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2017年10月28日 (土)

■1028■

ホビー業界インサイド第28回:フィギュア原型師という「職業」と「市場」を切り拓いた男、秋山徹郎の過去と現在(
T640_742387『我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか』でも取材させていただいた秋山さんに、「是非また取材しに来てください」の約束どおり、お会いしてきました。
こういう記事には「懐かしいですね」とリアクションいただくことが多いのですが、僕は秋山さんがプロデュース側に回って、「フィギュアを作る人たちが食べていけるように」という若いころの理想を実現してらっしゃるから、取材する価値を感じたのです。「懐かしい」なんて動機では、お金をもらって書く記事にはならないですよ。

「懐かしい」も娯楽だし、商売になると思っています。だけど、単に「懐かしい」だけでは誉めたことにならないし、何より発展性がない。「懐かしいですね」と言われると、とても戸惑います。
だから、アキバ総研の「懐かしアニメ回顧録」という連載タイトルには、かなり抵抗しました。結果、「昔は良かった」という情緒的な内容ではなく、シンプルに演出や作劇を探る連載になっているはずです。


高校時代、『マクロス』のプラモデルを教室に持ち寄っていたら、イケメンの無趣味なクラスメートから「そんなもんに金使ってるの? いくらするの?」と聞かれたので、僕らオタク仲間は「700円」と正直に答えました。イケメンは「うわ、信じれない。俺に700円あったら……、メシ代に使うよ」とコメントして、その場を去りました。
僕は700円を趣味ではなく、食事に使うしか脳のないイケメンを気の毒に感じたし、どれほど無味乾燥とした人生を送っているんだと、心の中でバカにしました。
だいぶ後になってから、食事にお金を使わず、少しでも美味しいものを食べようとしてこなかった自分のほうが、むしろ人生を棒にふっているような気もしてきたのです。

自分は食事に無頓着で、コンビニ弁当やインスタント食品、ファストフードが好きでした。
すると、味覚が育たないわけです。いつまでも子供が食べるような食事パターンから抜け出せない。
1989年に発売された別冊宝島『おたくの本』に、オタクっぽい人はイチゴジュースとジャムパンだとか、子供のおやつのような食事が平気と書かれていて、ひそかに赤面したものでした。食事にこだわりがない癖に、「食事なんて、お菓子でいいじゃん」と割り切ることも出来ないわけです。

歳を経たから、自動的に子供時代が終了して、新たに「大人」の設定がインストールされるほど都合よくはないのです。また、子供時代や思春期を、中年になった自分と分断すべきとも思いません。思ったより地続きだろうと感じています。


“詳しい話はしらんで言うんだけど、「パクリ」とか「トレス」とか「資料見て描いたからズルい」とか言いたがる人って、つまるところ、「だから、大した事無い」と言いたいというか、そう思いたいだけなんだよな、多分。”(

僕は、「ネタバレ」にも同じようなニヒリズムを感じています。
電車男が流行したころ、「どうせネタだろ?」という言い方が流行りました。受け狙いのウソ話だろ、という程度の意味です。ネタ=ウソ話には価値がない、信じるほうがバカだというわけです。
「本当はたいしたことないんだけど、秘密にしておくことによって価値があるかに見える」、そのような薄っぺらなニヒリズムが「ネタバレ」という言葉を裏から支えているように思えます。
しょせん、どんな立派に見えるものにも手品のタネがある。タネや仕掛けを先に話してしまったら、秘密が露呈されて見る価値がなくなるかも知れない。だから、タネ明かしせずに黙っておいてやろうぜ、といった傲慢を感じるのです。

僕だけがその映画を見ていなくて、ほかの人たちが見終わっている場で、「えーと…ラストまで話しても大丈夫ですかね?」と、気を使われることがあります。
大丈夫ですよ。あなた方が話した程度で、作品の価値が減じるなんてことはあり得ませんから。たとえ蓮見重彦と四方田犬彦が目の前で話したところで、それでも映画を見る楽しみは損なわれませんので。
作品をつくる人は神ではないし、永遠不変の価値や評価が作品に与えられるわけではありません。ただし、作品と個人との出会いには何千パターン、何億パターンと予想不可能なバリエーションがあり、出会いが多様であるほど、作品の評価軸も無限に広がるのです。今日の僕にとって無価値な作品が、数十年後、あるいは明日、誰かを救うかも知れない。それは自分だけでなく、他人を信じるということです。他人を信じないと、世の中は豊かにならないと思います。

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