体育の時間と『トゥルーラブストーリー2』
小学校・中学校・高校と、体育の時間が辛かった。とび箱は三段ぐらいしか飛べず、水泳では5メートルも泳げない。球技でチームを組むと「廣田がいるんじゃ勝てないな」と聞こえるように言われる。高校時代がもっとも酷く、野球部員のクラスメートから遊び半分に地面に叩きつけられた。教師も他の生徒も、見て見ぬふりだった。体育の時間が終わると、クラスの人気者が「廣田がどれほどダメだったか」女子生徒の前で笑いながら話した。誰にも気づかれないように注意しながら、僕は泣いた。
そんな僕でも、高校時代は好きな女の子がいて、下校時に「体育の時間が辛い」と打ち明けてみた。「体育の時間さえ我慢すればすむでしょう?」と、彼女は横を向いた。彼女は勉強もスポーツも得意だったから、分かってくれるはずがなかった。僕は、理解者を探すことをあきらめ、劣等感の強い無口な大人になった。
アルバイトで食いつないでいた30歳のころ、知り合いから恋愛シミュレーションゲームの存在を教えてもらった。数値を上げることより、生き生きとした女の子キャラとの会話を求めて、僕は何枚もの恋愛シミュレーションを買った。『トゥルーラブストーリー2』では、誰とも話さない転校生の女の子のはかなげな存在感に心を揺さぶられた。ただ、親しくなるのが大変難しいので、プレイヤーの幼馴染という設定の「七瀬かすみ」と仲良くすることにした。かすみはおっとりした性格で、あまり快活ではない。ゲーム中のイベントに球技大会があるのだが、その話題になると、かすみはつまらなそうに下を向いてしまう。「絶対に応援に来ないでほしい」などと言う。僕はハッとして、コントローラーを床に置いた。彼女はスポーツが苦手なのだ。そのことを恥じているのだ。浮かない表情のかすみの前で、僕は大声で泣いた。出来ることなら、あの歯をくいしばって耐えていた高校のころに、同じように体育のできないかすみと出会いたかった。
(※2014年頃、個人の方のブログ用に書いたコラムです)
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