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2018年4月 7日 (土)

プラモ恋愛小説『ハネダ模型店』 その9

9 ガンヘッド・2
 仕事が引けると、プラスティックの塊に打ち込んだ。体に悪そうなマテリアルが増えたので、窓を開けて、防毒マスクをつけて、残暑の日には首にタオルを巻いて、何だか過激派かテロリストのような格好で、プラモデルを作りつづけた。
 ハネダ模型店のシャッターは、閉じたままだった。落ち葉の頃には、それは当たり前の光景になっていた。閉店の理由を探るほど、僕は無粋になりたくない。だから、手に入れた絶版キットをひたすら削り、磨きつづけた。ところが、何かが終わることを怖れるように、仕上げをためらった。基本塗装が終わったのにスミ入れや汚しをしなかったり、デカールを貼らなかったり、挙句、色を落として、塗りなおしさえした。
 まさか、羽田さんのクリームホワイトのマフラーで季節の変わり目を知ることになろうとは思わなかった。彼女は、トモタカとマユミ夫婦ともう一人、僕の知らない男と駅前を歩いていた。羽田さんと彼氏は、二人とも真っ黒なギターケースを背負っていた。どちらかがベースなんだろうけど、僕には見分けがつかない。羽田バンド、再結成。そういうわけか。
 駅前の細長いアーケードでは、誰もが温かそうなコートを着ていたが、その四人だけは特別に、雲間から差し込む陽光の下を歩いているように見えた。きっと、彼らは凍えたりしない。柔らかな温もりの中で、神の御手の中で、一生を過ごすんだろう。それを邪魔したり、とがめたりする権利も力も、僕にはない。
 彼らに気がつかれる前に、手近なチェーン系の居酒屋へ飛び込んだ。そして、右手の人差し指を立てる。「お一人様ですね」と、アルバイトの女の子が真っ赤な頬っぺたで微笑んだ。
 飲んで何かを忘れようとしても、何を忘れようとしたかってのは、覚えてるもんだ。会計の時、アルバイトの女の子を指差して、「この子の笑顔が素晴らしかったので、時給を上げてやって欲しい」と店長に頼んだ。そんなラッキーが誰かの身の上に起こらなきゃ、今夜はあまりに救われないじゃないか。
 アパートにたどり着くと、ポストの上にリボンの付いた包みが置いてあった。まっ黄色に塗られたガンヘッド。あの日、僕がファミレスで組んでやったやつだ。ところどころ、ピンクのラインが入っていたが、黄色の上にピンクは難しい。ラッカーはテカテカ、線もヨレヨレだ。デザイン・センスもへったくれもない。
「やれやれ。マジで、今夜は最低だ」
 空を見上げると、満天の星。中学の頃、理科教師が「冬の空は、空気が冷たいから星が綺麗だ。寒さをこらえてでも見る価値がある」と言っていたのを思い出した。
【終わり】

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