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2018年2月16日 (金)

■0216■

レンタルで、デレク・ジャーマン監督の『カラヴァッジオ』。
Mv5bmtewnze3ndgzntzeqtjeqwpwz15bbwuデレク・ジャーマンは『エンジェリック・カンバセーション』を吉祥寺バウスシアターで観た記憶があるが、あまりに抽象的なので『カラヴァッジオ』も似たようなものだろうと勝手に思い込んでいた。とんでもない。濃密な質感、シズル感にあふれた撮影に、魂を吸い込まれた。字幕を邪魔だと感じるぐらい。

僕は、映画は図像だと思ってきた。フレームがあり、しかるべき位置と面積に被写体が捉えられ、フレーム内の情報の変化によって文学的な情報を伝える。黒澤明やヒッチコックが撮ったのと同じ構図を組んで、同じコマ数でカッティングをトレースすれば、同じ演出効果が得られるはずだ。
ところが、『カラヴァッジオ』は違う。男たちの鍛え上げられた筋肉と、その妖艶な肌。病床にある男の、窓から差し込む明かりにより、克明なコントラストで浮かび上がる白髪まじりの髭と眉、まつ毛。黒々とした爪の汚れや、腫れ上がったまぶたの赤味。CM出身の撮影監督、ガブリエル・ベリスタインは徹底的に計算して照明を組んだはずだし、被写体のテクスチャーが強調されるよう、慎重に現像処理が行われたはずだ。

しかし、おそらく当時の撮影のレシピは失われているだろうから、『カラヴァッジオ』の撮影は二度と繰り返すことはできない。
何より、構図や被写体の変化を図像として分解することができない。ここでPANすればいい、このロングの次にこのアップをつなげばいい、と図解に還元できない。


では、絵画的なシズル感のある絵をただ並べただけの映画かというと、そうではない。
カラヴァッジオが、闘技場で見かけた男を金で雇い、絵のモデルにする。男に半裸でポーズをとらせ、助手にレフ板を持たせて、自分は絵を描く。近くでは、男の恋人が椅子で眠っている。
カラヴァッジオは男にコインを投げ渡す。男は、コインを口に含んでポーズをとりつづける。カラヴァッジオはパレットで絵の具を混ぜて、カンバスに叩きつける。再び、男にコインを投げる。男はコインを口に含む。絵の具を混ぜ、カンバスに叩きつける。またコインを投げる。この反復がどんどん早くなっていき、同じアクションが二重に繋げられたりする。
同じアクションをテンポを上げて繋ぐことで、絵を描く行為が、次第に熱を帯びていく……ように見える。そのように編集している(よく見ると、同じカメラ位置から撮った別テイクを何度か流用しているのが分かる)。
映画をワンカットで完結する「映像」と割り切っているなら、このようなカットワークは思いつかない。レフ板を持った助手が眠りそうになるアップ、椅子でウトウトしている恋人のアップを挿入することで、時間経過をも表現している。

しかし、このシーンの主役はパレットの上で、カンバスの上でこねられる絵の具の光沢と厚みであり、投げ渡されるコインを口に含む下賤かつエロティックな行為なのだと思う。
デレク・ジャーマンは絵画から創作の世界に足を踏み入れ、美術スタッフとして映画界でのキャリアをスタートさせた。ハリウッドだとかヌーヴェル・ヴァーグだとかの映画史とは無縁のところから出てきた監督だ。だが、日本の良識ある出版社から、彼の日記が90年代に出版されたし、研究家もいる。
孤高の作家だが、文化人として認められたのだ。

(C) Courtesy of Zeitgeist Films

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