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2018年12月 7日 (金)

■1207■

クリーニングに出した服に破れ目があって、「このまま洗濯すると傷口が大きくなる危険性がある」と、電話があった。
クリーニング屋に出向いてどうするか話しているうち、思いがけずファッションの話題となり、僕より少し年上のお姉さんは80年代の服の特徴などを、あれこれと楽しそうに話してくださった。僕も楽しかったんだけど、その間にも妙な汗が流れてきて、「早く会話を切り上げて、この場から離れたほうがいいのでは……」と、焦りはじめた。
この理不尽な生理現象を、僕は心療内科医が診断したとおりに「対人恐怖症」と便宜的に呼んでいる。

昨日、対人恐怖症にからめて旅行ガイドと称するものを書いて()、Twitter経由で、多くの方に読んでいただけた。
そして、「異性を前にして緊張するなんて、普通のこと」「そんなものは気のもちよう」「気にしすぎ、病気なんかじゃない」……との感想をいただいた。
「ああ、またか」と溜息が出る。体育の授業が辛くて、それが今の人格形成に影響しているという話題になったときも、「いつまでも過去のことをウジウジと気にするな」「根性で押し切れ!」と他人に強要する傲慢かつ鈍感な“強者”が散見された。

他人に対する共感力が根本的に欠けている病的な人は、まあ仕方がない。
歳をとってよかったのは、自分が辛い思いをした分、他人が悲しんだり喜んだりするのを、少しだけ自分のことのように感じられるようになったこと。「ご飯が美味しかった」でも「今日は誕生日です」でも「息子が野球の試合でがんばった」でも、何でもいい。良かったね、と思えるようになった。でも、どうやら逆の人もいるらしい。
コンプレックスを克服する過程で、「俺は他人よりも強くなったぞ」とエゴが肥大してしまったんだろう。


Twitterで繰り返されている争いのほとんどは、「俺の方が、私の方が社会的地位が高くて味方が多い」と、強さを競い合っているだけに見える。ツイフェミと呼ばれている人たち、みんなそう。他人を蔑視しすぎ。
性表現や性暴力をめぐる討論で、被害者サイドであること、女性であることを誇示して、相手を力づくで論破しようとするなら、それは男社会を維持しているマッチズモと何も変わらない。
強さを競い合う議論に、僕は参加したいと思わない。

児童ポルノ規制法の呼び名を変えよう、定義を被害児童に寄り添った内容にしようと活動しているころ、それこそ山のように罵声を浴びせられた。
中には、「廣田こそが性犯罪者」と、身に覚えのないことを捏造する女性さえいた。だけど、僕は彼女を叩き潰したいとは思わなかった。その人は、幼いころに親から性虐待されていたそうで、まずはそれを信じたかった。僕を罵ることで、その恨みが少しでも晴れるなら、それぐらいは我慢の範囲だ。仕事に影響が出るほどではないし……。

もうひとつ、その女性が性表現や性暴力とは無関係な、アカデミー賞の中継でドレスアップされた女優たちを見て、「綺麗ねえ」「素敵ねえ」とツイートしていて、なんだか憎めなくなってしまった。
逆に「こんな、いかにも男受けしそうなドレスなんて着やがって」と妬んでいたとしても……屈折しているとしても、屈折してるからこそ、その人には生きる意味があるんだ。本人は、僕のこういうところを嫌悪してるのかも知れないけど、憎めない。


話を対人恐怖症に戻そう。
素人バンドが参加するテレビ番組『いかすバンド天国』で、対人恐怖だとプロフィールに書いている出演者がいた。その彼は、目を泳がせたままドモったり、「対人恐怖なんて、ようするに他人を怖がってれば、それっぽく見えるだろ?」と言わんばかりの演技をしていた。
だから、「対人恐怖症」なんて、社会で気楽に使われるスラングにすぎない。呼び名なんて、どうでもいい。
ある時、医者の処方する精神安定剤を切らして、部屋でひとりでいるだけなのに体が硬直し、異様な考え・感覚に支配されたことがあった。それはもう「対人」恐怖ではない。
喫茶店でコーヒーを飲む時、首がぶるぶる震えて、ガクンと変な動きになってしまうこともある。それらの症状?が病気なのか何なのかは、僕には分からない。

ただ、僕には痛くも痒くもないことが、他人にとっては地獄かも知れない。
そう思えるだけの想像力は、身についた。もし体育がリアルタイムで苦しいとか、かつて苦しかったとか、対人緊張や発汗恐怖に苦しんでいる人がいたら、ぜひ会いたいと思っている。自分の苦しみには意味があったのだ、と思いたい。苦しまなくてもいいんだ、と相手に呼びかけたい。

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