禁止だったが、デイヴィット・ナッシュの朽ちた木を直線的にカットした作品もサイズが大きくて良かった。その作品の前を歩きすぎるのは数秒かも知れないが、それはストップウォッチで測られた数秒ではない。作品に刻まれた数百年の時が加算されているのだ。
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美術館のすぐ裏手にある、WORLD NEIGHBORS CAFE 清澄白河へ。缶ではあるが、公園に面したテラス席でクラフトビールを飲める。グラスも出してくれた。また14時台。15時からはビールが安くなるようだが、早い時間から飲めるのがいい。
下校中の小学生二人組が「ビール飲んでる人がいる」と、ボソッと話しながら帰っていく。テストの点数が30~40点しかとれなくても、自由な大人になれば昼間から外で飲めるのだ。


バス通りに出て、新橋行きのバスに乗る。途中、天王洲アイル近くに立ち寄ることもできたのだが、豊洲駅近くのビール屋へ行ってみたくて、豊洲で下車。
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お目当ての店は閉まっていたが、すぐ近くにこんな良いテラス席を見つけた。時間は15時半ぐらい。そろそろ夕暮れが始まっている。良いタイミングだ、天王洲アイルで下車しなくて正解だった。こういう時の自分の勘、運のよさ。いつも「なるべく良い場所で飲みたい」と目を光らせているから、こういう場所が向こうから気づかせてくれるのだろう。
そして、僕がストーブにあたりながら飲んでいると、一組、もう一組と新しく客がテラス席に座る。いい広告塔になっていると思う。反面、客が並んだり予約したりするほど有名な場所ではない。もしそうなったら、僕はまた別の場所を探す。
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母が亡くなって、もうじき12年。時には怒ったり嘆いたりしながらも、ひたすら実務、実務でマイナス状況を切り抜けた。葬儀屋などに支払っても困らないだけの貯金があったのだ、毎月の定収なんてなかったのに。
人に助けられたが、根源の部分では普通に暮らしている平凡な人たちには期待しなくなった。その頃から、少しずつ一人で満足できる人生に、コツコツと手を加えつづけた。海外旅行も、その一環だ。改良しなければ、物事は良くならない。べったりと相手に頼らず、いつ裏切られていも驚かないよう心を鍛えておく。
その末に手に入れた孤独は、いま僕に穏やかな毎日を過ごさせてくれている。


最近観た映画は『赤い河』、『ハーフ・ア・チャンス』、『道化師の夜』、『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』など。
まずは、ハワード・ホークス監督の1948年作品『赤い河』の壮大な映像に魅了された。
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男の友情が、恋のさや当てが……という「物語」はどうでもよく、この映画の「テーマ」はフレームの中を、地平線の彼方まで覆いつくす何百頭という牛の大群だろう。河を渡るシーンでは馬車の中にカメラを持ち込んで臨場感を出し、暴走するシーンでは牛たちが馬車を破壊してしまう。一体、どうやって撮ったのだろう? 
その奇怪な、過剰な生き物の群れを、何故ここまで執拗に撮るのか? それが、この映画のテーマだ。ラスト近くなっても、5カットも6カットも、主要人物そっちのけで牛の大群を撮りつづけるのは、それが視覚的に気持ちいいからだろう。

『セバスチャン・サルドガ』は世界中の悲惨な状況下で報道写真を撮りつづけた男の、朴訥としたモノローグが印象に残る。
彼は歴史を俯瞰的に見ているのではなく、自宅でニュースを見ている我々と同じように、唐突に状況に出くわす。詳しい歴史背景は語られない。だから、ショッキングな写真と簡素な解説が、実体験として濃厚に迫ってくる。ヨルダン行きの前に、アラブ人について書いた本を読もうと思った。

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2022年12月17日 (土)

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12日月曜日は、午前中から横須賀美術館で打ち合わせだったので、横浜駅近くに前泊した。
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前日夜は、もちろん居酒屋を探すのが楽しみなのだが、料理だけでなく店の雰囲気、接客すべて丁寧で素晴らしいお店って、お客さんも品がいい。子供がいても、別にうるさいとは感じない。
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僕の隣には、20~30代の女性たち4人が座った。そのうち一人の誕生日を祝う宴のようだ。当人は「〇〇じゃねえか」「そうじゃねえだろ」と男っぽい口調で話していたが、不思議と耳ざわりではない。ふんわりと、柔らかく聞こえるのである。


横須賀美術館での打ち合わせ翌朝は、ほぼ同じメンバーで新宿で打ち合わせ。
僕だけ、そのまま国立近代美術館へ向かった。企画展の大竹伸朗展はさして面白くなかったが、コレクション展はかなり入れ替わっていて、新鮮な気持ちで堪能できた。
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ソリッドな抽象画は、世界に対して謙虚であるように感じる。主張に乏しい分、表現としての純度が高い。

雨の中を歩いて、神保町のクラフトビール屋を尋ねてみたが、どこも営業していないようである。そのうち、雨があがって日が差してきたので、東京ドームシティのビアスタンドへ足を伸ばす。
以前は「外でビールを飲める店」という感覚でしか捉えていなかったが、ここはクラフトビールを出すのだと気がついた。と言っても、三種類しかないのだが。
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言葉も出ないほど美しい雨上がりで、寒いけど、総武線で信濃町に降りた。
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信濃町のシェーキーズのテラス席へ座ろうと思ったが、期待したほど光線の具合が良くない。一駅歩いて、もう何度か訪れたGOOD MORNING CAFE NOWADAYSのテラス席へ落ち着いた。ここでも、IPAが飲める。
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店のお姉さんがストーブを点けたり、クッションを持ってきたり気をきかせてくれて、冬らしい寂しい夕暮れを楽しむことができた。


さすがに翌日は家の近辺でノンアルコールで過ごして、木曜日は国立新美術館の「Design Musium Japan」展……入場無料のせいか、単調でつまらない。
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そのまま六本木ヒルズまで歩いて、森美術館へ行った。「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」展。マスクをできないか聞かれたが、「出来ないんですけど」と口ごもったら、「咳をするときはハンカチで口を覆うなりしてください」、これだけで入れる。
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いかにも「どうですか、変わってるでしょ? これがアートなんですよ、ねえ面白いでしょ!」と言わんばかりの作品のなか、玉山拓郎氏の作品は墓場のような異様な厳粛さに満ちていた。真っ赤な照明のなか、黒い木製のオブジェが部屋のなかに詰まっており、「ズーン……」と地響きのような音が鳴りつづけている。
不吉な感じがするので足早に立ち去る人が多かったが、僕は2度入った。

会場を出た眺めのいい部屋にある、久門剛史氏のインスタレーション。
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部屋の隅の電球はひっそりと点滅し、天井に吊るされた電球は振り子のように揺れている。室内にはジャングルの動物たちの声が響く。
優れた作品は、人工物を介して自然に帰ろうとする。あるいは、記憶や深層意識に訴える。心地よく感じるものは、すべて身体に属しているような気がする。
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帰りは、国立競技場駅で乗り換え、千駄ヶ谷駅からすぐのモスプレミアムで「インドの青鬼」を飲んだ。缶からグラスに移しただけだろうが、歩きながら「このあたりのケヤキ並木を眺めながら飲みたいな」と思った、その思いつきのオーダーにはしっかり応えてくれた。小規模ながらテラス席があって、ストーブも点けてくれるのだ。


翌日は、つまり昨日だが、わざわざバスに乗って松井商店へ行った。いつものように、天窓から日光が降りそそぐ。
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僕のマイナンバーカードが三鷹警察署へ届けられていたので、それを取りに行くのが主な用事だったのだが、バスを乗り継いで井の頭公園の松月で飲んでしまった。(松月の新しいバイトの女性にも、顔を覚えられていた)
ということは、1週間に3度も昼飲みしてしまった。その代わり、夜は飲んでいないのだが、Facebookに昼飲み・夕飲みの写真をアップしても「いいね」が付かないことが多い。普通の人から見れば、遊んで暮らしているようにしか見えないだろうし、「けしからん」と思うかも知れない。

月の半分ぐらいは本を作っているはずだが、自分でも毎日が日曜日のような平穏な暮らしが出来るとは思ってもいなかった。銀行に何百万も貯金があるわけじゃない。百万あれば多いほう。残金20万でも50万でも、毎日の暮らしは変わらないのではないだろうか。


電車の発車ベルが鳴ると、猛ダッシュする人がいる。ほとんどの人が、そんなに急がなくても次の電車で間に合うはず。
ダッシュする人は「一本早く乗れた」「得した」という、短いスパンの小さな満足感を繰り返すことによって、長いスパンの大きな満足感を打ち消してしまって、ゆったりと満ち足りた人生の過ごし方に気がついていない。大きな満足ほど現れるのが遅いから、それを待ちきれないのだ。
クーポン券、ポイント、「実質0円」、どれも同じ「小さくて短い満足」だ。発車ベルで走り出す人は、まずその癖をやめてみたら人生が変わると思う。


最近観た映画は『ラストナイト・イン・ソーホー』、『フェイシズ』、『トコリの橋』。
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『フェイシズ』は、カサヴェテス得意の手持ちカメラで、酔っぱらって騒ぎつづける男女の顔をクローズアップで追い続ける。だが、彼らのふざけ方が幼稚で、しかも一時間ぐらい延々と続くため、途中で何度か止めた。
『こわれゆく女』も『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』も、すごく面白かったのに、『フェイシズ』は分からないなあ……。

『トコリの橋』は配信していないので、中古DVDを買った。実際の空母や戦闘機を大量に使った、いわばメカニック映画。50年代らしいスクリーン・プロセスを駆使しながらも、実写のカットと綺麗につながっている。ストーリーは空疎だが、表現として固有のスタイルを持っていると思う。

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2022年12月11日 (日)

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昨日土曜日は、都心の美術館は避けて、練馬区立美術館へ。『平子雄一×練馬区立美術館コレクション inheritance, metamorphosis, rebirth [遺産、変形、再生]』、なんと一部屋に一枚の巨大絵画のみ、あとは同館コレクションから数枚という大胆な展示。
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この美術館に来るたび気になっていた喫茶店、REINO COFFEE STOREに入ることも出来た(美術館から徒歩2~3分)。
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窓際の一人がけの席に座ったが、本当は陽だまりのできているソファに座りたかった。しかし、そこにはエレガントな装いの女性が座っていて、その隣に座る勇気はなかったので、遠慮した。席には多様性があり(テラス席もいくつかある)、店内に大きな木が植えてあるのも良かった。
帰りは、以前に途中下車して気に入った阿佐ヶ谷北四丁目のあたりを歩いてみる。駅からは離れているので静かだし、個性的な店が多い。喫茶店もたくさんある。
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すると、骨董品屋のガラスの向こうに犬がいて、僕がのぞき込むと立ち上がって尻尾を振って、はしゃぎはじめた。
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ドアの前に座って、「開けて入ってきて」と催促するのだが、まさか犬に触わるためだけに日本刀や着物を扱っている高級な店へは入れない。無視するのも可哀そうだし、どうしようか考えた。すると、若い夫婦連れが通りかかり、犬はその人にも反応していたので、誰にでも懐くのかも知れない。
子供のころに飼っていた犬たちには、十分にいい思いをさせてやれなかったので、後悔がある。彼らは、たまに夢に出てくる。

そういえば、行きの電車とバスの中では緊張感から発汗して、あわてて薬を飲んだり途中でホームに出たりした。
どこでどう緊張するかは予想できないが、今回は僕がペットボトルの水を飲んでいたため、向かいの席の幼児たちが親に「喉かわいた」と言ったことがトリガーになっていた。子供の前でそういう姿を見せるべきじゃなかった。


陽光のなか、阿佐ヶ谷北から歩いて、駅近くの20TAPSへ寄ってみた。若い店主のおススメの仕方はツボを心得ていて、つい3杯も頼んでしまう。
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この店はビール工房という系列の店らしいが、阿佐ヶ谷北国のごみごみした猥雑な雰囲気に、とてもよくマッチしている。土曜の14時台、見晴らしのいい2階席には僕しかいない。のびのびとIPAを各種試せる。値段は620円ぐらいからだから、高くはない。

実は一昨日も吉祥寺で飲んだばかりなのだが、二日酔いになってしまった。1軒目は「お客様、マスクは?」の第一声からして不愉快だったし、最後に立ち寄った店は薄暗い地下にあって、昼間から飲むありがたみがない。解放感がなく、店員の対応は機械的だった。
酒もドラッグなのだから、「セット・セッティング・投薬量」が適切でないとダメージにしかならないという勉強になった。その手の無神経な店は、例外なく値段も高い……というより、「割に合わない」と感じさせる要素が必ずあるのだ。店主の態度、窓の有無、店の広さ……慎重に選べば、この上なく贅沢な時間が過ごせる。それを分かっているからこそ、選択を間違えると自己嫌悪に陥るのだ。


最近観た映画は『ミッドナイト・ガイズ』と『ヒート』。どちらも、アル・パチーノ主演だ。
凝ったプロット、適切なアクションとサスペンスを入念に配置した『ヒート』のほうが頭のいい映画だ。しかし、『ミッドナイト・ガイズ』の間が抜けていると言ってもいいほどの緩さに、かなり心が癒された。
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3人の元ギャングたちが老境に差しかかり、いわば死に場所を探して歩く。ドラッグや車を盗み、顔なじみの売春宿で(次から次へと美女が登場し)絶倫ぶりを誇示したりする。そうした他愛のない都合のいい出来事が、ほぼ何の障害も葛藤もなく進行していく。その一切が、(まるで僕のキャバクラ遊びのように)たった一夜のうちに起きる。その現実感のない、一夜の夢のような構成もいい。ミシェル・ゴンドリーの現実逃避的で甘口なファンタジーにも似ている。

最も痛快なのは、盗んだ車に暴行された女性が閉じ込められており、行きずりで出会った彼女を助けて、顔も知らぬ暴行犯たちに報復するシークエンスだろう。強きをくじき弱きを助けるヒロイズムが、都合よく実現される。やっぱり、ファンタジーなのだと思う。
カット割りに意味があるとか、構図に暗喩が込められているとか、最早そういうものはどうでもいい、一種の彼岸に属する映画なのだろう。つまり、レーンから降りた試合放棄した映画ーー。
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「この世に生まれてきたのに、楽園に住まないでどうする?」……これが僕の心情だ。それは他人から称賛や尊敬を集めたり、他人の認める価値を自分の身にまとわせることではない。自分の信じる、自分の蓄積した価値観の中で高みを目指すことだ。

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2022年12月 6日 (火)

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昨日は凍えるような寒さではあったが、仕事の素材が届かず家でやることがないので、渋谷へ行ってきた。Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・クワント展」。
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まったく知らない服飾デザイナーではあるが、展示は狭い会場を華やかに色分けして、実際の衣装と平面資料を織り交ぜて、魅力を強烈に押し出していた。ドレスも靴も、色づかいが温かくて元気がある。解放的だ。くどくどした説明や気どった雰囲気がないところも良かった。
自分だったらどっちの色がいいか、どの柄が好きか考えながらウロウロするのが楽しかった。


海洋堂が渋谷PARCOにポップアップストアを出していたので、そこに立ち寄ってキットを購入。
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続いて、PARCOから歩いてすぐの場所にあるTAP&CROWLER渋谷店へ。
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週に3回も行っているのだからクラフトビールを飲みすぎかも知れないが、博打のような楽しさがある。
自分の中に「あの味」という理想像があり(それは横浜の公園通りで飲んだ銘柄で、名前も調べてある)、少しでもそれに近い味を探し当てようとしている。そのものズバリの銘柄を買ってきてはダメなのだと思う。
理想を目指しながら、ちょっとずつ現実に出会って、理想の精度を高めるか着弾点をずらす。もやもやとした理想自体に手を加える。そもそもの出発点を作りかえる、いわば自分を騙していくのである。妥協とは違う。「理想を追っていたくせに、わざわざ理想を裏切る」と言ってもいい。
その狡猾さと奔放さは、恋愛にも似ている。だから、ちょくちょく飲みたくなる。やはり、賭けに近い遊びなのだろう。

この日は値段が1000円することもあって一杯で帰ったけど、スーパーで安く売っているクラフトビールが、また別の面白さを持っていることに気がついてしまった。流行っている、ということでもあるのだろう。


そういえば、Bunkamuraへ行くまでの道で喫茶店を検索して、Googleマップで「眺めがいい」と評価されていた店へ寄ってみた。円山町のホテル街を抜けた先、映画館の複数入ったビルの一階だった。
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テラス席をビニールで覆ったような席に着くと、店のお姉さんがストーブを点けてくれた。底冷えするような雨模様で、通りの向こうには駐車場が広がっているだけ。その寂寥とした眺めに、むしろ安堵をおぼえた。
コーヒーは出来合いのものだし、チーズトーストは市販のチーズをレンチンしただけで、ジャンクな雰囲気を高めてくれた。30代の前半は、渋谷のこの辺りで打ち合わせだとか飲み会だとかを頻繁にやっていて、半分ぐらいは酔っぱらっていて記憶にないのだが、ここには書けないような恥を無数にさらしてきた。その流れの中で、後に結婚する人とも知り合った。
暗雲に蓋された、濁った記憶の眠る町に、不思議な安堵をおぼえる。まだ青年と呼べる年齢で、苦しいながらも夢を信じていた。……今こうして対岸から振り返ると美しいのだが、何も実現できなくて、知識も経験も足りなくて、当の本人は毎日が苦しくてたまらなかった。夢に逃避するしかなかったのだ。


最近観た映画は、『静かなる男』と『血の祝祭日』。
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『静かなる男』のラスト近く、ジョン・ウェインが列車で逃げ出した妻(モーリン・オハラ)を連れて帰る。夫は、強引に妻の手を引いて歩く。引っ張られていやいや歩く妻は、ホームに置かれた鞄を飛び越える。同じカットの中で、もうひとつ荷物を飛び越える。さらに、建物の門に置かれた荷物をトントンと登る。とてもリズミカルに。
その後、妻は夫にズルズルと引きずられてしまうのだが、そこは美しくない。障害物を飛び越えるほうが、夫の強引さとそれに無理やり合わせている妻の立場を、スマートに見せられている。
「事実と表現は違う」と思う。夫が妻を引きずって歩く姿は「事実」でしかなく、「表現になっていない」のだ。このニュアンスは、言葉にしづらい。(余談だが、表現規制したがる人たちは、ここでいつもつまづいている。胸の大きく描かれた女性キャラクターの「胸が大きい」という事実しか見ておらず、それが「表現された」部分を丸ごと無視している。「わざと皮肉っている」「あえて誇張している」という工夫の部分が見えない、「自分には見えないものがある」とすら思っていないのだ)

難しいからこそ、真摯に向き合って言語化する必要があるのだろう。覚めた、白けさせる結果が待っていたとしても、目を背けて黙っているよりはマシと思える。

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2022年12月 2日 (金)

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11/29火曜日、東京大学山中研究室最終展示、「未来の原画」展を観てきた。
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研ぎ澄まされた、洗練されたディスプレイとグラフィックで構成されていた。ひとつひとつの展示品は詳しく見なかったが、空間デザインとして十分に堪能した。これが無料で見られるのは凄い。

昨日12/1は、寺田倉庫で開催されている「BETTY CATROUX - YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展」へ。
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こちらも入場無料なので簡素な展示だろうと思っていたら、巨大な写真の展示から始まって、実物の服をまとった何十体というマネキン、三面を使ったドキュメンタリー上映、最後にはショーの映像と鏡、マネキンを複合的に配置して観客が疑似的にファッションショーに参加するような演出がなされていて、すっかり感心した。


寺田倉庫へ来るたびに、「値段が高いから」と避けていたT.Y.HARBORだが、ブルワリーがあると知ったからには無視できない。
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ハーフ(250ml)で560円なのだから、地元よりも安い。強めのIPAを2杯選んだ。
アルコール度数も高いので、やっぱり二杯でサッと帰るのがいい。14時半がラストオーダーなので、「何かお持ちしますか?」とボーイが聞きに来たが、「いいです」と断った。酔いすぎてしまっては、せっかくの風味が濁ってしまう。味と酔いのバランスの見極めが、この趣味の面白い所だろう。
そこへ、ボーイさんは水を持ってきて、「ごゆっくり」と言った。この対応は素晴らしい。酔ったあとの余韻を理解している。記憶を失うぐらい酔っぱらいたいのではなく、そこそこ気持ちよくなって、そのまま帰りたいわけだから。


何か月かに一度行く喫茶店へ行く途中、思いのほか気温が高くて汗をかいてしまった。
その店についてからも汗が止まらず、タオルでずっと頭や顔を拭いていた。店の女主人は冷房を入れてくれたが、僕は久々に行く店で醜態を見せたくないと焦れば焦るほど汗が止まらず、もう外へ出て涼んでから店内に戻り、主人に「僕はパニック発作で昔からこうなんです」と説明しようかと思ったほど。
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主人は、「今日は暖かいですね」と事もなげに言った。その一言で、かなりホッとできて、汗は引いていった。時計を見ると10分ほど経過していたので、慌てて飲んだ精神安定剤の効果もあっただろう。
高齢といえども、相手は趣味のいい凛とした女性だ。店内には、たいてい僕だけしかいない。もし誰か女性客でもいたら、もっと猛烈に発汗したのでは……と考えてしまうのだが、平気なときは平気なのだから分からない。鞄の中を見て、タオルを忘れていると急に緊張してくる。

店にはアンティークのサンタクロース人形が飾ってあったので、それについて少し主人と話して、穏やかに店を後にした。しかし、あの外へ飛び出したくなるような狂気に近いような時間は消え去らない。幼児期に何かあったのだろう、と思っている。

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