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ホビージャパン ヴィンテージ Vol.8 本日発売
巻頭のアートミック特集40ページを構成・執筆しました。キットレビューのほか、吉祥寺怪人さん×柿沼秀樹さんの対談、荒牧伸志さん、宮武一貴さん、園田健一さんインタビューもやりました。
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水曜日から木曜日にかけて、大船の観音と鎌倉の大仏を見学しに行った。
まずは大船へ行って、ホテルに荷物を置いて、江の島へ遊びに行った。結婚していた16年前は嫁さんと初詣に行ったものだが、離婚後に一回、ビールと天ぷらを食べに来た程度だ。
もちろん、午後4時~5時ぐらいの夕暮れを狙ってテラス席を渉猟する。実は、そんなに奥まで行かなくても海の見えるテラス席はちらほらある。だけど、そこで妥協しないのは、もはや性癖である。奥まで行って、そこが混んでいたり閉店だった場合に初めて引き返す。つまり、最上のものを知らない者に妥協する資格などないと思うのだ。
結果は、断崖から海へ張り出した西向きのテラス席に座れた。まずは、江の島ビール。
エビの塩焼きが来るころにはビールが空いてしまうので、普通の中瓶をオーダーして、この上ない楽園が目の前に出来上がった。レモンとはじかみ生姜の置き方からして、かなりレベルの高い店だと分かる。
他にも、一人でビールをやっている男性がいた。たいていはカップルか女性同士でかき氷など食べており、満席ということはなく常時2~3席は空いているのがいい(「テラス席に蜂がいて料理の中に入るかも、店内の方が落ち着きますよ」という店員さんの忠告も効いていそう)。
写真には映らなかったが、雲の中にうっすらと虹が混じっていた。こんな天国のような景色を、当たり前の日常として受け入れている店員さんたちは、どんな気持ちで生きているんだろう? 島の中で寝起きしてるんだろうか?
島を降りる17時半ごろには、もう夕陽の見ごろは終わってしまっていた。なので、今回も運は僕の味方をした。たいていの店は日没前に閉まってしまうが、この店は18時まで営業していると調べてあったのも良かった。
しかし、薄暗くなった島へ向かうカップルがいると、なんだか「今から行ってもつまらないんじゃない?」という寂しいような、それでも僕の知らない世界があるのだろう……といった穏やかな気持ちになる。閉館の近い美術館でチケットを買うカップルにも、同じような気持ちをいだく。
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その夜はホルモン焼き(自分で焼くタイプ)の店、和食の店に寄ってからホテルへ帰ったが、どちらもイマイチの店だった。料理が美味くても、出てくるのが遅すぎると一杯余計に酒を頼むことになり、酔いすぎてしまうのだ。こっちは料理との相性や食べすすむバランスを考えて酒を頼んでいるのに。
翌朝、駅近くの昭和っぽい喫茶店でモーニングを食べて、バスで大仏を見て、さっさと鎌倉駅へ移動。神奈川県立近代美術館・鎌倉別館まで歩く。
こういう作品に「初恋」などというタイトルを付けられて、ハッとしてしまう。タイトルで余計な意味づけをされている作品が多い気がするが、古い布に微細な刺繡をほどこす沖潤子さんの作品は別だった。タイトルによって、作品の見方を教えてもらえる。
「幸運は強い意志を好む。偶然も強い意志がもたらす必然である。」
沖さんがラジオや読書で出会った言葉をメモしている、そのノートも展示してあった。小さいけど、気持ちの行き届いた良い美術館だった。僕がいる間は、僕ひとりしか客がいなかった。鶴岡八幡宮は混んでいたのに、徒歩数分の美術館だけはひっそりしていた。こういう寂しさは、とても贅沢だと感じる。
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鎌倉駅前の蕎麦屋で、天ぷら盛り合わせ(海老2本と季節の野菜)と瓶ビール。トータル、1700円という安さ。
もう少し歩いたところに、テラス席でクラフトビールを飲めるお洒落なレストランがあったのだが、ほぼ満席でガヤガヤしていて駄目。昨夜の居酒屋で失敗したせいもあって、天ぷらで一杯やりたい気分だったので、たまたま見つけた蕎麦屋に入った。昼飲みを喧伝している居酒屋もあったけど、観光地なので賑やかすぎる。ちょっと外れにある寂しい店がいい。
テーブルで栓をあけてくれたし、タレではなく塩で食べさせる趣向もいい。ビールには、しば漬けが付いていた。
ビールを追加しなくてすむように、途中から飲むペースを落とした。だらしなくグイグイ飲まないことだ。
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一応、マスクのことを書いておく。
居酒屋二軒、喫茶店一軒、蕎麦屋一軒、どこでもマスク着用のお願いはされず。
近代美術館ではお願いはされたものの、「ちょっと出来ないんですけど……」と弱気に言うと、くしゃみや咳をするときはハンカチを当てて等の注意事項を見せられただけでオーケー。
他の人にもマスクを外せとは、僕は言わない。僕はもともと社会不適合なので、好きなようにしているだけ。苦しくても周囲に合わせたい人は、別にそれで構わないと思う。
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鎌倉~新宿は一本で帰れるが、グリーン車にした。約一時間。
結婚している頃に住んでいた戸塚駅前には、記憶にある建物がそのまま残っていた。しかし、あそこから脱出することで僕の人生が始まったので、センチメンタルな気分にはなれない。30代後半までの自分は、負け犬根性が身に染みついていた。ライター業だけでは、生活は不安定だった。
しかし、元妻がお金の管理や家事を手堅くやってくれて、僕の極貧生活がリセットされた。「少しずつでいいから貯金しろ、マイナスにはするな」という考え方の人だった。そのことには感謝している。離婚後、みじめで無意味なアルバイトをしなくても、好きな仕事だけで生きてこられている。
電車が都内に入ると、大井町や大崎あたりから見慣れたビルが多くなっていく。センチメンタルになれるのは、この光景だ。
無数の記憶のレイヤーが、かすかに脳裏に浮かび上がってくる。たくさん歩いたし、たくさん飲んだ。キャバクラを遊び歩いていた放蕩の日々も楽しかったのだが、一人で出かける時間が、何よりも充実している。自由で、何もかも自分で決められる最良の日々を、自分で手に入れることが出来た。
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