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2018年3月22日 (木)

■0322■

レンタルで、川村元気原作の『世界から猫が消えたなら』、イングマール・ベルイマン監督『夏の恋』。
041214e41a63c6c6『夏の恋』は1951年の作品で、ベルイマンにしては宗教色皆無の恋愛映画である。マイ・ブリット・ニルソンの演じる若いバレリーナのマリーが、小さな島ですごした甘酸っぱい恋愛の日々をみずみずしく描いている。

夏の休暇の間、マリーは島の小さな小屋で寝起きしている。奥にベッドがあり、手前に洗面所があるぐらいの、本当に狭い間取りなのだが、寝具の趣味がよくて小奇麗な部屋だ。
マリーは目覚まし時計でベッドから起きると、口笛をふきながらカーテンとドアを開ける。鳥のさえずりが、海のほうから聞こえてくる。マリーの表情は、ぱっと明るくなる。鼻歌をうたいながら、マリーはベッドの手前にある洗面所で歯を磨く。だらしがない寝起きのはずなのに、鍛えられた肉体が内側からしなやかな、きびきびした動作を形づくる。

このシーンは、ワンカットの長回しである。画角も、セットも綺麗に決まっている。だけど、何よりも女優がその年齢のときにだけ保持しているキュートな魅力、そして衣装のセンスがカット全体を生き生きと引き立てている。マリーは、水着姿でつり竿をたずさえ、意気揚々と小屋を飛び出す。
この美しく溌剌としたカットだけでも、十分に観る価値はある。


回想シーンが端正に、シャープに構成されているのに比べて、ちょっと歳をとったマリーを描いた現代パートには、ギスギスした構図が多用されている。
顕著なのは、マリーが控え室で演出家と口喧嘩しているシーン。そこへ、マリーの旦那が訪れる。マリーは正面を向いて座っている。マリーと対面している演出家の顔は、鏡に映っている。なので、マリーと演出家は並んで座っているように見える。
その控え室へ、マリーの背後から旦那が入室してくる。すると、三人はバラバラの方向を向いて視線を合わせていないのに、観客の位置からは全員がこちら側を向いて見える。三人は互いに嫌悪しあっているので、このカットは生理的に落ち着かない。

こうした嫌なカットと、マリーが小屋で起きるだけのシンプルな美しさを持ったカットが、同じ映画の中にあるだけで、驚嘆する。


片や、「主人公が不治の病で死ぬ」「死神と取引する」「周囲の大切なものに気づく」式の、転生トラックもかくやというべき今風のテンプレ満載の『世界から猫が消えたなら』。
Sub13_largeこちらのほうが、実は学ぶべき点は多いような気がする……。三回泣かせるよりも十回泣かせた映画のほうが市場価値が高い、という商業映画のメソッドが、剥き出しになっている。
何しろ、主要人物の全員に「泣き叫ぶ」「目に涙を浮かべる」「嗚咽する」など、必ず「泣く=内面を吐露する」記号的シーンが用意され、回想につぐ回想で、文脈は分断されている。しかし、観客にもらい泣きさせるのに文脈は余計だろう。

たとえば、雨の夜に猫が行方不明になったのに、主人公は傘もささずに走り出して、路上で転倒する。そんな体たらくで、猫が見つかるわけがない。
『風立ちぬ』のように、やれる仕事だけ鞄につめて飛び出し、汽車の中で仕事しながらも、どうしても書類のうえに涙が落ちてしまう。その実務と感情の綱引きこそが生きることの実相ではないかと思うのだが、おそらくそれでは「商業的に泣かせる」上では効率が悪すぎるのだ。


木曜昼間、吉祥寺オデヲンで、『リメンバー・ミー』(日本語吹き替え版)。半分以上、併映の『アナと雪の女王/家族の思い出』が目当てだったんだけど……。
640メキシコが舞台の映画なので、原語版ではスペイン語圏の俳優がアフレコしている。劇中の死者の世界が楽園のように賑やかに描かれているのは、ラテン・アメリカの死生観を豊かに反映している。

しかし、プロットの運びやクライマックスの危機感の演出は、よくあるフォーマットの組み合わせにすぎない。これなら舞台でも実写映画でもいいではないか……とあくびが出たころ、ラスト数分前になって「なるほど、これを3DCGアニメで動かしたかったのか!」と、一気に目が覚める。
やっぱり、ピクサーは死んでなかった。数億人に伝わるテンプレにつぐテンプレの果てに、20年前に獲得した創作の快感を、しっかりと温存していた。陳腐な表現だけど、クリエイターなんだなあ……魂を売っていないというか。映画が面白い・面白くないのとは別に、この泰然自若とした姿勢は高く評価したい。やっぱり、ストーリーがどうとかじゃないんだよ。

(C)1951 AB Svensk Filmindustri
(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会
(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

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