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2017年9月18日 (月)

■0918■

立川シネマシティで、『ダンケルク』。
2017090900010000piaeigat000view予備知識としては、英軍と仏軍がダンケルクという海岸まで追いつめられて、ドイツ軍から逃げねばならない。その程度しか分かっていなかった。だけど、十分に楽しめました。
この映画は、おそらく3分の2ぐらい、上のような“縦の構図”で占められています。“縦の構図”とは、画面奥に絵が展開している構図です。『スター・ウォーズ』のオープニングで小さな宇宙船を巨大な戦艦が奥へ奥へと追っていく。分かりやすくいえば、ああいう構図です。威圧感や圧迫感が出ます。しかし、全容が把握しづらいため、ストレスがたまる。

『ダンケルク』は、敵軍に追いつめられて、海から脱出しようとする話ですよね? 戦史を知らない僕でもその事情を理解できるのは、画面奥に海があって、常に海に向かって兵士たちが歩いたり走ったりするからです。
特に前半、担架を桟橋で運ぶシーン。登場人物たちは、奥へ奥へと進んでいたはずです。その先に海、すなわち脱出口があるからです。

兵士たちは、海へ(画面奥へ)逃げたい。だけど、ドイツ軍が上空から機銃掃射してきます。その着弾は、画面奥から手前にダダダッと来ます。つまり、「まさに兵士たちが逃げたい方向から、敵軍の攻撃が来る」。……この描写だけで、どういう状況か分かるじゃないですか。通せんぼされているから、そう簡単に逃げられないってことでしょ?
セリフではなく、構図によってシチュエーションや解決せねばならない課題を言い切っている。


民間人の兄弟が、救命胴衣をボートに積んで、兵士たちの救援に向かいます。このシーンも、縦の構図です。救命胴衣を用意する弟を、背中から撮っている。顔も動作も、よく見えない。そもそも、真正面から分かりやすく人の顔を撮ることが少ない。表情なんて見せてる場合ではないんですよ、切迫してるんだから。状況をどんどんどんどん描かないと、敵が迫ってきてるんだから。

空中戦のシーンも、そうですよね。コクピットからの主観カットだと、敵機は小さく、必然的に縦の構図になります。映画の前半は、ほとんど縦の構図です。
会話シーンの簡単な切り返しでも、フレームの手前に対話している人物の肩などを入れて、いちいち、密度の詰まった構図にしています。

 

では、最後まで窮屈な縦の構図のままなのか? 
違います。民間船の大群が兵士たちを助けに、海の向こうから現れるシーン。ここでようやく、普通の映画のように、俯瞰ぎみの見やすい構図になります。それまでが縦の構図で占められていただけに、すごい開放感です。
つまり、友軍が現れて希望が見えてくると、“縦の構図”縛りがなくなる。パーッと開けた、安定した構図が増えていく。こんな分かりやすい映画、なかなか無いですよ。それ以降、飛行機を斜め上から撮った、ゆったりとした美しいアングルも使われはじめます。そして、危機的状況を示すシーンになると、再び圧迫感のある縦の構図が使われる。

展開に合わせて構図を変えている……というより、「構図の変化によって、展開をつくりだしている」のです。実に機能的です。


この映画は、冒頭から「物体の運度と方向」を撮っています。街中で、兵士たちは画面奥へと進む。同じカットの中で、上空から「降伏しろ」と書かれた紙が、パラパラと落ちてくる。テロップも、一行ずつ、上から下へと増えていく。上から下、手前から奥への運動が、最初の一分で提示される。
だったら、人物が四角いフレームの中で次にどっちへ動くか、気になりますよね。それさえ追っていけば、映画の面白さって分かると思うんですよ。

映画は、どうあがいても四角いフレームから逃れることはできません。立体映画という試みは過去に何度も試されてきましたが、映画がフレームを捨て去ることはありませんでした。
映画は、90分なり120分なり、一定の持続時間を与えられた四角い枠でしかない。その四角い平面の中で、視覚情報が変化する。別に、スクリーンから「テーマ」や「メッセージ」がテレパシーのように送信されてくるわけではないのです。だったら、四角いフレームを注意深く凝視するしかない。僕らと映画との関係は、とてもシンプルです。

 

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

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