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マリリン・モンロー主演の 『お熱いのがお好き』を、レンタルで。ビリー・ワイルダー監督は『アパートの鍵貸します』も面白かったが、翌年公開の『お熱いのがお好き』は、カメラワークがどうとか言うより、プロットが凝っている。
トニー・カーティスとジャック・レモンのコンビが、禁酒法時代のシカゴからギャングに追われて、女性だけの楽団に忍び込む。もちろん、2人とも女装しなければならない。その楽団の中で、彼らはモンローの演じるウクレレ奏者と出会う。
ジャックは、旅先で出会った老富豪に女と間違われたまま、ついに婚約してしまう。一方のトニーは女装しただけでなく、さらに若い大富豪に化けて、モンローから熱烈に求愛される。ジャックが婚約した老富豪の客船を「僕の船だ」と偽り、トニーはモンローを誘う。つまり、ジャックの得た恋の成果を、トニーが横取りするわけだ。
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感心した演出がある。
トニーはモンローを小さなボートに乗せて、豪華客船へと案内する。しかし、自分のボートではないので、操縦方法が分からない。「このボートは試作品だから、後ろにしか進めないんだよね」とごまかして、後ろ向きにボートを走らせる。
2人が逢瀬を終えて立ち去ると、本来のボートの持ち主である老富豪が戻ってくる。彼は、当たり前のようにボートを前へ走らせるのだ。この流れを、ワンカットで撮っている。
つまり、トニーが女装したうえに大富豪に化けたウソの身分では、ボートは後ろにしか進まない。ジャックに恋した老富豪が乗ると、同じボートでも前向きに走る。ジッャクとトニーが落ちたのは、どちらも道ならぬ恋である(2人とも、性を偽っているのだから)。
しかし、トニーとモンローの関係は二重にウソをついているため、道行は困難だ。だから、ボートは後ろにしか進まない。反面、ジャックと老富豪の恋はシンプルだ。だから、ボートは前へ進む。シチュエーションの対比を、「絵」(フレーム内の情報)で見せている。
ラストシーン、それぞれ正体をバラしたトニーとジャック、そしてモンローと老富豪の4人を乗せたボートは? まっすぐ前へ進んで終わり。前へ進んだ理由も、ちゃんと描かれている。
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もう一本、陽気なアメリカ映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』。お気楽な娯楽作品ではあるが、実は、このミもフタもないプロットが映画の正体を明かしてくれている。
主人公は雇われシェフだったが、料理評論家に酷評されて職を解雇されてしまう。彼は元妻の前夫を頼り、彼からフードトラックをもらい、屋台で大成功する。元妻とも復縁し、料理評論家は謝罪して、主人公の味方に回る。
一応、主人公は口では「どん底に落ちた」と言ってはいるものの、周囲の人々は協力的で、とてもそうは見えない。ありきたりな葛藤は皆無である。
では、何が2時間もの上映時間を持続させているのか?
前半では高級レストランで料理をつくる手さばき、中盤ではトラックの清掃と改装、後半は屋台での料理づくり。それぞれ、適切なアングルでシズル感を出し、テンポのいい長さで編集している。それが見せ場だ。まったく飽きない。次から次へと料理を出されたり、汚いトラックが綺麗になっていくプロセスを見せられて怒る人はいないだろう。アクション映画の気持ちよさに似ている。
この映画が、本気で親子愛や料理人の人生を描いている (描くべき)と思ったなら、それは劇映画に対する片思いと言ってもいい。「物語」は、ペースメーカーに過ぎない。映像と編集こそが主役であることを痛感させてくれる映画。
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