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2018年2月 8日 (木)

■0208■

東京での上映が本日まで、その他の地方も明日金曜で終了とのことで、『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』に行ってきた。劇場では、4度目。この3週間で25回も見た熱狂的なファンがいるので、上映前から煽ってきた身としては、ちょっと恥ずかしいような気がする。
640しかし、これほどファンの動向が気になった作品もない。宣伝会社は予算がないのかやる気がないのか、その両方なのか、取材()の段取りに時間がかかったし、公式アカウントはTwitterでの発信力が弱かった。その一方で「中国産のアニメなんか興味ない」「宮崎吾朗が監修だから心配だ」、そんな無責任な下馬評にイライラさせられた。
しかし、もっともハッとさせられたのは、「中国で記録的な大ヒットになった作品の日本公開に二年もかかり、公開されても話題になっていない現状は、けっこう深刻でないか」という意味のツイートだった。中国はいまや、ハリウッドですら顔色をうかがわざるを得ないほど巨大な映画市場だ。その中国で生まれ、ハリウッド製CGアニメからの影響を意図的に排した作品が『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』だ。
日本公開にあたっては『RWBY』や『パシフィック・リム』日本語版で、アニメ声優の潜在能力を引き出した打越領一さんが吹き替え演出を務め、配役も申し分ない。なのに、「ハリウッドっぽい」「ジブリっぽい」など、的外れな感想が散見された。

CGアニメだからハリウッドっぽい、宮崎吾朗さんが監修だからジブリっぽい。日本の観客が、聞きかじった情報だけで脊髄反射に陥っているとしたら、やはり深刻な事態なのだと思う。


もうひとつ、「中身が薄い」、「ストーリーが弱い」、「説明不足」といった批判も目にした。

今日観ていて、あらためて本作の自然描写の美しさに目を見張った。河や沼地など水面はシズル感たっぷりに、フォトリアルに描写され、木々は陽光を透かして風にそよいだり、雨粒に打たれて揺らいだりする。真っ青な翅の蝶が木の葉にとまる苔むした山岳地帯の風景は、奥へ行けば行くほど、山水画のように透明感を増していく。
もっとも唸らされたのは、小坊主であるリュウアーが行方不明になった後、ホタルが無人の森を飛ぶのを、じっくりとカメラで追った長めのショットだ。ホタルはリュウアーの行方を捜すような挙動を見せながらも、結局は誰にも辿り着かず、暮れかけた空の彼方に飛んでいく。次のショットは、リュウアーを探す師匠の姿だ。
つまり、どこへともなく彷徨うホタルはリュウアーの身を案じる師匠の心情描写にも、あるいは暗い森の中で迷子になったリュウアー自身を暗喩しているとも読みとれる。それ以前に、日が暮れてもリュウアーの安否が分からない不安な状況を、端的に物語っている。

いずれにしても、多様な解釈を許す美しいショットだ。しかし、ひょっとするとキャラクターが映らずセリフもない、ただ美しいだけの自然描写を前にして「ストーリーが進んでいない」「中身がない」と即断する観客が多くなっているのではないか。
モノローグでも字幕でもナレーションでも、とにかく一から百まで解説してもらいたい観客が増えてしまっているのではないか。
「西遊記なのに、どうして三蔵法師や沙悟浄が出てこないのか」「ほとんど何の役割も果たしていない猪八戒こそ不要ではないのか」といった意見にも、同じ危うさを感じる。

すべての登場人物に等しく役回りが割り振られ、均等に活躍の場が与えられ、それぞれに感情表現や内面吐露があり、監督の設定したテーマなりメッセージなり「意味」なりが作品から読みとれなければマイナスに感じてしまう、偏差値の高いウェルメイドな作品しか受けつけられなくなっているとしたら、そのような観客の鑑賞に堪えうる作品は数えるほどではないか、それこそ全世界向けに分かりやすくブレンドされた(フールプルーフの施された)ハリウッド映画しかないのではないか……という気がしてくる。


ただし、愚かな観客ばかりだから、『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の興行がパッとしなかったというつもりはない。
観客の審美眼が貧しくなったのには理由があって、そのひとつが作品タイトルを検索するだけで「この作品の評価は?」と採点を迫り、見たくもない点数を表示する映画情報サイトだ。
僕は本作の公開初日、ぴあの出口調査で「何点でしたか?」と聞かれて、おおいに戸惑った。後ろの女性は「85点」と答えていた。ネット環境のおかげで、「映画は点数や星の数で採点するもの」、すなわち「劣った映画と優れた映画の二種類があり、自分も必ずどちらかの判断を下さねばならない」と信じ込まされてしまっている。

ネットだけでなく、酒の席でも「○○は観ましたか? 廣田さんは肯定派? それとも否定派?」「今年上半期のベスト映画は?」「ネタバレOKですか?」などと聞いてくる人が沢山いる。
即断と採点が最終最短目標の「映画好き」同士の会話が、どんどん僕らの頭をカラッポにしているとは言えないだろうか。映画評論家は公開前の映画を「つまらなかった、面白かった」と観客に保証するディーラーのような存在と思われているし、本人たちもそのように振舞っている。

そこへ加えて、中国に対する嫉妬とも嫌悪ともつかない複雑な感情が渦巻いているのだとしたら(『スター・ウォーズ』最新作に出演している女優はベトナム系アメリカ人なのに悪口を書かれるときは決まって「中国人」だ)、映画を公開する側からすれば、日本はなんと魅力に乏しい国だろう。
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』はウェルメイドな作品ではなく、あちこちに曖昧さや余白を残した作品だ。それでいながら、キャラクターは互換性がきかないほど強固に造形されている。さらに、アクション・シーンのカメラワークは複雑を極め、明らかにオーバースペックだ。これほど強烈な個性を持ったわがままな映画が、なぜか中国では大ヒットしてしまった。たくさんの若いファン、日本でいうオタク層に支持されている。その事実に、僕は戦慄に近いもの、畏敬のような感情を抱いてしまう。

(C)2015 October Animation Studio, HG Entertainment

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