« ■0619■ | トップページ | ■0625■ »

2020年6月22日 (月)

■0622■

岡本喜八ゆずりの軽快なテンポ感が、壮大なテーマへ結実していく! 「トップをねらえ!」の絶妙なカットワーク【懐かしアニメ回顧録第67回】
41ebd9fgjl_sx350_bo1204203200__20200622090502
いつもの連載ですが、このカット割りの話を読んで「そうそう、あそこがカッコいいよね!」と分かる人は稀少なので、そのセンスは大事にした方がいいです。こうやってちょっとコラムを書くだけで、何万円かもらえるようになるんですから。もし他人に伝わらなくても、自分だけがカッコいいと信ずることでお金がもらえるなんて、こんな幸せな人生ってありますか?

平尾隆之が、「映画大好きポンポさん」をアニメ化したい本当の理由【アニメ業界ウォッチング第67回】

このインタビュー記事が最新の仕事ですが、自分としては不本意な内容です。
インタビュアーは聞いた話を持ち帰って、整理して、記事として面白く読めるように構成しなおしています。ところが、事実誤認がないように原稿チェックに出すと、一部だけ話が書き足してあったり、照れかくしのような「(笑)」が多くなって、バランスをガタガタにされてしまう。脚本を書ける人が、インタビュー記事を上手にまとめられるわけではありません。
優れた作家は、こちらの職域を荒らさないよう、2~3箇所の修正にとどめるか、まったく手をつけずに戻してきます。編集者の中には、「話を盛る」という言い方をする人がいますが、根本的にインタビューという仕事を分かっていません。盛るのではなく、話を「整える」のです。


DVDレンタルで、小津安二郎監督の『晩秋』。学生時代か、もっと後になってから見たはずで、あちこちディテールをおぼえていた。
Tumblr_9449785aac130d83f1bb014c6ebe931c_
もっとも異様に感じたのは、上の、笠智衆と原節子の父娘が能を観劇するシーン。
舞台上での美しい踊りを撮るなら分かるのだが、なんと、座ったまま合唱している謡の人たちを撮っている。すると、画面は硬化する。
その不自然に長いカットが終わると、笠と原が並んで舞台を見ている絵になるのだが、謡の人たちと同じく画面左を見ている。ますます、映画からは動きが失われていく。

ところが、笠が画面右側、フレームの外を見てニッコリと笑う。原は笠の視線と表情に気がつき、画面外に目を向ける。そこには、笠の再婚相手の女性(三宅邦子)が座っていた。原の表情は、上のカットのように険悪なものとなる。
何度かカットバックした後、カメラはちょっと後ろに引いて、笠と原、三宅をひとつのフレームに収める。それは、三角関係の構図である。このシーンを境に、映画は原の恋愛にも似た父への想いへスポットを当てはじめる……が、ただの一言も台詞がない。
それゆえに強烈な違和感、ただならぬ異様な心情が伝わってくる。台詞も説明もなければないほど、受け手はその空白にこそ注視するわけである。
(もう一言いうと、同じような動きのない構図が長くつづくと、人はストレスを感じはじめる。そこへ笠と原の笑顔と不機嫌な顔が入ると、普通の会話シーンなんかより鮮烈に印象づけられるわけだな。)


“ドアの前に立ちはだかった選手は、ひわいな言葉を並べ立て、ズボンの中に手を入れ、マスターベーションを始めました。「胸、大きいですよね」などと、気持ちの悪い表情で言っていました。”

常陽菊川高校の野球選手が、女性新聞記者の部屋に押し入って、目の前でオナニーしたり電話したりやり放題やって、「若い彼には未来があるから」と無罪放免された話。
しかし、この手の話は広まらないし、根づかない。僕たちの社会が、「スポーツ選手は子供たちに夢を与える」「運動部に入ることは健全で良いこと」と無責任にも決めつけて、「体のでかいヤツ、体力のあるヤツほど暴力で人を支配する」という冷徹な事実から目をそむけつづけているからだ。意気地なし。「弱者に優しく」と言いながら力の強いものに媚びへつらう卑怯者だ。

“高校野球にはどこか「爽やか」「ひたむき」といったプラスのイメージがくっついていますので、それが嫌だと正面切って言いづらい雰囲気があります。 

自分に被害を受けた過去があるからといって、高校野球ファンや選手たちに野球を嫌いになれとは言えません。家族や仲の良い人が野球を見ているときにテレビを消せとは言えません。”

――そういう事だ。仕事をしている大人の女性が、自分より体が大きい未成年に人生を奪われることもあるんだよ。だけどこの場合、学校と新聞社が話し合っただけでもみ消された。
記事の中にもあるように、週刊文春によって他の性加害と同時に暴露されたが()、もう12年も前のことだ。人前でオナニーした球児は平然と大学を卒業し、そろそろ子供も出来ているころだろう。
性犯罪をおかすのは、別にウジウジした内向的な異常者だけではない。権威のある立場にいて、肉体頑健、社会的信用もあるからこそ、性を使って人を陰湿に支配するわけだ。その人間の汚さを、まずは認めろ。


福満しげゆきさんの自伝的な漫画、『僕の小規模な失敗』を古本で買い、むさぼるように読んだ。
41ebd9fgjl_sx350_bo1204203200_
いちばん知りたかった、奥さんとの出会いと結婚が語られていたが、そこへいたる暗黒の青春時代の描写が生々しく、強烈な説得力があった。
定時制高校で柔道部をつくったものの、大学の推薦入学を狙っている嫌なヤツに部長の座を勝手に奪われてしまうのもリアルだった。そうやって強い立場、声のでかい連中に追いやられて屈折するしかなかった者たちへの、同情的な慈愛に満ちた漫画だ(あちこちに、気弱な人が騒がしいリア充に居場所を奪われる描写が散りばめてある)。

だけど、俺は「差別された」とか、「私こそ被害者」などと言うつもりはない。
恋人ができて楽しい毎日のはずの福満さんには、不条理にも「漫画を描きたい」強烈な欲求が沸き起こってくる。……このシーンには震えるほど感動したけど、それは暗黒の時代が長く続きすぎたからだよね。だから、福満さんには己が心の底から望むものが見つかった……というより、自分だけの「真の欲求」が形成されたんだ。ドロドロした分泌液が、時間をかけて真珠に結晶するように。自分を否応なく突き動かす欲求って、そうやって手に入るものだよね。リア充の凡人たちには、分からないことだ。

|

« ■0619■ | トップページ | ■0625■ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ■0619■ | トップページ | ■0625■ »