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2019年3月21日 (木)

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J Wings (ジェイウイング) 2019年5月号 発売中
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●「素組みだからよくわかる! プラモで学ぶ最新鋭機F-35B」後編
構成・執筆ですが、編集部からフィードバックされたアイデアも、かなりの割合で入っています。この記事は、プラモの素組みだけが好きな素人と、ほとんどプラモに触れたことのない航空機の専門家が同じキットを組み立てているから、面白いのです。そのコンセプトにたどりつくまでに、半年ほど話し合いを重ねました。
読者からの反響も結構あるそうなので、今後も模型誌以外のところで、どんどん素組みプラモの面白さをプレゼンしていきたいですし、丸一冊、素組みだけの本も制作中です。


『この世界の片隅に』を特集したモデルグラフィックス誌も、ふだん模型誌など買わない人たちが手にとってくれて、今後二度と手にとらないにしても、その機会をつくれただけで、僕としては満足なんです。
あちこちで「まるでアニメ雑誌」と言われましたが、アニメージュやニュータイプに、撮出しデータを解析した記事など載ってないと思います。僕がニュータイプで最後にやった仕事は声優さんへのインタビュー記事で、誌面は版権イラストだけでした。
「模型ファンが模型誌を買う」「アニメファンがアニメ雑誌を買う」、その閉じたサイクルの中では、僕に新たに提案できることはありません。いつも買わない人に買ってもらうとか、いつも載らない雑誌にプラモやアニメの記事を載せたいんです。

Jウイングさんは、「半分は常連の読者に買ってもらい、もう半分は新規の読者に買ってもらう」ことに常に目指しているそうで、だから僕の話を聞いてもらえたのです。優秀な編集者は数少ないですから、彼らと議論を重ねられるだけでも、とても勉強になります。


僕がアニメ関係者へのインタビュー連載を打ち切った翌日、どこから情報が伝わったのか、大手ビデオメーカーのYさんから「来週、時間ありませんか? ちょっと話があります」と、連絡がきた。
同社を訪ねると、呼ばれたのは僕だけでなく、いろんな媒体のライターとか編集者に声をかけたようで、新作アニメのティザーやトレーラーを延々と流すだけのくだらない上映会が始まった。
チラシや番宣DVDの束が回ってきて「気になる作品はどれですか? 自由に持ち帰ってください」なんて書いてある。
「こんな事で人に時間とらせるから、ダメなんだよ」とため息をついて席を立つと、十年近く前、ある作品でご一緒した広報担当のKさんが追いかけてきて、「廣田さん、ハチマキがケープ・カナベラル宇宙港へ向かうバスに乗りたくありませんか?」と言った。
『プラネテス』の主人公、ハチマキが木星行きのロケットに乗るシーンでは、未来には似つかわしくない田舎の乗り合いバスが出てくる。そのバスのオンボロさが、宇宙へ旅立つ夢やロマンをかき立ているわけで、アニメ版では架空のカントリーミュージックが使われていて、その演出には感心させられたものだった。「ただ、日本語歌詞なのが残念でしたよね」と、Kさんと盛り上がってしまった。
「ようするに、こうやって僕が音楽という側面から作品に感心を持ったり、何か問題提起したいと思う、そのこと自体が“企画”であり、“記事”でしょう? いきなりアニメの宣伝だけ見せられて、さあ取材しろってやり方で、何が生まれるんですか?」と熱弁していると、宣伝課長のGさんがやって来た。

……というのが、今朝がた見た夢です。もっとディテールが豊かで、具体的な作品名もどんどん出てきました。
『プラネテス』の原作には「ケープ・カナベラル宇宙港」なるものは登場しなかったと思いますし、アニメ版でカントリーミュージックを使っていた事実もありません。だけど、僕はクリエイターが魂をこめて、工夫を凝らした演出を見逃したくありませんし、書きとめて伝えたいという欲求もあるのです。
毎月開催している【模型言論プラモデガタリ】()は完全にインデペンデントで、アニメの番組論や作品論もやれる空間になっていますから、別に仕事でなくても集まった何十人かの人たちに伝えられれば、それでいいように思います。後日使いまわせるよう、録音もしています。


「仕事がない」という話を、同業に近い人から聞きます。僕はレギュラーの仕事以外に、「ガンダム最新作で何か出来ないか」といった相談も入ってきますし、一週間ぐらいで形にして編集部に預けられるので、そこそこ重宝がられているのかも知れません。そういう急ぎの仕事にはこだわりがないので、サバサバ割り切るようにしています。
だけど、歳をとって何より良かったのは、別に人に認められなくてもいいや、有名でなくてもいいや……と思えるようになった、諦めがついたことです。その諦めのおかげで、とても仕事がやりやすくなりました。代わりに、絶対にストレスが生じないよう、原稿を書いていてウンザリしそうな仕事は、躊躇なく回避する。そんなことをやらなくても食っていけるよう、バランスをとれるようになったのは、ここ数年のことです。

最近、アニメ作品は宣伝会社に丸投げで、最新情報といえば声優のキャスティングと主題歌アーティストばかり……というパターンが多いため、実りある仕事をするのは困難と思います。せっかくスタッフさんのインタビューを提案しても、他媒体との合同取材にされてしまう。作品も可哀相なら、そんな取材に食いつかねばならない媒体さんもいい記事を書けないし、取材されるスタッフさんも気の毒です。
本当の貧しさとは、アイデアも好奇心も理想も枯渇して、右から左への土木作業になっている状況です。「これは酷いな」と気づけたなら、その貧しさから脱出するチャンスをつかんだも同然です。もしかすると、あなたの仕事は、メディアに記事を書くことではないのかも知れない。一万人の客に届けられなくても、選りすぐりの十人に届けられればお互いに幸せ……という場合だってあります。選りすぐれたお客にしか見えない風景が、必ずあるんです。ほんの十メートルずつ、ちょっとずつちょっとずつ理想が高くなっていく。緩やかに、磨かれていく。それって最高じゃないですか。

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