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2017年9月13日 (水)

■0913■

立川シネマシティの小さなスクリーンで、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。
6401993年放送の岩井俊二版は、大学時代の友人から「今すごいものがテレビでやってるから、フジテレビをつけろ」と夜中に電話があり、再放送を見た(番組直後に岩井監督の劇場デビューとなる『Love Letter』の予告が入っており、最高に心躍った)。
岩井監督を知る10年前、実は若者と日本映画の関係に決定的な変革が訪れていた。大林宣彦監督の『転校生』だ。1982年の公開。

『転校生』と、いま若者に受け入れられているアニメとは共通点が多い。
尾道という、あまり知られていなかった地方の古い町、昔ながらの風俗を描きながら、そのノスタルジアやセンチメンタリズムが中学生の恋愛を描くのに向いていることを証明してくれた。それまでの青春映画は、大人が若者像を勝手に規定し、「この女優とこの主題歌とこの原作で、予算はこれこれで」と、広告代理店的な発想で一方的に投下されるものばかりだった。
『転校生』は配給こそ松竹だが、制作したのは大手映画会社ではなく、インディーズとも言うべきATG(日本アートシアターギルド)だった。必然的に、作品本位・作家本位の制作体制となった。
低予算である。少数精鋭である。ヒロイン役の小林聡美は無名に近く、これが劇場デビュー作で、乳房まで見せている。しかも、まったくセクシャルではない。その時点で大手映画会社のアイドル映画とは、一線を画す。少しも飾らない、等身大の、地方都市の中学生。彼ら彼女らの、大人の介在する余地などない切実な恋愛。

中学生や高校生の観客と、初めて生(ナマ)に向き合った青春映画が『転校生』だった。
岩井版の『打ち上げ花火~』にも、昨年の『君の名は。』にも、『転校生』の誠実さが息づいているのを感じる。
簡単に言うと、それらの映画は、若い観客と被写体にしている若い俳優たちをバカにしていない。


企画の川村元気に、作家を大事にするATG的な心意気があったからこそ、シャフトと新房昭之監督に岩井作品をアニメ化させたんだと思う。新房(総)監督の前作『傷物語』シリーズの配給は東宝映像事業部で、公開規模は108~118館。今回の『打ち上げ花火~』は東宝配給で、298館でスタート。
ATG制作の『転校生』の翌年、大林が角川映画制作の『時をかける少女』で大ヒットを飛ばしたプロセスを想起させる。だけど、『転校生』と『時をかける少女』は尾道三部作という一貫性があるのに、『傷物語』と『打ち上げ花火~』の間には、大きな断絶がある。『傷物語』の第二作『熱血篇』は、アニメなのにPG-12指定だった。『打ち上げ花火~』は、なんとしてでもG指定、全年齢推奨(映倫規定の「どなたでもご覧になれます」)にしなければならない。
そこに、ちょっと齟齬を感じた。(追記:テレビアニメ『3月のライオン』の知名度やクオリティを考慮すべきなのかも知れない。)

キャラクターの顔に2コマか1コマでゆっくり寄るとか、校舎が円形で螺旋階段があるとか、640_2 幻想シーンでセルルックではない3DCGを多用するとか、いつものシャフトの演出が、「地方都市の等身大の中学生たちの、大人の介在する余地のない切実な恋愛」と噛み合わない。噛み合わないだけであって、それぞれのシーンは美しい。特に、現実世界とはまったく異なる花火の造形や海を進む単線列車の描写は、すばらしいセンスだった。

しかし、映像センスが突出しているからこそ「どなたでもご覧になれます」とは言いがたい、ちょっとマニアックな作品になってしまった。作家を大事にしすぎたのであって、そこは非常に難しい。

『転校生』を撮った大林監督の次回作が、『HOUSE ハウス』に戻ってしまったら、企画側も観客も戸惑うだろう。だとしても、同じ作家の作品なので、文句は言えない。しかし、一部の観客が『HOUSE ハウス』を期待するのであれば、実験精神の旺盛な『時をかける少女』は、しっかり期待に答えている。
同じように、今回の『打ち上げ花火~』は、いつもの新房作品、いつものシャフト作品を期待して足を運んだ観客を、裏切ってはいない。


山口百恵が『伊豆の踊り子』で初めて主演したときは小学生だったけど、松田聖子が『野菊の墓』に出たときは中学生だったので、「ああ、大人たちにナメられてるな」「真面目すぎて退屈しそうな映画を俺たちに押しつけてるな、本気じゃないんだな」とはっきり分かった。
あと、相米慎二監督のアイドル映画が面白くなるのって、アイドルをどうでもいいと思えてからだよね。ロマンポルノを撮っていた監督や脚本家たちがアイドル映画に触れるのって、本当に不潔に感じたからね。

うまく言えないけど、アニメって、子供時代や思春期を永遠に裏切れないメディアなんだと思う。そういう特殊なメディアを、若者も大人も見るようになったんだから、いい時代がめぐってきたことだけは間違いない。

(C)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会

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