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2019年6月18日 (火)

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【模型言論プラモデガタリ】第6回
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●テーマ「スター・ウォーズ/EP 1~3」って、実は面白いんだぜ?
来週月曜、24日に開催が迫りました。ゲストの鷲見博さんは『スター・ウォーズ』の撮影用ミニチュア研究家として知られ、バンダイ・スピリッツのプラモデル・シリーズにも大きく貢献しています。僕はバンダイへの取材時に知り合い、模型展示会でのエンタメ性の高い濃密なプレゼンを拝見し、今回、登壇をお願いすることにしました。
昨夜時点で、プレゼン資料は500枚をこえたそうで、これから実現可能な範囲に削るのだそうです。しかも、『スター・ウォーズ』のEP1~3ですからね。これはめったに見られないトークになります。もう後から「知ってたら行ったのに!」とか言わないでください。前売り券だけでなく、手軽なWEB予約も始まりました。


ほぼ数年ぶりに塗料を買って、プラモデルを塗装してみた。
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最近、自分の中では見逃せないブームとなりつつある可動美少女プラモの一種、メガミデバイス。キット付属の武器が好きではなかったので、別売りのものを持たせて、きれいな立ちポーズをつけているだけで楽しかった。ただ、オレンジの成形色があまりに淡すぎる気がしたので、その部分だけ塗装してみよう、という気持ちになった。

完全に素組み、メーカーの創意工夫だけを享受したい僕が、どうしてポリシーを曲げて塗ってしまったのか。それは可動美少女プラモが、カスタマイズを前提としたキット仕様で、組み上げるのに必ず「自分の好み」で髪型や表情のパーツを選択せねばならない(しかも、その根拠は自分の嗜好に求めるしかない)特殊性に尽きる。
意に反して、「こっちのパーツが好きだ」「いや、このパーツは付けない方が可愛い」と、眠っていた自分の嗜癖がズルズルと引き出されていく。好みに準じたカスマイズが表現と呼べるレベルにまで洗練されている人から、僕のように「癖」レベルで止まっている者までいるから面白いのだろうし……ハマってない人からすれば「あんな人形、気持ち悪い」「あんな悪趣味なもの、どこがいい?」と見えるのだろう(そう思われているとしても、決して怒ってはいけない)。


さて、塗装の話だ。
ペインターのせなすけさんという方の動画で、最近人気のシタデルカラーの塗り方を見て、まず愕然とした。これまで、取材などでシタデルを試し塗りさせてもらったことはあった。その時はパレットのうえで水で薄めるようなことはせず、ボトルに直接、筆を入れていたと思う。絵の具のように、濃度を調節しながら塗らなければならない。
均一な塗装面をつくるためのベースカラーを水で薄めながら塗るのだから、もちろん濃度の高い部分と低い部分が出てきて、ムラになる。三回ぐらい繰り返すとプラの下地が隠れてくれるが、塗膜はデコボコ。一回塗ればピシッと下地が隠れるイメージがあったのだが、均一に塗るのは至難の業だ。この塗料、ひとつ590円もする。

塗りながら「あーあ、ムラになっちゃった」「ヘタクソだなー」とウンザリしてきて、手に着いた塗料で、きれいに印刷された顔パーツを汚してしまい、思い出したことがある。
中学や高校のころ、漠然と「他の人と違うことをしたい」「漫画が好きなので上手く描けるんじゃないか」と勘違いして油絵を習っていたころ、目の前の絵がひたすら汚らしく、だけど表面だけ取り繕った照れ隠しのような描き方になっていき、自分に理想の絵なんてないんだと思い知らされ、それでも筆を動かさねば作業が終わってくれない……あの塗炭のような苦しみだ。
当時はプラモデルやソフトビニール怪獣を改造したり塗装したりしていたはずで、そっちは(自己流だったせいか)苦にならなかった。


しかし、著書()にも詳しく書いたことだが、ガレージキットの完成見本を依頼されるようになると、ゆっくり時間をかけて、その仕事は苦痛に変わっていった。
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大学を出て20代後半になると、自分の下手さがありありと実感され、それでも完成見本を仕上げなくては生活費がない、来月の家賃も払えない……という状態が、苦しくて仕方がなかった。お金をもらうには恥ずかしいボロボロの出来上がりで、だけどお金がなくては生きていけない。

ささやかな趣味として、80年代のロボット・プラモデルを古い玩具屋で買い集めて、いっさい色を塗らずに成形色のまま組み立てると、プラスティックの色がポップで可愛らしくて、たちまち魅了されてしまった。
いま、思い出したよ……。当時は古いホビージャパン誌を買っては、広告ページで模型店を調べ、最寄り駅まで訪ねて電話で開店しているかどうか確かめて、歩いて回っていた。90年代後半、『エルガイム』『バイファム』あたりのプラモデルは店頭在庫しかなく、ボロボロの箱のキットを400円や500円で買い集め、片っ端から組み立てて、成形色のまま、ミニコンポのスピーカーの上に飾っていた。
今にして思うと、素組みによって、かなり精神が慰撫されていた、救われていたんだ。そうだったんだ。ひさびさに塗装してみて、思い出したよ。それで、今でも塗装せずに成形色のまま形にするのが好きなのかも知れない。


“ガンプラ・ブームだった1980年代、バスの中で小学生たちが話していた。
「うちの弟が、1/60ガンダム買ったよ」
「よし、家に持ってこい。上手いかどうか見てやる」
上手いかどうか見てやる……あの冷たい一言が、いまだに耳から離れない。”(

塗装しながら、その過程をTwitterにアップロードしてみたが、反応は薄かった。自分でも、あまり魅力的とは思ってなかったので仕方がないが、「一歩踏み出して塗装にトライしてみよう!」(そうすれば君も仲間だ)的なフレンドリーさ、あれは嘘だ。下手な人間には、みんなとことん冷たい。無関心。
この疎外感の側に立ったプラモデルのハウトゥ本は、おそらく皆無じゃないだろうか。
徒競走で、ビリッケツを笑われながら走ったことある? ありゃあ、子供心にも屈辱だよ。あの屈辱を忘れるため、押し返すために漫画やプラモデルを頑張っていたはずなのに、どうしても優劣の世界で比べられてしまう。「初めて塗りました!」とゲタを履かせれば、まわりの先輩たちが「よく頑張った」「次も頑張ろう」と励ましてくれるかも知れない。だけど、次はない。下手な人間には、居場所がない。僕は、よく知っている。

あの疎外感を知っている人間だからこその本を、来月、刊行予定です。『親子で楽しむ かんたんプラモデル』(株式会社スティングレイ刊)。ビリッケツを走っていた、いま走っていると思っているあなたのための本。この本の中に、優劣や上手い下手はない。

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