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2017年8月 2日 (水)

■0802■

いままで、漠然と見た気になっていた『太陽がいっぱい』。レンタルで。
Main_largeおそらく何十年も前に本で読んだんだと思うが、アラン・ドロンが最後に完全犯罪をなしとげたと安堵したところで、警察が来る。それは知っていた。というより、観客にだけ知らせて「特権意識を持たせる」。面白い映画は、たいていそうなっている。
アラン・ドロンが警察と出会って、愕然とする……なんて余計な描写を入れたら、観客の特権意識が台無しになってしまう。「何を描かないか」って、やっぱり大事なんだ。


でね、最初の10分ぐらいは構図もへったくれも、ごちゃごちゃ。イマジナリー・ラインなんて無視しても映画は成り立つんだけど、無視するにも程がある。
だけど、主人公(アラン・ドロン)が友人を殺してからの演出は不気味なぐらい、冴えてます。
ホテルの一室で自分の殺した友人になり切って過ごしている主人公のもとへ、殺した友人の知り合いが訪ねてきてしまう。彼はアラン・ドロンを怪しいと疑って、彼への届け物(食材)を「俺が運ぼう」と申し出る。だが、部屋へ入った瞬間、頭を陶器で殴られて、その場に倒れる。
すると、食材が床に散らばる。トマトなどの野菜に混じって、手足のついたままの鳥がベタッと床に投げ出される。これ、鳥なんて要らなくないですか? だけど、鳥の死骸が床に投げ出されることで、「死」は強調される。血が一滴もでないかわりに、手足のついたままのグロテスクな鳥で「死」の生々しさを演出している。そのように見えるのは、気のせいですか?

そして、ドロンは死体を放置したまま出かけて、ホテルに戻ってから、鳥を丸焼きにして食べる。このシーンも、要らなくないですか?
だけど、平然と鳥を焼いて食べることで、ドロンの「人殺しをしておきながらも食欲はある」無神経さ、大胆さ、ルーズさが強調されてないですか? 少なくとも、この鳥は殺人シーンで初登場したんだから、「死」と無関係ではないと思うわけです。いかがでしょうか。


さて、台所で鳥の丸焼きを食べ終えたドロンは、死体の処理を始める。
そのシーンの冒頭が、この映画の中でもっとも不気味なんだけど、ドロンは台所と応接間の仕切りにもたれて、腕を組んでいる。
その画面の右側に、古い肖像画が飾られている。ドロンは、その肖像画とそっくりなポーズをとっている。しかも、台所と応接間の仕切りが、まるで額縁のように見える。肖像画とドロンが同じポーズをとっている……これって、偶然ですか?
ドロンは殺した友人になりすましているし、鏡の前で彼のモノマネをするシーンまである。ドロンが絵の中の誰だか分からない人物と同じポーズをとることで、彼は「誰にでもなる」「何でもやる」。構図が、映画がそう告げているように感じましたが、いかがでしょう。

言葉にすると牽強付会に聞こえるだろうけど、映画を見ていて「気持ち悪い」と感じたのは、これらのシーン、ショットなんです。なぜ「気持ち悪い」と感じたのか、それを腑分けする作業が、僕にとっては楽しみだし、有意義でもある。映画を見つづける意味は、「なぜ」に込められている。


書こうかどうか迷っていたけど、何人かの友人と意見交換したので、追記。

石坂浩二 追究し続け60年超…プラモデルは人生賛歌
僕は、石坂さんのプラモデルに対するスタンスは、保守的すぎて、前から好きではないです。この記事にも、実にどうでもいいことが書かれている。でも、だからこそ、石坂さんに対する人としての礼儀、距離感を忘れてはならないのです。
「なにが人生だ!」「オッサンが!」とバカにできる人は、それこそ「俺は人生経験が乏しいです、怒ったら他人に対する最低限の敬意もかなぐり捨てるガキでございます」と白状しているようなもの。

「腹が立つ」ってのは、ようするに自分では状況を変えられず「ぐぬぬぬぬ」となっている状態です。だから、女性には「ブス」とか「デブ」とか「BBA」とか、僕に対してだったら「ジジイ」「ハゲ」、媒体に対しては「マスゴミ」だとか、バイアスのかかった言葉で、安易に優位に立とうと焦ってしまう。それはフェアな議論では勝てませんと、白旗あげたも同然です。
他人への敬意を捨てて、相手にはどうにもできない欠点を責めはじめるのは、歳は関係なくて、性格ですね。性格は改善できるので、残りの人生で頑張りましょう。

(C)ROBERT ET RAYMOND HAKIM PRO./Plaza Production International/Comstock Group

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