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『ホテル・ニューハンプシャー』をレンタルで見たかったのだが、近くのレンタル屋には置いておらず、ネット配信でも見つからない(ジョディ・フォスター出演作なのに……)。やむなく、ヤフオクで中古DVDを購入した。送料込み、800円だった。
途中、どうもリアリティの基準が劇映画っぽくない(熊のぬいぐるみを着て生活している女性が出てくる等)、この抽象度はむしろ小説っぽいな……と思いはじめた。鑑賞後に調べてみると、ジョン・アーヴィングが原作であった。しかし、映画はどうもよく理解できなかった。
大学のころ、ある女性を誘って『ブレードランナー』に行ったのだが、「レプリカントとか何とか、そういうのが出てくるのは映画じゃない」と言われてしまい、「じゃあ、どんなのが映画なの?」と聞き返したら、『ホテル・ニューハンプシャー』との返事だった。
当時はレンタルVHSで見たはずだが、やはりよく分からない映画で、彼女が魅力的だと言っていた男子学生に「『ホテル・ニューハンプシャー』は見た?」と聞いてみた。「見たけど、あんなもん映画じゃねえだろ」との答えだった。
しかし、彼女は素晴らしく美的センスがよく、僕はすっかり子供扱いされていた。
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4年次になると、彼女は無精ひげを生やしたイイ男と連れ立って歩くようになっていた。僕は嫉妬すら感じることが出来ず、まあ彼女ほどセンスのいい人なら、ちゃんと中身のある男をつかまえるだろうな……と、納得して眺めていた。いずれにしても、僕には手の届かない世界の出来事だった。
彼女と、一晩だけの関係を結んでしまった後、友だちに「お前、あんな女とヤッたの?」と無礼千万なことを言われた。それぐらい彼女の外見はよろしくなく、また、かなりの変わり者でもあった。
なんというか、僕の決して入れてもらえない「恋愛王国」みたいなものが、はるか天界に燦然と存在していて、その王国からのおこぼれとして、たびたびセックスさせてもっているような惨めな気分が、僕の20代を支配していた。
僕はまだライターでもなかったし、漫画家かイラストレーターになりたいと言っては挫折し、今度は映画監督か映画プロデューサーだと言っては挫折し、そのツケを女性関係で補おうとしているところがあった。それでいて対人恐怖症に苦しみ、電車の隣に女性が座るだけで滂沱たる汗を流して緊張し、誰かとセックスすると、その症状はピタリと治まるのであった。
(なので、対人恐怖を克服するため、誰かと恋愛関係を維持しておかねば……と、ますます焦るわけだ。)
20代は苦しかった。熱意が空回りしてばかりいて、恋愛にも「底」があり、使い減りするものだと分かりかけていた。若いころに戻りたいなんて、微塵も思わない。女性と話すならガールズバーで十分、ひとり暮らしで誰とも会話せず、自分のペースで仕事できる毎日が楽しい。結婚生活は人権なしの牢獄だったし、恋人なんていたら、この自由さは失われるだろう。
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「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が、今度は海老名市長選に立候補した。
選挙制度の裏をかいて、次々と候補者を準備し、しかも「外見の綺麗なお姉ちゃんは市議会議員なら必ず当選する」と、実際にキャバクラを歩いて美女をスカウトしているのだから、痛快というしかない。
選挙は真面目で堅苦しく、実現不可能な理想を掲げて悲壮に戦うものだ……という僕ら愚民の常識を、木っ端微塵に打ち壊していく。だから、自分の塗り固めてきた常識を死守したい人ほど、立花さんやN国党を嫌悪する。
申し訳ないけど、どうしてもN国党のアンチは保守的で、「人として小さい」と思ってしまう。立花さんを嫌悪してもいいが、あの大胆な発想を盗んでやるぐらいでないと、大成しない。とにかく、淡白じゃ面白くならないよ。年齢は言い訳にならない。
立花さんが選挙演説の合い間にやっている、有権者との雑談が面白いのだが、彼の人生観は「嫌いな仕事や苦しい事はせず、好きなことだけやって生きていけばいい」「楽しく明るく、自由に生きるのが一番」。その障害となるものは実力で排除していこう、それだけなので、「人生はツラさを乗り越える苦行」と定義している人は立花さんを嫌がるわけだ。
ダメな人というのは、四六時中「できない理由」を探している。「高いから買いませんでした」「遠いので行きませんでした」とかね。
僕は本をつくるのが仕事だけど、いちばん多いリアクションが「○○が載ってない」。積極的に「あれがない」「これがない」と言いたがる人は、その人の人生に何もないんだと思う。
さらに厄介なのは、あなたの本を読んだことがある、署名に協力したことがある程度の理由で「だから、あなたはこうすべき」「こう考えるべき」と、“あなたのためを思って”命令できると信じているタイプ。
そういう人たちも、何かしら挫折して生きているんだろう。俺は、自分にいちばん適した仕事を探り当て、挫折を克服したが、そんな幸運な人は少数なのかも知れない。
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