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2017年3月23日 (木)

■0323■

毎晩、HDDレコーダーに録画されたアニメ番組を流したまま眠るのだが、明け方、とてもいい芝居が耳に入ってきた。
11_2凛とした奥方の声が、軽薄そうな若者をとがめている。どうやら、息子であるようだ。出かけようとする息子に、幼い子供が「フン! フン!」と怒っている声。そこへ、老婆の声が入る。年齢も立場も違う声が、無駄なくテンポのいい会話をかわしている。質のいいラジオドラマのようで、つい聞き入ってしまう。
オープニングテーマで気がついた。「そうか、『鬼平』の第11話を録画していたんだったな」と。

さすがに目を開けて、本編に見入る。
庭に、風車がある。回想シーンに入る前、その風車がカラカラと回る。回想シーンになり、場所や時間が変わっても、風車はフレームの同じ位置にある。
そして、回想シーンが終わると、もとの庭で風車がピタリと止まる。

その風車は、物理的に庭にあったものなのだろうか? おそらく、違う。物語を過去へいざなうための装置、デザインなのだ。
あり得ない場所に風車があり、物語の進行につれて回ったり止まったりする。その抽象性が、「アニメのリアリティ」なんだと思う。


実写で「ここからは回想シーンです」「ここで回想は終わりです」と合図するなら、もっと別の方法が、いくらでもある。実写映画に風車をデザイン的に配置したら、異物感だけしか感じられないだろう。絵だからこそ、許される演出なのだ。
同じ感覚、同じ意図を表現しようとしても、実写とアニメでは、別のあらわれ方をする。「現実」なり「実感」なりに肉薄して再現しようとする姿勢は同じでも、表現のうえでは別のものになる。そこが大事なんだと思う。

先日の話題()と結びつけるなら、「現実」「実感」に独自の方法で近づいたとき、アニメは映画に匹敵する。凌駕もする。
そうではなく、「現実」「実感」から距離をおいて、ただ「アニメの中だけのお約束」に終始している以上、それはせいぜい、アニメ愛好者の間でしか受容されない。外部に届かない。

アニメが映画になり得るかどうかは、アニメを観てない「外部」にアクセスできているかどうかなのかも知れない。


レンタルで、イギリス映画『さざなみ』。
Sub4_small_large ある老夫婦が、結婚45周年のパーティを開こうと計画している。ところが、夫のものへ、「雪山で行方不明となっていた元恋人の遺体が見つかった」との手紙がくる。夫と元恋人の関係を知るうち、妻は何十年も前に亡くなった元恋人への嫉妬をつのらせていく。

この映画は、夫婦の一週間の生活を追っていて、「月曜日」「火曜日」と文字がインサートされる。
月曜日は、広々とした田舎道で犬を散歩させている妻のカットから始まる。火曜日も、同様だ。しかし、月曜日は画面右から左へ歩いていた妻が、火曜日では左から右へ歩いている。注意して見ていると、妻にとって不安なこと(夫の元恋人)が話題にのぼると、妻は画面左にいると分かる。
(僕の思い込みでなければいいが)決定的なカットがある。妻がひとりで町に買い物に出て、夫に贈るための時計を見つける。カットの最初、妻は画面右から左へと歩いてくる。時計を見つけた妻は携帯電話を取り出して、夫に電話する。しかし、夫は出ない。そのとき、くるりと体の向きを変えて、画面左側に来るのである。


最初に会話するシーンでは、妻は画面右側に座っていて、夫は左側にいた。だんだんと妻が左側に座ることが多くなっていく。夫の過去の日記などを探って、恋人の写真を見つけるシーンでも、妻は終始、画面左側にいる。
ところが終盤、自分が元恋人のことを気にしていると夫に告白するシーンでは、画面右側へと陣取る。
もし、妻の不安感を感じさせるために、妻の位置を左側に寄せているとするなら、いろいろと説明がつく。セリフや出来事だけを追っていくと、実はほとんど何も起きていない。だから、構図によって心情を際立たせていくしか、方法がないかに見える。

……実写映画は本物の俳優を使って撮るから「リアル」なはずなのに、なぜ「構図」などという図像的な技法を駆使せねばならぬのだろう?
そして、同じことをアニメでやったとしても、誰が右にいて左にいたかなど、まるで意識しないうちに終わってしまいそうな気がする。(登場人物をフレームに収めて作劇する点では同じはずなのに)アニメと実写の演出効果は、決して同じではない。当たり前のようだが、いま一度、確認しなおす必要がある。

(C) オフィス池波/ 文藝春秋/ 「TVシリーズ鬼平」製作委員会
(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014
(C)45 Years Films Ltd

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