« ■0110■ | トップページ | ■0115■ »

2021年1月12日 (火)

■0112■

世間は三連休だが、そんなことは関係ないフリーランスなので、連休明けを目標に原稿に取り組んでいた。
すると、連休2日目で原稿が出来てしまったので、昨日は東京都現代美術館へ行ってきた。「石岡瑛子」展……石岡さんが衣装デザインした『ドラキュラ』にはいいイメージないし、映画のネームバリューで個展とかやらない方がいいよ……と思っていたのだが、映画50本をまとめて見たような圧巻の展覧会だった。食わず嫌いは損をする。
Icon
撮影禁止だったのが残念だが、もし撮影可能だったら、スマホのバッテリーが尽きるまで写真をとりまくっていただろう。以下の画像は、学芸員の藪前知子さんのインタビュー記事より()。
Icon_20210112123401
シルク・ドゥ・ソレイユの衣装展示であれば、壁面いっぱいにショーの様子がエンドレスで映写されている。三島由紀夫をテーマにした映画『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』の美術であれば、金閣寺の巨大な模型が部屋の中央にあって、壁の二面が金色になっている! 次から次へと異世界へ迷いこむ衝撃の連続。
Icon_20210112124101
後半は衣装の展示が増えていくが、細長い部屋に衣装とデザイン画を向かい合わせて展示してあるとか、三角形の展示台をさまざまに組み合わせて統一感を出したり、同じデザインで数の多い衣装は、壁に波のような形で飾りつけたり……ひとつひとつの展示に、何かしらドラマ性がある。衣装に染みついたドラマを展示のレイアウト方法で再現している、とでも言おうか。マイルス・デイヴィスのジャケットデザインの部屋では、本物のアナログレコードが回っているとか。
現代美術館の展示室は二箇所ほどに休憩エリアがあるのだが、そこでも石岡さんの短いインタビュー音声が聞こえている(同じ言葉が繰り返される)演出も効果的だった。これだけ膨大なのに、三つのチャプターに章分けしただけなのも、思い切った構成だと思う。


しかし、何よりも僕がかぶりつくように観察したのは、石岡さんが広告のアートディレクターだったころのゲラ刷りに対する執拗な書き込みだ。
「もっと元の写真のシャープさを生かす」「ちゃんと元のイラストを見て」といった抽象的な指示だけでなく、「ここの幅は何ミリで」といった具体的な指定が多い。ゲラが校を重ねても、「商品名を明確に」といった指示が繰り返されている。それは職人の知性が駆動した痕跡である。
僕が窓ガラスに覆いかぶさるように見ていたせいか、展示室を警備している人にマークされてしまった(笑)。でも、それぐらいアーティストの頭脳の働きに、僕は魅了される。

しかし、横で見ていた夫婦づれの奥さんは「すごいスピードで、ササッと書いた感じね」などと言っていた。そりゃあ、メモ書きなんだからササッと書くでしょうよ。
まあ、普通の人はそこまで深掘りして見ないよね。僕のような人間がしっかり認識して記憶して、自分の仕事に反映させなきゃならないんだ。


さて、ここからが本題かも知れない。
現代美術館は木場駅から18分ほど歩くのだが、まだ14時すぎだ。以前そうしたように、反対方向にある菊川駅を目指して十数分歩くが、すれ違うバスの行き先に「豊洲」と書かれているのに気がついた。豊洲か……やはり、湾岸地区はいいよね。大晦日に歩いた荒涼とした雰囲気が忘れられず、菊川駅から地下鉄で汐留駅を目指した。ゆりかもめに乗って、お台場公園海浜駅で下車する。
Icon_20210112125901
背後には、大晦日にビールをやったばかりの東京ジョイポリスが見えているが、今日は曇っているので夕陽は期待できないだろう。
そこで反対方向へ歩きはじめた。ゆりかもめの車窓から、レインボーブリッジを歩いて渡っている人たちが見えたので、同じことをやろうと思ったのだ。「次でいいや」などと考えず、今日すぐやる! 幸い、雲ってはいるが凍える寒さではない。
Icon_20210112130201
景色を眺めるのが目的なので、片手にはワインの紙パック。これを日本酒パックに置き換えると完全にアル中だよな……と自分でも思うのだが、2日も休肝したし、たまにすれ違うだけの人の目を気にすることもないだろう。
芝浦埠頭側へ渡ると、眼下に釣りをしている人たちがいる。僕は、海沿いの茶色いビルに心惹かれた。
Icon_20210112130601
たぶん、船舶関係の事務所なのだろうが、ここに住めないものだろうか? ゆりかもめの芝浦ふ頭駅は、徒歩10分と離れていない。屋上に人工芝も敷いてあるし、毎日夕陽を拝めるだろう。僕に染みついた孤独癖だけが望める、一生の夢だろう。


もうひとつ、特筆すべき光景を見た。スマホのバッテリーが底をつきかけていて、あわてて撮ったピンボケ写真しかないが……。
Icon_20210112131101
西側を向いた対岸のビル群が、いっせいにオレンジ色に輝いていた。頭上にはレインボーブリッジが腹を見せていて、鉄骨の一本一本まで、きれいに夕陽が描きだしている。
Icon_20210112131501
やはり、写真ではダメだ。西空から東側のビル群にかけてのパノラミックな超絶味が出せない。
ビルの窓は、高さによって夕陽の反射率が違う。するどく輝いている窓もあれば、薄く染まっているだけの窓もある。まるで、天国の建物だ。
臨海というか湾岸は、境界だから美しいのだと思う。日常から少しだけ踏み出す雰囲気に惹かれるのだろう。一種の逃避だ。しかし、僕は死は怖いので自殺願望はない。50年の人生に残留した放浪癖が、僕を湾岸へ向かわせる。単なる趣味といえば趣味なのだが、僕という存在の本質に触れた趣味である。

|

« ■0110■ | トップページ | ■0115■ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ■0110■ | トップページ | ■0115■ »