■ケアンズ旅行記-7■
■4/5-1 チキン・タンドリー・ロール
前日の夜は、ピザとポテトチップ、ビールを部屋で飲食し、すっかり油断したまま眠った。
リーフ・フリート・ターミナルは8時に開くので、スーツケースをガラガラと引きずりつつ、7時前にホテルを出た。フィッロイ島行きのフェリーは、9時に出発する。
雨が降っているので、荷物と傘で両手がふさがっていたが、なぜか苦に感じない。
受付の前で待っていると、アイドルのように可愛らしいアジア人の女性社員が「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りながら駆け寄ってきた。「あと15分ぐらいで開きますから、待っててください!」と、えらく申し訳なさそうな顔をする。
難なくフェリーの往復代、77ドルの支払いを終え、チケットを受けとった。僕の予約したフェリーは、日帰りツアー専門だ。ちょっと無理を言って、二日後の夕方に帰れるようにしてもらったのだ。
油断しているので、チキン・タンドリー・ロールで朝食をとる。店員のお姉さんの、スラリとした脚に見とれる。雨は、降り止まない。
■4/5-2 悪天候
僕は、日帰りのツアー客たちと一緒に、フェリーに乗った。「スーツケースはエンジンの上に置いてくれ」と言われる。こんな大きな荷物を持っているのは、僕だけだ。
フィッツロイ島までは、50分ほどだと聞いている。船は、荒波にもまれながら進む。ようやく陸地が見えてきた。意外と、建物が多い。ホテルが一軒しかない孤島のはずだが、かなり都会っぽい雰囲気だ。
それもそのはず、フェリーは悪天候のため、ケアンズまで戻ってきてしまったのだ。ツアー客たちは払い戻しを受け、ランチを受けとって、苦笑しながら帰っていく。だが、僕はどうなる?
窓口でホテルのバウチャーとチケットを見せると、さっきのアイドル顔の社員が口に手を当てて、顔面蒼白になって、あちこちに電話をかけまくった。
鍛えられた肉体のお兄さんが裸足で現れ、僕のスーツケースを運んでくれる。シャワーのような雨の中、「すばらしい天気だね」と笑う。そのお兄さんに着いていくと、別の会社のフェリーが出港するところだった。これでフィッツロイ島まで運んでくれるらしい。
■4/5-3 フィッロイ島
何がどうなっているのか、フィッロイ島に着くと、ウソのように雨があがっている。
ホテルは、桟橋を渡ったところにあった。
映画館や、ゲームセンターもある。
ただし、僕の部屋は少人数用で、窓は山側を向いている。大人数用の部屋は、海側にベランダがある。とりあえず、ホテルから砂浜へ出てみる。
小さな土産物屋があったので、そこでジンジャービールとサンドイッチを買った。カードで買うことが出来た。さらに林の奥へ進むと、酒や軽食を出すバーがあった。「海の家」のような店だ。
そのバーでは、飲み物を前に読書している女性がいた。なるほど、そういう時間の過ごし方もあるのか。
しかし、僕は島の東側に伸びる、シークレットガーデンという小さな小道を歩いた。
道の奥には、小さな滝があった。まあ、こんなもんだろう。もう一本、ヌーディビーチという小さな砂浜へつづく道があったので、そっちも歩いてみた。
少しずつ、陽が出てきた。泳げるわけではないので、さっきの女性のように、ぼんやりと読書するのもいい。
ホテルに帰ろうとすると、フェリーが泊まっていた。帰りは夕方まで待たずに、あれを使うことは出来ないだろうか? 桟橋で雑談している従業員に「ホテルの客ですけど、その船に乗れますか?」と聞いてみた。
とても気さくな笑顔のヒゲの若者が、「乗れるはずですよ。9時半と12時半と5時半にフェリーが出るから、先にレセプションに申し出てね」と、ハキハキと説明してくれた。
■4/5-4 夕陽
いちどホテルの部屋に戻り、ふたたび海岸を歩き、バーに着いた。
特大サイズのビールを飲みながら海を見ていると、夕陽が周囲のものを彩りはじめた。まだディナータイムではないそうなので、僕は砂浜に降りた。
こんな写真では、何も伝わらないと思うが……雲の立体感が、すごかった。二層三層に折り重なっていて、いつまで見ていても飽きない。18時になったので、バーに戻って、さらにビールの特大サイズと軽食を頼んだ。ヒゲのお兄さんが、とても気持ちいい対応をしてくれる。安堵のため息とともに、「来てよかった」という言葉が、口をついて出た。
酔っているので、この写真は手ブレている。
刻々と色相を変える空を撮っていたら、きれいなお姉さんが「いい景色よね」と声をかけてきた。しかし、彼女は恋人と一緒であった。その手のロマンスは僕の人生には起きないし、もう必要ないのかも知れない。
真っ暗になった海岸を歩くと、くっきりとオリオン座が見えた。椰子の木の間からも、星が光っている。日本で、もっと多くの星がきれいに見える場所を知っている。だけど、南国で軽薄に酔っ払った僕には、十分すぎるほどの美しい星空だった。
まだ寝たくなかったが、廊下で従業員のおじさんにぶつかってしまうほど酔っていたので、おとなしく眠ることにした。
(つづく)
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