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2017年9月19日 (火)

■0919■

中学生のころにテレビ放送されて、すっかり見た気でいた『パピヨン』を、レンタルで。
Mv5bymyzntm5zduty2qxzc00odu5lwe2yjuボートで、監獄から洋上へと脱出した主人公たち。ダスティン・ホフマンの演じるニセ国債づくりの天才が、化膿した傷口を焼いたナイフで消毒してもらう。何しろ、ボートの上である。麻酔がないので、大量に酒を飲ませてもらい、「もう私はベロベロに酔ってしまったよ」と力なく笑う。このシーンだけ、やけにハッキリと記憶していた。
特に構図がどうとか、カッティングがどうとかいう作品ではない。どちらかというと、構図やカット割りはルーズな、荒々しい作品だ。

では、何がこんなに面白いのかと考えながら見ていたのだが、ようするに次から次へと変わったシーンが展開されて、飽きさせないのだ。
前半、ギアナの監獄へ送られたスティーブ・マックイーン演じるパピヨンとダスティン・ホフマンの演じるドガが、沼での労働中、ワニを捕まえようとする。特に必然性のあるシーンではないが、本物のワニを生身の俳優二人が捕まえようと身構える、長いワンカットだけでも面白い。その後、ワニの腹をナイフで裂くシーンもある。

一度目の脱獄に失敗したパピヨンが、独房に閉じ込められる。独房の窓から頭だけ突き出した囚人たちが、ひとりひとり散髪してもらう。かと思うと独房の窓をふさがれて、画面が真っ暗となる。わずかな光の中で、ムカデやゴキブリをすりつぶして、スープに入れて食べるシーンがある。とにかく、次にどんな仰天するようなシーンが出てくるのか、それで興味をつないでいる。


脱獄に成功してからも、メチャクチャな「絵」がつづく。
海岸に流れ着いたパピヨンは制服を着た白人たちに出会うが、彼らは吹き矢を使う原住民にパピヨンを追わせるのだ。原住民の仕掛けたワナで、仲間のひとりが死ぬのだが、「だって、この方が面白いでしょ?」と言わんばかりの珍妙な形をしたワナであった。

うまく逃げのびたパピヨンは、少数民族の村にかこわれ、オッパイを丸出しにした美しい現地の娘と仲良くなり……と、ほぼ「絵」の面白さ、珍しさだけを優先したような展開が相次ぐ。オンボロのトラックから馬車へ乗り換えたり、そのために村の長からもらった真珠を使ったり、リアリティもなければ必然性もない冒険がえんえんと続く。ラストはなんと、ココナツを詰めた袋を抱えて、海へ飛びこむ。ココナツの浮力で、実際に荒波のうえでプカプカと浮かんでいるのだからすごい。
特殊メイクのハンセン病患者も出てくるし、ようするに見世物である。なにか高尚なテーマがあるわけでもないし、映画としてのレトリックが冴えているわけでもない。意外すぎるシーンとモチーフの詰め合わせ、というだけである。

70年代のアメリカ映画は、面白さに対してがめつい。“精細な感受性”など、ゴミ箱に放り捨てるようなヤケクソさ、雑駁なバイタリティがある。


前回、『ダンケルク』の縦の構図について書いた()ところ、IMAXで見ないと画面上下が切られたものを見せられることになるぞ、と複数の方から聞かされた。
しかし、画面の上下が切られた途端、被写体の位置関係が逆になったり、縦の構図が横の構図になるような大転換が生じるのだろうか? 結局、劇場都合の設備の違いやアスペクト比の違いで「分からない映画が分かるようになる」という信仰は、自分の目が信じられずに「外部」に映画の価値を委ねているのだと思う。

以前から言っているように、飛行機の機内上映の狭いモニターで見ても、面白い映画は面白い。つまらない映画はIMAXだろうと4DXだろうとMX4Dだろうと、つまらない。というより、しょせんは「自分の目」で見ているのだから、その人の審美眼が濁っていれば、何をどんな環境で見ても面白くはならない。
僕は深夜テレビで『サブウェイ』を見て、映画の半分をすぎたあたりから見たにも関わらず、その洒脱なセンスに惚れこんでしまった。友達に「こんなシーンのある映画を知らないか?」と聞きまくって、ようやくタイトルを知ることが出来た。
あるいは、名画座で抱き合わせにされた映画が、フィルムも傷だらけならカットも飛びまくる、あるいは音声が出ない、映写技師が巻数をかけ間違える……というボロボロの状況下で見ても、それでもやはり声が出ないほど感動したこともあった。

そのような「取り返しのつかない体験」だけが、その人に固有の価値観を作り上げるのだと思う。IMAXで観なければ、音響のいい映画館で観なければ……と、僕自身がこだわって映画館を選ぶことはあるが、その環境下で見ていない人の感想でも、その人に固有の体験から生じているだろうから尊重する。
自分だけの価値観を持つ――、それは人生の孤独を受け入れることだ。その覚悟のない人は、自分の外部に、自分の不幸や幸福を委ねたがる。ようするに、「人のせいにしたがる」のだ。

(C)1973 - Warner Bros. All rights reserved.

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