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2020年6月30日 (火)

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『妻に恋する66の方法』に始まり、福満しげゆきさんの自伝漫画を何冊か読んできた。
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『僕の小規模な生活』は妻と出会った後、子供が生まれるなどの家庭的なストーリーのはずだが、第5巻は「回想編」として、今まで2~3行しか触れられてこなかった中学時代の恋愛話がズルズルと続いて、その鮮烈な描写力に驚かされた。なんというか、女性を「未知の生物」として描いており、その原始的な謎の行動(生徒手帳にギッシリと落書きしてくる、一緒にUFOキャッチャーをやりたいと誘われる等)が凄い。
三つ編を上手に描きたいという動機から間近で女生徒の髪に触れさせてもらい、その手触りの美しさに感動すると同時に、抜けた髪の毛を「家に持ち帰って舐める」という変態的な行為を告白しており、清潔で神秘的な異性への畏怖と、第二次性徴ならではの原始的な性欲が混在して、決して美化されていない。

福満さんの自伝漫画は突発的なところがあり、途中で日記を掘り返して、これまでの中学時代の描写を敷衍したりする。そうした資料発掘などのメイキング部分を、同じ漫画の中に織り交ぜてくる。引用の引用の引用……によって『ドグラ・マグラ』のように、途中で何を読んでいるのか分からなくなってくるのだが、5巻のラストでちゃんと妻と出会うところに着地すると、まるで歴史絵巻か宇宙世紀モノを見ているかのようだ。


第6巻で、福満さんはミュージシャン志望のくせにいつまでも芽が出ないリア充たちのことを、「彼らは女にモテてしまうから危機感が薄い」と指摘している。この「モテる」「モテない」は福満さんの漫画では【動物レベルのこと】なので、異性にモテて簡単に充足して、慢心しまくっている人にはピンと来ないと思う。
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ヤンキーの友だちに頼んで、彼の妹のパンツを恵んでもらった高校時代の福満少年は、そのパンツを燃やすことで「(性欲的なものの)支配からの卒業」を決意する。そう、思春期の少年にとって「性欲は支配者」なのだ。僕たちは、性欲に屈服させられる。性欲を悪い、汚いものだと知っているから屈辱を感じる。
性欲は社会の中に入り込み、力関係を築く。福満さんはその後、まったく異性と関係を築くことが出来ず、エロ本を買い漁ることだけが楽しみになった時期もあるという。彼の価値観は「背の高い男がモテる」「高校に入学したら、みんなセックスしているに違いない」といった具合に俗化していく。
そのようなドロドロとうごめく自己の内面、混沌とした社会の風潮にもまれながら、表現が生み出されていく。表現は変動的なものなので、後から「差別表現なので禁止」などと簡単には言えないはずだ。


北区で行われる都議補選に立候補している ゆづか姫こと、新藤加菜さんのTwitterが面白い。

「加害をすることは当然あり得ません。罰せられるべきです。
しかしこの国では思想の自由があります。他人が何かをしたいと思うことまで制限はできません。
違う例えをします。ある女性とセックスしたいと思って同意なく行為に及ぶのは当然違法ですが、セックスしたいという気持ちが湧くのは不可侵です。」(

小児性愛者は確かに気持ち悪いが、憲法では人権が守られる……という議論。
しかし、ゆづか姫に批判的な人たちは、まず都知事選と都議補選の違いすら認識していない。どうして彼らがそこまで迂闊で雑なのかというと、「適当に生きてきても何も困らなかったから」だろう。クラスの真ん中へんにいた平均的な人たちは、そうやってポンヤリと生きてるんだと思う(僕のように底辺を這ってきた人間は、それなりに疑い深くなる。慎重でないと、生き残れないから)。
なんとなく、薄ボンヤリと暮らしていける平均的な人たちが、幼稚なデマやチェーンメール、ハッシュタグの類いに引っかかるわけだ(そういう人って、簡単に「感動しました!」みたいなことを言うから、すぐ分かる)。


ゆづか姫は「アベノマスクブラ」をつけて、下着のような選挙ポスターで挑発しているが、いつものことながら「選挙は地味で堅苦しいもの」「なんか真面目で難しいもの」と信じている素朴な人たちは、飽きずに「子供に見せられない」とパターンどおりの怒り方をしている。「けしからん」と怒られることを織り込んでやってるに決まってるのに、彼らは「表現する」ということが、そもそも分かっていない。
「表現物=なんか綺麗なもの、感動させるもの」程度にしか認識していない。誰もが封じこめておきたい人間の暗部を表現物がこじあけるなんて、夢にも思ってないんだよ。言語化できないモヤモヤと遭遇せざるを得ないのが、作品と接することの意味なのに。

あと、ゆづか姫はルックスを積極的に使って自己アピールしているが、彼女を批判している人ほど「外見の美しい女はバカに決まっている」と認識してそう(アベノマスクブラは、その偏見に対する挑戦だろう)。
ゆづか姫の周囲には、元レースクイーンなど、ルックスを売りにしてきた女性たちが集まっている。もしかすると、美人さんほど政治から遠ざけられ、虐げられてきたんじゃないだろうか。
他人事ではなく、僕のように地味な仕事をしていても、ルックスのいい女性は能力以前に「どうやったら親密になれるか」といった尺度で、男たちの雑談のネタにされてしまう。酷い話だよ、これは。仕事の話をしていたはずなのに、「○○と2人きりになれますよ」などと言われたりする。そこまで男女、恋愛、セックスという動機では生きていないのに、いつの間にか「男なら当然、美人とヤリたいでしょう」というテンプレートに当てはめられている。大変な屈辱だ。
男たちのネタとして使い捨てられてきた女性たちが、ルックスを武器に立ち上がるのは当然ではないだろうか。

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