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2017年1月10日 (火)

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【懐かしアニメ回顧録第26回】生命を媒介する“液体の色”が「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の世界観を決定する
T640_719243前回のコラムは、大地丙太郎総監督に誉めていただけたのですが、前回・今回とも「書きづらい」原稿でした。
今の時代であればこそ、「事実」を重視したレビューが必要だと、僕は固く信じています。「泣いた!」「傑作まちがいなし!」は、個人の感想としては、ぜんぜんOKなんです。
だけど、プロが後世に作品の価値を伝えていくためには、画面に何がどう映されていたのか、「事実」を材料にする必要があるはずです。

劇中でLCLがどういう溶液なのかといった設定は一切関係なく、『ヱヴァ:序』という一本のフィルムの中で、どのシーンのどのカットに位置していたのか探らねば、「色から見える物語構造」は見えてきません。


つづけてアニメの話をしておくと、『傷物語〈III冷血篇〉』を観てきました。一年前の〈鉄血篇〉は、満席の映画館で汗だくで観たものでしたが、今回は平日平間とはいえ、20人程度の入り。
Tnfigkizu001だけど、ちょっと寂しい雰囲気の中で観たほうが、映画の効果は増すと思う。なぜなら、『傷物語』はヌーヴェルヴァーグであり、ATG映画であり、ロベール・ブレッソンであり、レオス・カラックスだから。映画の歴史に対して、垂直に立っている。依拠する場所がなく、誰からも評価を保障されておらず、それゆえに今後、誰からどれほど高い価値を与えられるか分からない……そういう意味で、僕は以上の映画監督名やムーヴメントと、尾石達也監督の名を連ねたい。

『傷物語』は最初から最後まで、アクションもお色気もいっぱいの商業主義的モチーフを、誰からも望まれないテイストで作品にした。このプロットのまま、180度反対に、甘口につくることは出来たはずなのだ。しかし、自ら望んで孤立した。表現に誠実であろうとすると、孤立せざるを得ない。
たとえPG-12に指定されようと、『物語』シリーズが瓦解することはない。それだけのバッファは、まだアニメ業界にも備わっているのだ。


まず、肌の色をべた塗りにして(なるべく)影色をつけず、ハイライトとして白い点を打つ、グラフィカルな、ポップアートとしてのセル表現がある。
羽川翼が、阿良々木暦を説得しようと、彼のヒザに手を置く。最初は2本なのに、カットが変わるたび、羽川の腕は何本にも増えていく(それだけ彼女が必死なのだという説明が成り立つ……が、「演出」というより、セル部分はすべて「絵」として洗練されている。「絵」は「演出」の隷属物ではないのだ)。

カメラワーク。空撮になると、必ずヘリの音が入る。いや、ヘリの効果音さえ入らなければ、「空撮」とは認識できなかったかも知れない。そうした、僕らの「映像作品への個人的記憶」を、『傷物語』はサーチして、脳の奥から引きずり出す。その結果が、快か不快かに責任は持たない(繰り返すが、「快」に振ろうと思えば、いくらでも手段はあったはずだ)。
建物の周りを、ぐるりとサーチライトが囲んでいる。それが順番に点灯したかと思うと、シーンの終わりでは消えている。「誰がサーチライトのスイッチを入れたのか?」と考えはじめると、とたんに苛立ってしまうだろう。しかし、舞台演劇で照明効果が変わるとき、「誰がスイッチを入れた?」などとは考えない。それと同じことだ。

舞台、写真、実写映画、セルだけではないシネカリのような表現……そんなにもアニメーションの扱えるリアリティは多様なのに、僕らは既視感のある演技や描きこまれた背景を見たとき、迂闊にも「本物みたいだ!」「実写に負けていない!」などと口走ってしまう。
そうした薄っぺらな脊髄反射を無効化するかのように、『傷物語』はアニメ表現にしかない、いやアニメ表現の中にすらない“異場所”を探して、彷徨する。


つい先日、『リトルウィッチアカデミア』を見たばかりだというのに、監督の吉成曜さんが『傷物語』に、原画として参加しているのを知って、目まいを覚えた。あるいは、『傷物語』ラストのアクション・シーンでは『かぐや姫の物語』もかくや、というほどの殴り描きのようなアニメーションもある。特撮カットは、高山カツヒコさんの担当だ。
『傷物語』がどうとか言うより、僕らはもっともっと無秩序な、まるで洗練されていない混沌猥雑とした映像文化群の断面のうち、自分の見たいところを見ているだけなのではないだろうか?

「王道」という誉め言葉の無力さを、ひしひしと感じる。


ようやく米映画『ダンス・ウィズ・ウルブス』を見られたのだが、感想は後日。
(C) カラー/Project Eva. (C) カラー/EVA製作委員会 (C) カラー
(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

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