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月曜日(24日)は、毎月開催しているイベント【模型言論プラモデガタリ】第6回、『スター・ウォーズ』エピソード1~3(新三部作)であった。
「キャベツ太郎」さんとして、模型界隈で知られ広く愛されている『スター・ウォーズ』ミニチュア研究家の鷲見博さんにゲストとして来ていただき、これまで顧みられることの少なかった新三部作のミニチュアを、徹底的に分析・解析していただいた……と、概要だけを書くと味気ないのだが、このイベントのために鷲見さんが独力で制作したプレゼン資料は、なんと600~700枚。紙芝居のように話とスライドを組み合わせて複雑にオーバーラップさせたり動画と効果音を挿入したり、徹底して“魅せる”プレゼンテーションであった。
そればかりではない。映像から割り出して「ここは同じ流用パーツを使い回している」「ただし気泡が入っているので、シリコンで複製したはずである」と、己の観察力だけを頼りにミニチュアの構造を考古学のように読み解き、さらには流用パーツの出自を探り当てて当該キットを購入、自分でパーツを並べて実際に検証するのだ。EP1以降、最近作では模型をスキャンしたデータも使われるので、当然、CG技術の進歩も織り込んで解析をより正確なものにしている。
鷲見さんはBANDAI SPIRITSのプラモデル製品の考証を担当しており、またディズニーの媒体にも記事を提供しているため、当日のプレゼンテーションがいつ公式なソースとして活用されるか分からない。そのため、当イベントしては初めて、撮影をお断りすることにした。
版権元やら関係各社やらに無用な気をつかって……という、昨今流行の神経質かつ低姿勢かつ無気力なエクスキューズではない。あくまで、鷲見さんが今後も研究を続けられること、研究成果を生かした活動をつづけられることを目的とした自衛策である。
理想を言うなら、こういう人には誰かが資金提供するなりして、心おきなく研究に打ち込めるような安全な環境を整備すべきではないか。
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1時間で収まるよう、直前までリハーサルを繰り返していた鷲見さんのプレゼン中、客席からは「おおーっ!」と何度となくどよめきが上がった。僕も舞台のすみで観客の一人となって、何度も拍手をした。あのプレゼンを見られなかった人は、損をしたと僕は思う。
その後、僕の映画史と新三部作とを絡めたプレゼンに移行すると、鷲見さんは精力を使い果たした様子で、本当に放心していた。「ねえ、鷲見さんはどう思いますか?」と聞くと、真顔で「……えっ?」と振り返るので、ちょっと笑ってしまった。発言にも態度にも、ウソのない人だ。気どったり、他人を見下したりもしない。
ただ、僕のプレゼンは、IMAXや3Dや4DXを「映画の進歩」だと前提する風潮に意義を唱えるものなので、二度ほど客席がシーンと静まったのをおぼえている。気まずい雰囲気だった。
そこで、「いや、遊園地ではなく映画館に来てもらうため、映画会社も必死なんでしょうね」と助け舟を出してくれたのも、鷲見さんであった。イベント後、ささやかな打ち上げをしたが、その場でも鷲見さんが映画文化について真剣に考えている……少なくとも、盲目的に賛美したり、迂闊に誉めたり、過剰に批判したりもしないことが、はっきり分かった。
阿佐ヶ谷駅まで、鷲見さんとしみじみ語り合いながら帰った時間は、その日でいちばんの贅沢だったかも知れない。
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ここ2~3年、古典と呼ばれる映画を積極的に見て、僕は70年代のアメリカン・ニューシネマ以降、劇映画の表現・演出に抜本的な変化が起きていないことを知った。
上は、映画誕生から1977年の『スター・ウォーズ』公開までの主な出来事だ。先日のプレゼンで使った。
劇映画の演出は、実は最初の30年ぐらいでほぼ完成しており、40~50年代に頂点を迎えた。まだ、モノクロ映画が主流だった時代のことだ。ヒッチコックの『サイコ』を好きな人は多いと思うが、あれはカラーが当たり前となった60年代に、モノクロ映画時代に培われた潤沢なテクニックを動員してつくられた作品だった。
時代が、一方向へ進むとは限らないのである。今日より明日の映画が、退化してないとは言い切れない。
「明日の方が今日より必ず進歩している」と信じることの無責任さを、僕はいつも感じている。「昔はよかった」と同じ思考停止だと思う。
それこそ、『スター・ウォーズ』のテーマではないが、愛情と憎しみは表裏一体なのだ。「とにかく好きだから」は怖い。「なぜ好きなのか?」と立ち止まったところから、確実な身のある進歩が始まるのだと思う。しかし、そこまで慎重な人はとても少ない。
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コメント
とても素晴らしい文章をありがとうございます!僕にとっても素晴らしい時間でした。
そして、失礼ばかりで申し訳ありません。そのままの自分をビデオで見ているようで目を覆うばかりです。この歳になっても全く大人になりきれてなくて…
なかなか成長できませんが、今後とも何卒宜しくお願い致します。
投稿: 鷲見 | 2019年6月27日 (木) 21時23分
■鷲見様
コメント、ありがとうございます。
そのように、自然体で偉ぶらないところが鷲見さんの凄いところ、“恐るべき”ところです。僕は凡人なので、ついつい鷲見さんの謙虚さに甘えてしまい、ある時はつけ込んでしまい、後から恥ずかしく思うのです。
こんな言い方をしても伝わらないかも知れませんが……。僕にとって鷲見さんは、有難い存在です。
投稿: 廣田恵介 | 2019年6月27日 (木) 22時15分