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2017年6月22日 (木)

■0622■

映画の専門書でたびたび取り上げられる、フランシス・フォード・コッポラ監督の『カンバセーション…盗聴…』。ようやく、レンタル店で見つけた。
Theconversationジーン・ハックマンの演じる盗聴のプロが、公園で若い男女の会話を録音する。そのまま録音テープと盗撮写真を依頼主に渡せば、自分の仕事はすむはずだったが、会話の内容から殺人事件がおきると危惧した主人公は、なんとか盗聴した女性本人に伝えられないか思い悩む。

冒頭の公園のシーンで男女のかわした会話が、何度も何度も反復される。それは、ベンチに倒れこんでいる老人を見て、「気の毒に」「ああいう人にも、赤ん坊で、両親から愛された時期があるだろうに」といった感想をかわす、何気ない会話だ。
しかし、シーンによっては、二人の会話が孤独なジーン・ハックマンのことを指しているようにも聞こえる。映画の中で提示される事実は数えるほど少ないが、反復されるほど意味が膨らんだり、深まったりする。
副次的に、男女が刺殺される決定的シーンが、はたして事実なのか幻想にすぎないのか、ぼやかされていく。聴覚の重要性が、視覚の信憑性を奪っていくのだ。


僕が気に入ったのは、盗聴テープを奪われた主人公が、雇い主のところに写真を届けにいくシーンだ。主人公は罪悪感にさいなまれ、もはや幻聴を聞くほど疲労困憊している。
彼は、雇い主のオフィスへ向かう。高層ビルの廊下に、掃除機をかけている女性がいる。その女性が自分を監視していると疑っているのか、主人公は彼女を振り返って見ている。

つづいて、彼は銀色の壁の廊下を歩く……最初に、彼のシルエットが壁面に落ち、つづいて彼の頭がフレームインする。そこからだ。また、冒頭の男女の会話が聞こえはじめる……それは、またしても彼の幻聴なのだろうか?
つづいて、主人公は、“PRIVATE”と書かれた黒いドアをノックする。そのときには、男女の声は、さっきより鮮明に聞こえている。明らかに、ドアの向こうで雇い主が聞いているのだ。雇い主が聞くことによって、いったい何が起きるのだろう? 殺人が起きるのだろうか?
緊張した面持ちで、主人公はドアを開けて、室内に入ってくる。カメラは室内に置かれ、ドアを開ける彼の足元を撮っている……と、彼の足元をすり抜けるように、真っ黒なドーベルマンが、音もなく部屋に入ってくる。果たして、そのドーベルマンは現実なのか? なにかの象徴なのか? 主人公の幻覚をさんざん見せられた僕には、もはや分からなくなっている……。

ドーベルマンは警備用に使われる犬種なので、いやでも緊張が高まる。このドーベルマンは、主人公を尾行していたのだろうか? なぜ、このタイミングで現れるのだろう?
この映画は、「盗聴」「盗撮」「監視」「陰謀」「欺瞞」「不安」「暴力」を、直接的/間接的に想起させるアイテムで溢れている。レコードをかけながら主人公がサックスを吹くシーンにも、「レコードの音が本物なのか、サックスの音が本物なのか?」という謎かけが仕組まれていて、最後まで緊張感が解けない。


先日から、えんえんと取材の日々。夜は、それらを原稿にまとめなくてはならない。
『我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか』()の発売から一年、少しずつ仕事は減っていくと覚悟していたのに、身動きとれないぐらい増えている。

ジーン・ハックマンのように、ひとりの人生がつづいていく。コッポラのように自信家ではない。表現者ではないから、追いつめられることもない。まれに天国を手にするが、手の中におさまってしまうほど小さい。誇りも情熱も失ってはいないが、欲望はかすんだ。
僕の若いころに死んでしまった二匹の犬に、もっといい思いをさせてやれなかったのか、ときどき悔やむ。

(C) 2013 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

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