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1月28日(火)「対人恐怖症歴30年の独身中年男は、海外旅行でどんな目にあった?」(■)
28日夜、「高円寺pundit'」にて開催です。
予約受け付け中なので、ぜひ多くの方に「対人恐怖症で電車に乗るにも難儀するオジサンが、海外旅行に行って大丈夫なのか?」、貴重な話を聞きにきていただきたい。リア充の貧乏旅行自慢とは違う、独特の感覚と距離感、これは他では絶対に聞けません。
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『母をたずねて三千里』のショックから、少し最近のアニメも観てみよう、という気になった。
スタジオポノックの『小さな英雄-カニとタマゴと透明人間- 』、これはレンタル店でDVDを借りてきた。冒頭の「ポノック! ポノック!」と連呼する主題歌からして、作品に一貫したコンセプトがないのを誤魔化すため、ブランド名だけで盛り上げようという無理を感じて、とても苦しかった。
百瀬義行監督の『サムライエッグ』からは、日常的リアリズムが感じられた。
ただ、全般的にコンセプトが固まる前に「今はコレが流行りなんですよ!」あるいは「流行りなんて関係なく、コレが描きたいんですよ!」と、内輪で盛り上がり、出資者も「元ジブリのスタッフなら、おそらく間違いないのでは……」と黙ってしまったのではないだろうか。そうやって「自分を騙す」ことが、仕事ではいちばん怖い。
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次に、ウェブ配信で『メイドインアビス』TV版と『ドロヘドロ』第1話。
MAPPA制作の『ドロヘドロ』は、まず声優二人の掛け合いがいい。アバンの会話が、まずOKだった。体重を感じさせるアクションも、堂に入っている。そこから始まるOPは、武闘派のヒロインが中華料理を作りながらハイになっていくアシッド系の映像で、センス抜群。林祐一郎監督の名前は、ちょっと覚えておきたい。
萌えボイスではなく腹から声が出ていて、男言葉で話すヒロインが、とにかく魅力的(主人公にビールを投げ渡すとき、ちょっとウインクしたりする。そのダサい芝居も作風にマッチしている)。手描きの、ザリザリした荒っぽい動きが、3DCGキャラの普及しすぎた現在、むしろ新鮮である。(昨夜、第2話を観て、ようやく3DCGだと分かった……部分的に手描きということらしい)
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曲者は、『メイドインアビス』。テレビ版は、10話まででやめていた。美術監督さんに取材したぐらいだから、2017年の放送当時は原作漫画も読みながら、そこそこ熱心に見ていたはず。(ということは、三年前から、ちょっずつアニメの取材を減らしていったんだな。)
今回あらためてテレビ版のラストを観たが、10話から13話は圧巻だった。主人公のリコは、猛獣の毒によって左手が膨れ上がり、目や口から血を流しながら、相棒のレグに腕を切ってくれるよう頼む。二人を助けたナナチは、かつて人間の女の子だったグロテスクな生物と暮らしている。
子供たちが、大人によって人体実験されていた過去が明らかになるが、これはヘンリー・ダーガーだな……と、確信した。
ダーガーは重厚な架空戦記をバックボーンに、同時に子供たちが大人によって無慈悲に惨殺され、全裸で内臓を撒き散らして死ぬ様子を挿絵にしていた。それは明らかにダーガーの性的嗜好の顕現であり、『メイドインアビス』も同じだと思う。ラストに登場するナナチは“ケモナー”であり、主役のリコとレグは“ぷに”とか“ショタ”と呼んで間違いないと思う。
作り手が、オタク的な性嗜好をセールスポイントにして作品を売るのは、別に構わない。80年代のOVAなんて、全部そうだった。
だけど、ターゲットにされたオタク的な輪の内側に属する人たちが、『メイドインアビス』に普遍性があると思うなら、それは間違いではないだろうか。この作品で起きる悲劇は、『母をたずねて三千里』のように、実社会の仕組みによって、やむなく生み出されてしまうものではなく、異世界の設定によるものでしかない。悲劇のための悲劇、陶酔するための残酷を「そういう世界設定なので」で作れてしまう。
つまり、作り手の嗜好で無限に残酷な描写が出来てしまう。そこは、自覚しておく必要があるだろう。「好き」と「優れている」とは、別のことだと意識しておいた方がいい(「号泣した」を作品の評価軸にすると、好き嫌いだけで生きていくことになる)。
あと、僕は「劇中キャラが歌っている」という設定の主題歌が、どうしても幼稚に感じられる。正確には、「幼児向けアニメのようなフォーマットを、あえてマニア向けにアピールしている」わけだよね。その仕組みにコロッと取り込まれるような、受け手はそんな脆弱でいいんだろうか?と思う。
「こんな可愛い絵なのに、こんな残酷な描写が!」って驚き方は、「Aに見えて実はBでした」という作り手の仕組んだコンセプトを「Aだと思っていたら、実はBなのか!」と、額面どおりに受けとっているに過ぎないのであって、「評価」ではないよね。でも、SNSの世界では、誰でも1秒でも早く答えに到達したい。立ち止まって考えないと、バカになっていく。
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最後にオマケ的話題……。
定期的にTwitterに回ってくる主張、「模型業界は子供向けのプラモデルを作れ、でないと業界が滅びる」「俺たちが子どもの頃に熱中したビッグワンガムを再販すべき」、これを初めてリアルタイムで目にした。おそらく同世代であろうツイート主さんは、「クラウドファンディングで資金を集めてはどうか」と他人事のように言っているので、本気でビッグワンガムを復活させようとは考えてないわけで、したがって本気で批判する気はない。
しかし、3D-CADを駆使した現在のスケールモデルの正確さ、低年齢層に向けたバンダイのキャラクターモデルのたゆまない取り組みを、まるっと無視して「昔のほうが良かった!」と主張する僕たち世代は、毎日毎日、感覚を研ぎ澄ませていないと、すでにボケ老人の領域なのだな……と戦慄した。
いや、実は40~50代だから感覚が鈍磨していくわけではなく、ほとんどの人は向上心も目的もなく、若い頃からボーッと生きてるんだろう。調べよう、自分で確かめようという人は、滅多にいない。
何かを面白いと感じるセンスは、磨かないと錆びていく。本当の快楽、本当の幸福は、自ら追い求めないと、その存在すら感知できない。
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最近観た映画は、とてもキュートな恋愛映画『パーティで女の子に話しかけるには』、『~三千里』の原点であろう『自転車泥棒』を久々に。どちらも配信で。
(C)2018 STUDIOPONOC
(C)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会
(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会
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