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2017年12月29日 (金)

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レンタルで、イタリア・フランス・ドイツ合作映画『ドイツ零年』。
Mv5bmtgyndq0mze2m15bml5banbnxkftztg20代のころ、吉祥寺ジャブ50でロッセリーニ映画祭があって、トイレを我慢しながら観たのが同じロッセリーニ監督の『無防備都市』だったと記憶する。しかし、『ドイツ零年』の後半、敗戦直後のドイツの廃墟を、少年が行く宛てもなくさまようシーンには確かに見覚えがあった。
1948年の公開だから、先日観た『カサブランカ』とは戦争をはさんで6年の差がある。ほとんとがセットで撮影されている『カサブランカ』に対して、『ドイツ零年』はオールロケ。本物の廃墟で撮影されている。室内シーンもロケセットなので、狭い室内で苦心して撮った跡がうかがえる。長回しが多い。

では、素人のような苦しまぎれな撮り方をしているのかというと、そんなことはない。病床にある少年の父親が、戦争や自分の過去について長々と話すシーンがある。カメラは父親、姉、兄、そして少年の顔へとゆっくりPANしていく。少年が立ち上がって別室へ行ったところで、カットは切り替わる。だが、父親のセリフはつづいている。少年は室内で紅茶を用意しているのだが、彼は家族に見られないかを気にしている。少年と父の顔がカットバックする。少年は画面右方向をチラチラと気にしていて、父親の顔は画面左方向を向いている。すると、少年が父親に対して何か意図をもっていると分かる。いつも書いているように、向かい合うように配置された二人の人物のカットが続くと、まるで会話しているように見える。二人の間に、何らかの関係が生じる。
少年は家族のいる部屋に戻ってきて、紅茶を淹れると、父親のもとへ持っていく。もちろん、画面左から右へ歩いていく。さもなくば、少年と父親のカットバックが台無しになってしまう。
本当にでたらめな映画は、人物の位置関係にルーズだ。人物がどちらを向いているか留意した映画は、たったそれだけで劇的効果を生み出す。

このシーンの意図は、少年が父親に毒を飲ませた、と観客に理解させることだ。上記のカッティングで、ちゃんと異変が起きていることが伝わってくる。


貧しさのあまり、父親を毒殺せざるを得なかった少年は、家を出て徹底的に破壊されたドイツの街をさまよう。ここが、『ドイツ零年』の本当の見せ場だろう。
Mv5bn2mxmdjkzgqtymvjoc00mdqyltgymjg冒頭で解説されるように、この映画は敗戦直後のドイツの風景を記録することを目的にした劇映画だ。(このセミドキュメンタリー技法は、ロッセリーニ監督の助手だったトリュフォーや、ゴダールに受け継がれていく。ただし、ヌーヴェル・ヴァーグには、ネオレアリズモの悲壮さや義務感はなく、ただ放埓さだけがある。)

とても好きなシーンがある。
父親の死を見届けて、誰からも相手にされず、ひとりで廃墟を歩く少年のバストショット。不意に、パイプオルガンの荘厳な音色が響き、少年は顔を上げる。カメラが少年の背後に回りこむと、そこには焼け残った教会がそびえている。
教会の中で、神父がオルガンを弾いている。教会の周囲では、道行く人々が立ち止まり、教会を見上げている……が、少年はその場を立ち去る。道路には、斜めに建物の影が落ちている。少年は、その影の中に入るのである。
パイプオルガンが背後に流れている。だが、少年は寂しそうな顔で歩きつづける。父親を殺した彼には、救いなどない。その冷淡な事実が、一言のセリフもなしに伝わってくる美しいシーンだ。アップとロングの使い分けも、カメラの動きもいい。


僕は今年になってヒッチコックの優れた娯楽サスペンス映画群にはまって、では、なぜヒッチコックを高く評価していたトリュフォーがヌーヴェル・ヴァーグのような自由放埓な映画を撮りはじめたのか、興味をもった。

日大の映画学科でも映画史の授業があったはずだが、ネオレアリズモもヌーヴェル・ヴァーグも、僕は佐藤忠男さんの『ヌーヴェルヴァーグ以後』で知った。しかし、いきなりロッセリーニやトリュフォーを見はじめても、その価値は分からない。
1940~50年代にかけて、大衆娯楽として完成された映画を経ないと、ネオレアリズモやヌーヴェル・ヴァーグがどれほど衝撃的だったのか理解することは不可能だと、この歳で知った。若いころの“感受性”など、何の役にも立っていない。

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