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フィギュアメーカーが提案する“組み立てキット”の役割とは? 田中宏明(グッドスマイルカンパニー)、インタビュー【ホビー業界インサイド第32回】(■)
元バンダイの田中宏明さんに、良いタイミングでお話をうかがうことが出来ました。取材はご本人への直接申し込みだったので、段取りはスムースでした。
サターンロケットはスケール表記こそされていますが、手すりなどスケールキットでは確実に折れそうなパーツは太めに成形され、さまざまな状態を再現するプレイバリューに重きが置かれています。
最近は中国の新興メーカーのプラモデルを組み立ててきましたが、やはり時間とお金に余裕があると、際限なく細かいパーツ分割になってしまうのかも知れません。今までプラモデルとは縁遠かったユーザーを迎え入れるには、スケールキット、もっというとプラモデル文化にすら距離感のある田中さんのようなフレッシュな人材、因習にとらわれない発想が必須と思います。
けれども、こういう話題を模型雑誌に載せようとすると、「さあ徹底的にディテールアップしましょう、カッコよく塗装しましょう」という古い切り口しか許されない風潮があります。だから、僕は「アキバ総研」に居場所をつくったのです。
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先週、4,400円もする国内メーカーのスケールキットを買ってきたんですが、あまりにもパーツの精度が大雑把で、1/3ぐらいまで組み立てた時点で、放棄せざるを得ませんでした。
ただでさえ見づらい説明図を何度も見返しながら組み進めても、パーツの誤差が1mm以上あって、接着面積はもっと狭い。なんとか接着しても、その次の工程でミシッと割れてしまう。これが何十年も前のキットなら分からなくもないけど、一昨年発売されたものですからね。信じられないです。
他の商材で4,400円もとっておきながら形にならないなんて、決して許されないと思います。本なら落丁・乱丁レベルなので。だけど、プラモデルはユーザーに組み立てがゆだねられるので、「買ったヤツが頑張って完成させろ」という話に落ち着いてしまう。「初心者は修行して、ダメなキットでも完成できるように精進しろ」とか、精神論でごまかされてしまう。
工具も塗料も接着剤も別売り、箱を見ても中身がどれぐらい細かいのか、どれぐらいの精度かも分からない。説明図を開いて、ようやく「ドリルで穴を開ける」工程に気づかされる。こんな不親切な製品を売っていおいて、「作れないヤツは上達しろ」。そんな状況を許しておいて新規ユーザーが増えない、模型人口が減ってるとしたら、そりゃ当たり前ですよ。
だけど、みんな老舗メーカーに愛着があるから悪口を言えない。メーカーも、その風潮に甘えている。とてもじゃないけど、未来を感じられません。
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オマケ程度に無駄話をすると、模型文化の退嬰は、よく「小さな町の模型屋さんが潰れる」と言い換えられます。実際にはアマゾンや量販店で買い物しているくせに、甘美なノスタルジアで都合のいい犠牲者を仕立て上げる。その無責任な懐古趣味もまた、「模型文化」の一断面なんですよね。「いまの子供たちはモノ作りの楽しさを知らない」とか、実感を欠いた決まり文句。
模型文化が退嬰するとしたら、その原因は「初心者は上級者に学んで上達すべし」という幼稚な体育会的な根性論で一見さんを追い返す排他的なムードですよ。
学びたい人にだけ教えればいいのであって、それで何かを救った気になるのは、やはり傲慢だと感じる。
僕は誰にも学びたくないし、どのキットを買うときにも、永遠に初心者でいたい。上手いとか下手とか、誰かの設定したレースに乗る気はない。競争したくないし、誰かの上に立ちたいとも思わない。ひたすら自由でありたい。「本気を出すと上手い」とか、そういうポテンシャルにも興味ない。バカにされてもいいから、いつも素手でいたい。好奇心だけ持っていたい。
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