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アニメ業界ウォッチング第37回:“ぴえろ”創設者の布川郁司が語る、アニメ企画のこれまでとこれから(■)ぴえろの布川郁司さんに、取材させていただきました。布川さんのお名前を記憶したのは、言うまでもなく『うる星やつら』のオープニングです。
この取材は、10/7(土)から開始予定の【三鷹ゆかりのアニメ『魔法の天使 クリィミーマミ』ビジュアル展】の告知の意味もありますが、お話のテーマは、あえて別のものにしています。
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レンタルで、1996年のイギリス映画『秘密と嘘』。若い黒人の女性が、母親を亡くす。彼女は役所で、自分には生みの母親がいることを知り、彼女に会いに行く。母親は白人で、工場で働きながら成人したばかりの娘と暮らしていた。母親は、黒人の娘が会いにきたことに戸惑う。
まあ、筋立てを整理すればこうなるのだが、最初は三つぐらいのプロットが別々に並走している。母親の兄は、小さな写真館を経営している。そっちはそっちで、妻とのいさかいが絶えない。それぞれ、小さな家族模様が描かれる。
映画にグイと引き込まれるのは、写真館を経営する兄が、家族写真を撮るシーン。おそらく俳優ではない普通の人たちの家族を実際に集めて、カメラの前で正装させて、アドリブで撮っている。次から次へと、さまざまな夫婦や親子、ペットの犬などが画面に現れては消えていく。カメラを覗いている兄の声は、「笑顔でお願いします」「もう少しあごを引いてください」など、画面外から聞こえるだけだ。カメラのファインダーごしに、彼と観客とは一体感を経験する。
このシーン以降、どんな場面が出てきても、親しみをもって場面に没入することが出来る。
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この映画は、ほとんどすべてアドリブで撮られている。だから、表情を捉えやすいように、人物は並んでいるか、横顔を見せるような位置に座っている。どうしても切り返しをしなければならないシーンでは、カメラを二台置いて、同時に撮っている。クライマックス、バラバラに生きてきた人たちが一堂に会するパーティのシーン。正面の座席には、誰も座っていない。なので、7人全員のリアクションを同時に撮ることができる。
検眼師の黒人女性が「人の目を見ると、その人の性格が分かるのよ」と話すと、写真家の兄が「その通りだな」と相槌を打つ。職業や立場をふまえながら、それらしい雑談を交わしている。
この手の人間くさい撮り方をした映画が好きな人にとっては、至福の二時間半だろう。
特に、黒人女性と彼女の母親とが、どんどん仲良くなっていくシーン。笑いながら店から出てくる二人を、望遠レンズで撮っている。セリフは聞こえない。周囲には、映画と関係ない通行人も映っている。そのラフさが、心地いい。
昼間から酒を飲んでいた母親は、最初は髪も服も乱れていたが、だんだん明るい色の清潔な服を着るようになる。二人が食事する店が、あまり高級そうではないレストランなところもいい。当然、セットなど建てるタイプの映画ではないので、すべてロケである。
しかし、衣装やメイクや撮影場所は、とても丁寧に選択されている。
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こういう映画では、カット割りや構図を分析しても、ほとんど意味がない。俳優の生のリアクションを引き出しながら、たまたま撮れた良い表情を選んで編集したりしているからだ。
無理やりなことを言うと、街にカメラを持ち出したという意味では、こういうロケ重視、アドリブ重視の映画はヌーヴェルヴァーグの子孫と呼べるかも知れない。というより、アドリブ重視といえば、ジョン・カサヴェテス監督の『アメリカの影』があった。そっちに近いのか。
結局、いろんなタイプの映画を受容するには、いろんなタイプの映画をあれもこれもと見続けるしかない。そして決して点数などつけず、映画によって寛容に、おおらかに尺度を変えることだと思う。
(C)October Films
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