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2017年8月24日 (木)

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サンライズフェスティバル2017翔雲のレイトショーにて、テアトル新宿で『ガンヘッド』。
21077288_1417957191631524_907070594驚いたことに、『マイマイ新子と千年の魔法』公開時、いっしょに上映を盛り上げてきた友人が来場していた。もちろん、『ガンヘッド』とは無縁の人で、今回が初見だそうである。
上映後、「どうでした、何が起きているか分かりましたか?」と聞いてみると「いえ、さっぱり……」と苦笑。そう、それでいい。


僕は『ガンヘッド』を1989年の公開時に3回観に行って、2007年にDVDが発売されてからも繰り返し観ているが、いまだに争奪戦の中心にある「鉱石」にどんな機能があるのか、敵のコンピュータ「カイロン5」が何故、どうやって世界を滅亡させようとしているのか、さっぱり分からない。
分からないのだが、そのような「他の映画と同水準の」分かりやすさは、この映画の魅力とは無関係と思っている。テレビ放映時には、あちこちにセリフを付け加え、難解なセリフを簡素にし、すべての演技にも感情をこめてアフレコをやり直していたが、僕に言わせれば「何もかもぶちこわし」である。

たとえば、主人公のブルックリンが「(仲間の)ニムとイレブンに関する情報は?」と聞く。ガンヘッドのAIが、ぶっきらぼうに「NO」と答える。ブルックリンは「愛情のない言い方だな……」と呟く。
Photoところが、テレビ版では「愛情のない言い方だなあ!」とムッとするように、演技が変更されていた。ダサい。意味が「ブルックリンがガンヘッドの愛情のなさに怒っている」だけになってしまい、元のセリフが持っていた「お前も愛想のない言い方するね、まあいいけどさ」といった乾いたユーモアが消えてしまっている。『ガンヘッド』のセリフ回しには、外国映画でも観ているかのようなニュアンスの揺れ幅が感じられ、そこが他の映画にない魅力となっている。

感情をはっきり示す、登場人物が何を考えているのか明確にして、感情移入、ようするに共感させねば観客に受け入れてもらえない……そのような作り手の焦りは、最近になってますます強くなっている(だから日本映画では、激怒したり泣き叫んだりするシーンを入れたがる)。
観客の側も「感情移入できたか、できなかったか」、「泣けた」すなわち「登場人物に共感できた」ことを、映画の評価軸にしたがる。
コミュニケーションの円滑さだけが重視され、分かりづらさは悪しきものと断じられ、「名作か駄作か」の即断が迫られる。


話がそれた。
好きなセリフ回しは、まだいっぱいある。エレベーターで敵タワーの頂上を目指すガンヘッドとブルックリンだが、ガンヘッドは燃料切れで動けない。途中のフロアで止まり、ブルックリンが燃料タンクを調達せねばならない。
Photo_5その段取りを相談する中で、ブルックリンは「なんでこんなに暑いんだよ」とボヤく。それに答えてガンヘッドは、カウントダウンまでに脱出しなければ、自分たちのいるタワー全体が超高温の原子炉になってしまうと告げる。
「じゃ、炉心にいるんじゃねえかよ! そういうことってさあ! ……最初に言うべきことじゃない?」と、ブルックリンは最初こそ怒っているんだけど、セリフの後半では呆れと諦めが混じって、子供に言い聞かせるようなかわいい話し方になっている。このセリフ回しにも、「ニュアンスの揺れ幅」が含まれている。
確かに、タワーが高温化したらブルックリンは死ぬ。だが、その危機感よりも、いまは燃料タンクの補給が最優先だ。つねに大きな危機と主人公の状況が多層化し、ときにズレており、必ずしも合致していない。命の危険が迫っているからといって、「一刻も早く脱出して、必ず生きて帰らねば」と悲壮感を出すと、ストレートすぎてダサい気がするのだが、どうだろうか?
「カウントダウンが来たら確実に死ぬのだが、今はとにかく燃料タンクを運んでこなくてはならない」、その状況のズレ、怒ったり焦ったりしていられない事情が、シーンに臨場感を与えている。

もちろん、最初に書いたように、敵がどうやって地球を滅ぼすのかは、さっぱり分からないよ? ラスボスの巨大ロボットを本当に倒さないといけないかのかどうかも、よく分からない。だけど、主人公には、とりあえず今やらなくてはいけない「雑務」が常にあって、そのめんどくささにイライラしたりヤケになったりする、それを見ているだけで、僕は面白い。
それとも、大状況や設定をきっちり理解できてないと、映画は楽しめないのだろうか? 僕たちが瞬間瞬間に目の前にしている演技、構図、カット割のカッコよさを楽しむことは間違っているのだろうか?


僕たちは90分なり120分なりの映画の構図やカット割を、見終わったあとまですべて記憶することは出来ません。90分~120分、流れすぎていく映像を見つめてることしかできない。カットや構図、そしてセリフはすべて「印象」にすぎないのです。だから観終わった直後は、頭の中で構成された「ストーリー」を話すしかない。カットや構図を、ほとんど忘れてしまっているからです。
「ストーリー」を機能的に伝えるための構図やカット割のメソッドは、1950年代以前に完成されており、そこより先へ進めなくなったからヌーヴェル・ヴァーグのような運動が起きたし、予定調和を裏切るアメリカン・ニューシネマが台頭しました。

映画は、フレームの中で起きていること、それをどう編集するかでしか、形を成すことができません。フレームとカッティングによってしか「ストーリー」は伝えられない。「ストーリー」によって観客の理解と共感を得たいがあまり、どんどんセリフが説明的になり、どんどん演技がオーバーになり……という惨状を、僕らは数多く目にしてきたはずです。
ストーリーなど分からなくても、特撮がチャチでも、カッティングのテンポ感とセリフと演技の多層的な膨らみで十分に魅了してくれた映画、それが『ガンヘッド』なのです。

(C)東宝・サンライズ

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コメント

はじめまして。「スーパーロボットコンプレックス」にドはまりした一読者です。私も67年生まれです。バーチャロンにもハマり狂いました。

本記事に全面的に賛同します。
「愛情のない言い方だな」
「いや、チェックしただけ」
「If they take me out, I wanna be on my feet」etc...

何でしょうね。私もガンヘッドのセリフ群が大変好きです。自分でも理由がよくわからないのですが、その一端を解き明かしていただいたように思いました。

MG誌のガンヘッド特集のコラムも名文でしたね。何度も読み返しています。

まとまりませんが、以上感想です。失礼しました。

投稿: Inα | 2017年8月25日 (金) 16時14分

■Inα様
はじめまして。コメントありがとうございます。
いや、素晴らしいです。こうして忘れたころに『ガンヘッド』の奇妙な魅力に気づいた方と出会える……世の中、捨てたものではありませんね。

>「If they take me out, I wanna be on my feet」

「死ぬときは直立モードで」ですね。いま、DVDで確認してしまいました。英語のセリフまでは、よく聞き取れてないんです。
川平慈英さん演じるボンベイが「スーシー・スラッパーズ……」(と私の耳には聞こえる)と口の中でボソボソ言うのも、いまだによく分からず……

>「スーパーロボットコンプレックス」にドはまりした一読者です。

ありがとうございます。あの本は、読み手によってはかなり痛々しく感じるようですが、書いた意味があったのですね、きっと。

>MG誌のガンヘッド特集のコラムも名文でしたね。何度も読み返しています。

ありがとうございます。あれは当時の自分の、偽らざる気持ちなんですよ。簡単に「隠れた名作」扱いされるのに、本当に我慢ならなかったもので。
ひさびさのコメントが、同世代の心ある温かい文章で、とても嬉しいです。感謝いたします。

投稿: 廣田恵介 | 2017年8月25日 (金) 17時53分

返信いただきありがとうございます! 嬉しいです。
Bombay Boyはたぶん"sushi sloppers"と言ってると思います。sloppersの意味するところは不明ですが(スラングではかなりヤバい意味ですが)、ここではクソったれとかコノヤローとかいったニュアンスではないかと(当方、一応産業翻訳屋をしております…)。
実は私、ガンヘッド#507の音声を聞き取ったデータベースを製作中です。なかなか聞き取れない部分があるため完成度8割と言ったところですが、いずれ公開したらこちらでもお知らせしたく思います。
「スーパーロボットコンプレックス」ですが、温泉旅行に向かう途中に寄った本屋で偶然見つけたのです。ロボットについて、これほどまでに「腑に落ちる」文を読んだことは一度もありません。ぜひ電子書籍化して欲しいと思っています。
まだ話は尽きませんが、まずはここまでといたします。長文失礼しました…。

投稿: Inα | 2017年8月26日 (土) 15時03分

■Inα様
こんにちは、素晴らしい情報、ありがとございます!
おお、プロの翻訳業の方なんですね、さすがです。

>Bombay Boyはたぶん"sushi sloppers"と言ってると思います。

ミッキー・カーチスさんがTwitterで、「スシ、つまり冷たい女ってことです」とおっしゃっていたように思います。
それだけでは半分しか説明できてませんが、やはり、俗語としてはかなりヤバそうなのですね(笑)。

>実は私、ガンヘッド#507の音声を聞き取ったデータベースを製作中です。

素晴らしすぎますね! 多分、原田眞人監督ご自身によるであろう字幕は、かなり意訳しているのでは……。
DVDにも英語の字幕はなかったので、データベースは貴重ですね。完成を心待ちしております。

>「スーパーロボットコンプレックス」ですが、温泉旅行に向かう途中に寄った本屋で偶然見つけたのです。

温泉旅行への途中というのが、またいいロケーションというかタイミングですね。そういう、人生の隙間に位置してほしい本です。
ただ、あの本は出版社が倒産してしまい、データもどこかへ消えてしまったのです。印税も貰っていません。
なかなか過酷な状況で出された本なのです。また、いつでもコメントしに来てください!

投稿: 廣田恵介 | 2017年8月26日 (土) 20時39分

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