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2018年1月15日 (月)

■0115■

レンタルで、オーソン・ウェルズ監督の『黒い罠』と、マキノ正博監督の『鴛鴦歌合戦』。
Mv5bnjhmztdjyzmtnwy4mi00ntmxltkznwq 『黒い罠』は、ダイナマイトの時限着火装置のタイマーのアップから始まり、クレーンで爆弾の仕掛けられた車に乗る男女を俯瞰でとらえ、さらに大通りに出た車にカメラがぴったりと併走するファースト・カットが素晴らしかった。ようやくカットが変わったと思ったら、それは爆発する車をとらえたショットだ。つまり、時限爆弾が爆発するまでの過程を、完全なリアルタイムで追っている。
ただ、ファースト・カットが完璧だった分、編集段階で大幅に削られたり付け足された痕跡が分かって、そこで白けてしまう。それでも、公開当時にゴダールやトリュフォーは絶賛したというから、カイエ・デュ・シネマの批評力は底知れない。


前回、アニメーションの気持ちよさはサイレント映画時代の「登場人物の細々とした内面描写や長々とした科白回しから離れた、純粋な身体の運動」に通ずるのではないか、と四方田犬彦さんの著著を引用しながら、牽強付会に言いきった。
Singing_lovebirds_1『鴛鴦歌合戦』は、1939年に公開された和製ミュージカルだ。もちろんトーキーなのだが、そこには音楽に秩序立てられた「純粋な身体の運動」をありありと見てとることができる。人物はセリフで感情表現するのだが、そのセリフが歌となる。誰かが歌っている間は、周囲の人物もリズムにのって体をゆらしたり、楽器を演奏したりする。音楽が、人物の動きをコントロールしている。
歌の合間にセリフが入るので、セリフも音楽のような名調子である。

片岡千恵蔵の演じる三人の女性にモテモテの浪人・禮三郎が、ヒロインのお春(市川春代)と話している。2人は惹かれあっているが、嫉妬深いお春はツンケンして、自分の気持ちに素直になれない。
禮三郎「ふふふ、妬いてるね」
お春「誰が?」
禮三郎「お春さん」
お春「ちぇっ!」
禮三郎「ふふふ。ああ、いいもんだね。恋の絵日傘、紅傘か。青い水玉、浮き心……」
セリフが五七調となり、歌のようなリズムをはらんでいく。このシーンでの片岡千恵蔵は、「妬いてるね」で市川春代をピッと指差し、「恋の絵日傘」で目をそらして、傍らに置いてある傘を手にとる。演技に、音楽のような優雅な流れがある。

掘り出し物の古い茶碗を買った志村喬が、「アッハッハ」と笑いながら、茶碗の入った箱を両手で前に突き出して、画面手前へ来る。ところが出口を間違えていて、くるりと振り返って、箱を手にして小走りする。まったく不要な芝居なのだが、この段取りがシーン転換へのリズムを生んでいる。


圧巻は、女好きの殿様の家来を相手に、片岡千恵蔵が大立ち回りを演じるアクション・シーンだ。
効果音もセリフもなし、アップテンポの軽快なジャズが流れる。家来たちは刀で切りかかるが、丸腰の千恵蔵は右に左にヒラリヒラリと身をかわし、相手の頭を素手でコンと叩く。よろめいた家来が、わざわざカメラの前まで来て、痛そうに顔をゆがめる。
タタタッと走ってきた千恵蔵が、ピタリと止まって、取り囲んだ家来たちをグッとにらみつける。この間合い、まるで金田アクションである。斬られたら血が出るようなリアリズムではなく、迫力あるカットワークでもなく、被写体の踊るような動きが快感を生み出している。
あるいは、セリフのテンポが演技と調和して、音楽的な面白みとなっている。

意外と、「雨の中で思いのたけを叫ぶ」式のルーティンな演出にも“型”があって、ルーティンなりの出来不出来があるような気がしてきた。

(C)1939年日活株式会社

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