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モデルグラフィックス 2018年 10 月号 本日発売●組まず語り症候群 第70回
今回はエアフィックス社のエンジンのプラモデルで、ひさびさにメカメカしい雰囲気のページとなりました。
●ひそまそ実写化計画
アニメ『ひそねとまそたん』を実写化するとしたら……?というゴール不在の企画、第一回は東宝で特撮美術を担当していた長沼孝さんが、『ひそまそ』全話を見てどのシーンをどう特撮で再現したらいいのか、余談たっぷりに語ってくださってます。
CGは使わず、あえて昭和の技術にこだわっている点がポイントです。
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レンタルでヒッチコック監督の『トパーズ』、ジョン・フォード監督の『黄色いリボン』。僕はやっぱり、ベテラン監督が円熟期に、時代を味方につけて手堅くつくった映画に惹かれる。
『トパーズ』は1969年の映画で、『サイコ』『鳥』で路線変更した後、スランプに陥っていた時期の作品だ。キューバ危機を背景にしたスケール感がヒッチコックには似合わないし、劇中で起きていることは難解だ。それでも、部分部分でハッとするような撮り方をしている。『黄色いリボン』の原題は“She Wore a Yellow Ribbon”、「彼女は黄色いリボンを着けていた」と、過去形である。騎兵隊が、隊長の夫人と姪を駅馬車の停車場まで護衛していく。姪はキリッと軍服を着て、騎兵隊のシンボルである黄色いリボンを髪に結っている。それだけで洒脱というかキュートというか、どれだけ品位のある映画か分かるでしょう?
確信したんだけど、ジョン・フォードは男たちは横に並べて、視線の高さ(アイレベル)で凡庸に撮っている。そして、女性だけが画面の奥から手前に歩いていくる特権を有している。「カメラ位置に対して特権を持たせる」ことで、登場人物に敬意をはらう。映画というメカニックだけで表明可能な美学ではないだろうか。
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ヒロインである姪の登場カットは、彼女が建物の二階のベランダからひょいと下をのぞきこむ仕草を、アオリで撮っている。それまでの男たちのやりとりは、すべてアイレベルで横位置だったので、アオリで撮るだけで彼女が「特別な存在」だと分かる。優雅だし大胆だし、息をのむぐらい美しいカット。
僕は、映画のそうした機能、叙述方法が好きだ。びっくり箱のような種明かしで気を引く映画は……それこそヒッチコックが始めて、ヒッチコックが終わらせたのだと思う。彼が『鳥』を撮らなければ、ゾンビ映画というジャンルは生まれなかっただろう。
『カメラを止めるな!』に盗作疑惑が持ち上がっているそうだけど、ああいう構造で見せて感心を誘う映画ってよくあるじゃん……としか思えない。
『カメラを止めるな!』は、「低予算でもアイデア次第で面白い映画はつくれるんだ」「それを理解している俺たちって根っからの映画好きだよね」という共感の部分が大きいのであって、それ自体は良くも悪くもない。そして、盗作はいけない、いや盗作ではない……といった映画の外で起きていることに感心が集まったり、潔癖なまでのオリジナリティ崇拝が露呈するのも今日的だ。
そういえば、ワンカットで丸々一本の映画を撮るのは、70年前にヒッチコックが『ロープ』でやっているよね。『カメラを止めるな!』は手持ちカメラだからテクニックの方角が別なんだけど、原理的・構造的に劇映画の叙述法が70年前から大きく進歩したわけではない。それぐらいは認識しといても損はないと思う。
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