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2017年6月13日 (火)

■0613■

レンタルで『ティファニーで朝食を』と『アパートの鍵貸します』。
1045view001二本の映画は、それぞれ1961年と1960年公開。ほぼ同時期だし、主な舞台がアパートの一室という点でも似ている。しかし、ラストまで目を離せないのはモノクロで撮られた『アパートの鍵貸します』のほうだ。

ジャック・レモン演じる保険会社の平社員バクスターは、重役たちが愛人と逢引するための場所として、自室を貸している。
彼が片思いしているシャーリー・マクレーン演じるエレベーターガールのフランもまた、重役たちの愛人のひとりにすぎない。
バクスターがひとりの時間に何をしているかというと、自室のテレビを眺めながら、冷凍食品(『ストレンジャー・ザン・パラダイス』にも出てきたTVディナー)を食べている。まず、このシーンで観客は心をつかまれるはずだ。テレビでは映画『グランドホテル』を放映すると言いながら、CMばかり流して、なかなか本編を始めない。バクスターは椅子に座ったまま、イライラしている。
「ただ座って凝視しているしかないのに、物事が思ったように進まない」状況を見せられると、映画への没入感が増す。ウソだと思ったら、今度映画を観るとき、そういうシーンを探してみるといい。


映画の中盤、バクスターはもう一度「ただ凝視しているしかない」「思うようにならない」状況に出くわす。
バクスターの部屋で重役と逢引していたフランが、睡眠薬を飲んで自殺をはかる。バクスターは隣室の医者を呼んで、フランに応急処置をほどこしてもらう。その間、バクスターは何もできずにオロオロしているが、医者は荒療治で、意識を失いかけているフランの頬を激しく叩く。
その瞬間、バクスターは、思わず顔をそむける。そんな彼の気持ちを「分かる」と、誰もが共感することだろう。それは、殴られるフランをバクスターが「ただ見ているしかない」からだ。
もし、バクスターが自力でフランを治療していたら、おそらく共感できない。映画の中の人物が望むままに行動して、思ったとおりに目標を達成すると、椅子に縛りつけられている我々は「面白くない」のである。

医者の応急処置のおかげで、フランは意識をとりもどす。
ただ見ているしかなかったバクスターは、意気揚々と彼女の面倒を見はじめる。今度は、思うように身体を動かせずにベッドに横たわったフランが、「ただ凝視しているしかない」役を引き受ける。
このように、「思ったように行動できない人物」を絶えず映しつづけることで、映画は没入感をキープできる。僕たちは、映画の中で進行していく出来事を、我がことのように感じる。

そして、主人公が思うままに行動し、望みをかなえてしまうから「映画のラストは面白くない」のである。たいていの映画で、主人公は逃げるにしても負けるにしても、自由を獲得して好きなように振舞う――それは、観客を映画から解放するための手続きでもある。

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