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メイキング オブ 『マイマイ新子と千年の魔法』 6日発売2011年に発売されたムック本が、電子書籍になります。
電子書籍化の話自体は、かなり前から聞かされていました。当時としては力不足でしたし、出来れば作り直したいし、そもそも僕では役不足とも思うし……。
『この世界の片隅に』の大ヒットによって『新子』にもスポットが当たったことは、とても嬉しいです。今後も、ちょくちょく上映されていくことになるだろうと思います。
冒頭の福田麻由子さんのナレーションが「去年の夏」のところで途切れて、また「去年の夏」で再開する、あの音楽のようなタイミング……時間感覚。「これは何にも代えられない、すごく大事なものが始まった」という直感は、何度見ても新鮮なままだし、いまだに何がどう凄いのか言い当てることが出来ません。
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この本の発売日に東日本大震災が発生して、そのちょっと前から、僕は母の死の中でこの本を作っていたのだなあ……と、当時のあれこれを振り返ると、買ってくださった方、これから買ってくださる方には申し訳ないけど、いつか『新子』資料集の決定版が、僕以外の誰かの手によって作られるべきだと思わずにいられません。
『この世界の片隅に』を20回も観に行っている人たちは、どんな気持ちなんだろう。
『新子』が上映されるたびに何度も足を運んで、いつの間にかお客さんが途切れなくなってきて、寒い寒い冬から少しずつ春になって、「そろそろ僕が行かなくてもいいかな」と距離を置きたくなった、ちょっと胸がしめつけられるような気持ち。明らかに過剰な思いいれ。
「廣田さんが、そこまで言うなら」と、映画館に一緒に行った知り合いたち。卒業した小学校から歩いて行ける映画館で、映画そっくりにドカンを開催した日。映画そっくりに集まってくれて手伝ってくれた人たち。福田麻由子さんに渡した花束。
貴伊子の母の不在と、タツヨシの父の自死は、どこかで僕の母の死と結びついてしまっている。人生を分け合ってしまっている。この映画と僕とが。
『マイマイ新子と千年の魔法』は、僕の人生から離れてくれない。他のどの映画とも違う。あのとき親密にしていた他の誰とも、分け合えない。それは「独占したい」とか「俺がいちばんよく分かっている」というくだらない感情とは、まったく違います。「孤独」なのです。この映画のことを思い返すたび。
僕の「孤独」は、この映画の中に溶け込んでいて、分けることが出来ない。僕は、この映画に甘えているのです。あまり、こういう関係はよろしくないな、と思います。
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僕の世界観というのは、「何もなくて退屈だとボヤくよりは、ちょっと豊かな気持ちになれるように、ほんのちょっとの慰めがあるように」。映画やアニメも、そのためにあると思っているし。僕の仕事も「ちょっとの豊かさ」につながってくれればいいと思っているし。
広い道は敷けないけど、細くて歩きやすい道を、あまりいい思いをしていない誰かが安心して使ってくれればいいな……と思っています。
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コメント
廣田さんの活動が無ければ、「マイマイ新子と千年の魔法」は、知る人ぞ知るアニメとして世間から忘れられ、片渕監督の「次回作」は今なお「制作準備中」だったと思います。
ご本人が厭がるだろうと思って、誰も口にはしませんが、少なからぬ人が廣田さんにこうべを垂れていると、私は思います。
投稿: 印度総督 | 2017年10月 6日 (金) 21時21分
■印度総督さま
こんばんは。いつも、ありがとうございます。
映画館にリクエストして、友人・知人を誘って足を運んだ人たちが同時多発的にいたから、『マイマイ新子と千年の魔法』は全国どこかで上映され続けたのでしょう。
だからといって、製作サイドがいつまでも一部の熱心なファンに頭が上がらないという状態は、僕は不健全と思います。プロデューサーも監督も堂々と前を向いて、「みんな着いてこい!」と胸を張っていて欲しいのです。今、そうなってくれたことが本当に嬉しいですし、世の中にとって善いことだと感じています。
あの時期って、作品も状況も僕たちファンも風邪を引いて熱を出していたような気がするんですよ。何しろ、寒い冬でしたから。
投稿: 廣田恵介 | 2017年10月 6日 (金) 21時41分
>あの時期って、作品も状況も僕たちファンも風邪をい
>て熱を出していたような気がするんですよ。何しろ、>寒い冬でしたか>ら。
今思うと当にそうでしたね。友人からすごいアニメがあると教わりラピュタへ足を運び、そこで衝撃を受けました。その後彼がバウス上映会用に一生懸命チラシ、ポスター、絵葉書を作り、デザインを巡って色々あったりして。自分も少しだけお手伝いしました。
当日は当たり前のように子供たちを連れて行ったりしました。
でもその時皆んなが風邪を引いていたから今のマイマイやこの世界の片隅にがあるわけです。
先日防府でマイマイ新子探検隊が久々に開催されましたが、Twitterで参加者からのたくさんのツイートが寄せられていたのをメイキングオブマイマイ新子を傍らに読んでいました。
この本は廣田さんだからこそまとめられた本だと思っています。
投稿: やっさん | 2017年10月 9日 (月) 21時37分
■やっさん様
こんにちは。『マイマイ新子と千年の魔法』はマイナスから出発したかも知れませんが、『この世界の片隅に』のおかげで再評価されているのも、ひとつのドラマですね。善いことです。
メイキング本をつくった頃は、まだ風邪が後を引いている時期だったので、今ひとつ作品に謙虚に向き合っていない気がして……。今のほうが、落ち着いた重厚な本が出来るんじゃないでしょうか。
それと、一度もまだ防府には行ったことがありません。ひとりで行ってみようかなと思ったことはありました。どこか、僕の中ではおとぎの世界のような、行ってみて何も感じられないことが怖いのです。
2009年から一年ぐらいの間には、いい事もいやな事もありました。僕も、人として未熟だったし……激しく消耗するし、本当はあんなことはやらない方がいいのです。たまに美談のように語られているのを見ると、ちょっと戸惑います。
投稿: 廣田恵介 | 2017年10月10日 (火) 11時21分
廣田様、メイキングオブマイマイ新子の本の代2版が出たそうです。
電子版も便利ですが、この本はやはり紙が良いなと思います。
投稿: やっさん | 2017年10月29日 (日) 22時32分
■やっさん様
こんばんは。確かに通販サイトによっては注文可能になっているらしく、出荷済みになったというツイートも拝見しました。出版元からは増刷がかかったという話は聞いていませんので、どこかで眠っていた在庫が動いているのかも知れませんね。真偽は分かりません。
余談ですが、あの本の内容について「片渕監督のWEB連載をピックアップして再構成しただけ」と書いている人がいますが、それは事実と違いますね。内容が被らないように、監督や制作会社さんと話して決めましたので。
投稿: 廣田恵介 | 2017年10月30日 (月) 04時40分
廣田様、
私の読んだツイートの方が入荷したのは今年10月20日発行の第2版で帯の記載がこの世界の片隅にの片渕監督作品と変わっていましたので最近重版されたものです。
投稿: やっさん | 2017年10月30日 (月) 10時03分
■やっさん様
おはようございます。
なんと、そうでしたか。それは凄いことですね。よく調べずに、すみませんでした。
しかし、出版社からは何の連絡もありません(笑)。本の評判が良ければ嬉しいのですが。
投稿: 廣田恵介 | 2017年10月30日 (月) 11時19分
廣田様、
電子版を購入された方も紙盤を待っていたようです。個人的にもこの本は紙が良いと思います。
でも重版を廣田様に知らせないのは不思議ですね。
投稿: やっさん | 2017年10月30日 (月) 12時17分