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レンタルで、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』。
主演のマット・デイモンが自ら書き下ろした戯曲をもとにしているため、「どうしても映画でなければ表現できない」作品ではない。にも関わらず、最後まで目を離せないほど、引きこまれる。
主人公は、天才的な数学の才能を持ちながら、清掃や土木工事などの力仕事から離れようとしない、屈折した青年。わざとトラブルを起こして、刑務所に送られそうなところを、彼の才能を見抜いた大学教授が、週に二回のカウンセリングと引き換えに、彼を救い出す。
ところが、救われたはずの青年は、カウンセラーたちを馬鹿にして、大企業や政府機関からの就職の誘いを、次々に断る。
ようするに、主人公の青年だけが勝手気ままに振る舞い、他の登場人物は、ひとり残らず彼を追いかける構図になっている。ロビン・ウィリアムズの演じる心理学者が、かろうじて彼に追いついたところで、ドラマは終焉を迎える。
最後尾を走っているのは、最初に青年の才能に気づいた大学教授……ではなく、彼の助手だ。教授が青年の才能に夢中になってしまったので、助手は手持ちぶさたに、居心地悪そうにしている。僕たち観客は、この助手の立場に近いところに位置している。
前回のブログにも書いたように、自由すぎる主人公が横暴にふるまっても、共感はできない。主人公のせいで不自由な立場に追いこまれるサブ・キャラクターが点描されることで、ようやく、僕たちは映画全体を見渡すことができる。
(無敵の主人公がバリバリ勝ちまくってもダメであって、どこかに対照的な人物を配置しておかないと、観客が映画に入っていくことは出来ないのである。)
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昨日は、まだまだ重たい腰と、連動して痛くなってしまった左膝を引きずって、吉祥寺まで歩いた。帰りに三鷹駅前の市民ギャラリーで開催されている『根付 ~江戸と現代を結ぶ造形~』展へ。
体が重たいのだが、家の近くのギャラリーだし、なんとか発奮して、広い会場を回る。
意識して体を動かさないと、どんどん消極的になってしまう。腰痛の本当の怖さは、精神的に脆くなってしまうことだろう。
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もう一本、友人から薦められたロシア映画『草原の実験』をレンタル。
まず何より、主人公の少女を演じるエレーナ・アンの美しさに、陶然とさせられる。アップが非常に多く、後半では髪型も変わるので、彼女のPVだと割り切ると、かなり眼福な映画だ。
全編セリフ無しのチャレンジングな作品ながら、監督は美しい少女とシズル感のある水や光などのモチーフにぞっこんだったのだろう。構図やカットワークには、さして意味が込められていない。
ただ、ひとつだけ感心したカットがある。少女の父親が病気になってしまう。画面の奥には、父親が寝ている。ベッドに横になった父親の前に、医者が背中を向けて座っている(父親を診察している)。さらに手前に、椅子に座った少女が椅子に座って、父親と医者の様子を見ている。
このカットに引き込まれるのは、父親を診ている医者、その様子を見ている少女、さらに、その画面を見ている僕たち……という、入れ子構造が生じているためだ。
映画には、必ず駆動原理がある。「思い」だけでは、何事も為せない。メカニズムを経由させないと、「思い」は現実世界で力を発揮できない。
(C) 1997 Miramax
(C)Igor Tolstunov's Film Production Company
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