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デジタルと出会ってから何が変わったのか? 河森正治の発想と実験【アニメ業界ウォッチング第54回】(■)
毎月開催しているトークイベント【模型言論プラモデガタリ】のゲストとして河森さんに連絡をとったところ、たまたま河森正治EXPOの開催宣伝時期と重なっていて、ついでにインタビューも申し込みました。この取材は【プラモデガタリ】の前に行ったものです。なので、取材は4月ですね。
『地球少女アルジュナ』の第4話を見てファンレターを送り、DVD化のときに「廣田というライターなら必ずやってくれる」とブックレット編集、キャッチコピーを依頼され、『創聖のアクエリオン』では未経験なのに「これだけ雑誌記事が書けるなら、必ず脚本も書ける」と、いきなりCDドラマの脚本をまかされたり、10年ちょっと前は河森さんにいろいろな体験をさせてもらいました。
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先月30日が【プラモデガタリ】の第5回(「イデオンとアオシマ」)で樋口雄一さん、山根公利さんにゲストとしてお越しいただき、帰りの打ち上げで「翌朝、河森EXPOだよね」なんて話していました(なんとめまぐるしい毎日なんだろう……)。招待券をいただいていたので、昨日、行って来ました。
いろいろ、思うところはあります。河森さんを作家としてクローズアップしたいのか、クリエイターの名前を冠してキャラクターのイベントをやりたいのか。両方がせめぎ合っているような印象がありました。
最近、アニメ関連のクリエイターにフォーカスした展覧会が多いのですが、アニメという限られた経路から流入してきた情報にしか興味がない、それで一生をやりすごせてしまうのだとしたら、それは果たして豊かなんだろうか……。
アニメーションが世間から軽視されていた70年代ならば、市民権を得るための戦いには大きな意味があったと思います。今は、マーチャンダイジングとして市場が安定しているので、ファン向けにグッズを売る商売になっているんじゃないでしょうか。市場があることと市民権を得ることは、また別のことのはずです。
ただ、河森EXPOには、まさしく河森さんだからこその突破口もありました。それが、世界中を旅して撮ってきた写真のエリアです。
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河森さんの旅行話は、「フィギュア王」の連載や「河森正治デザインワークス」の手伝いをしている十数年前、くりかえし聞かされてきました。深夜のファミレスで河森さんの話を聞いていると、独特の酩酊感をおぼえました。あの感覚を展示にするのであれば、かなりエキサイティングです。
おそらく、誠意あるスタッフが河森さんのそばにいたのでしょう。旅エリアの向かい側は河森さんの出生してからの年表になっていて、ひとりのクリエイターの人生を縦軸と横軸から垣間見ることができます。この十倍ぐらいの規模のスペースを使ったなら、僕はおおいに意義があったと思います。
『マクロス』が好きだから『マクロス』の展示があって良かった、バルキリーが好きだからバルキリーの絵が見られて良かった……だとしたら、僕らは何のために歳をとったんだろう? もはや進歩することのない「大きな子供」になってしまっていないか?と考えてしまいます。ビジネスとしては、「死ぬまで『マクロス』のグッズを買ってくれ」「新しいものに手を出さないでくれ」、これで丸く収まるので、なおさらです。
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そして、グッズになりようがない『地球少女アルジュナ』と『KENjIの春』のコーナーは、やはり立ち止まる人が少ない。
それでも、びっくりするぐらい丁寧に絵コンテが貼ってありました。ただ、絵コンテや動画用紙は机の上で作業するためのサイズです。展示には向いていません。
【プラモデガタリ】で河森さんがラフスケッチを持ってきた時は、クリアファイルに収めた原画を、会場で拡大して壁に投射したのです。それをお客さんはスマホに撮って、Twitterやインスタグラムにアップロードします。会場に来られない人たちは、河森さんの原画をPCのブラウザかスマホアプリで見るわけです。今、テキストデータですらURLを貼らずに、いきなりスクショで見せる時代です。
そうした刹那的かつ絶対的な変化を決して見逃さず、では美術館に行って油絵を見ることに、本当に意義があるのか正直に考えてみるべきだと思うのです。もし絵を見なくても、美術館に行くこと自体が目的化しているなら、新しい価値を見つけられるはずです。絵を見るのはオマケでいいのかも知れない。実際、アニメ系の展示イベントは限定グッズがメインで、展示物はオマケではないでしょうか。
そんなのはイヤだ、展示物に価値を与えて、目に見えないものを持ち帰ってもらうのだ……と意識したところから、本質的な仕事が始まるのだと思います。「金になれば何だっていい、価値なんてなくてもいい」、これは私に言わせればガキです。
しかし一方、お金を落としてもらって経済を回さないといけない。人をだますことなく、気持ちよくお金を使ってもらって社会を豊かにするにはどうしたらいいのか。そこまで考えている人間は、ごくわずかです。頑張りましょう。
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【模型言論プラモデガタリ】第6回 テーマ「スター・ウォーズ/EP 1~3」って、実は面白いんだぜ?(■)
今月24日(月)夜、開催です。
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