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2017年1月21日 (土)

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昨夜は、新宿ピカデリーで『マイマイ新子と千年の魔法』、DCP上映(「舞台挨拶付アンコール上映 IN 帰ってきた新宿ピカデリー」)。チケットの発売開始時にぼんやりしていて、最前列の右端の席しかとれなかった。
Dsc_2732ところがまあ、ビックリしたことに、隣に座った男性が「廣田さんですよね?」と話しかけてきた。7年前、吉祥寺バウスシアターに娘さんを連れて、『マイマイ新子』を観にきてくださった方だ。まったくの偶然。すっかり成長した娘さんも劇場に来ていて、別の席に座っているという。
お客さんでぎっしりの580席を見渡しながら、「なんだか、とんでもないことになっちゃいましたね」「ウソみたいですね」と笑いあう。

だって、7年前はバウスシアターのスクリーン3が105席。『マイマイ新子』復権の礎となったラピュタ阿佐ヶ谷は、たった48席でしたからね。その小さな映画館を満席にするのが、まずは大変だったの。
トークショーの片渕須直監督のコメントで知ったけど、2009年11月21日の新宿ピカデリーでの初日舞台挨拶ですら、最大ではなく中~小規模のスクリーンがあてがわれていた。初日は昼間と夜、二度観にいったら、どちらの回も満席だった……けど、スクリーンが小さかったせいか。今ごろ、気づいた。
最終的には、いちばん隅っこのスクリーンに追いやられて、エスカレーターを走って昇らないと、上映に間に合わなかった。それぐらい、新宿ピカデリーは、『新子』に冷たかったの。

だから、新宿ピカデリーにもっとも大きなスクリーンを空けさせたのは、凱旋だし、鼻をあかしてやったと思っている。ファンが身銭を切った自主上映会ではなく、これからずっと上映できる高画質・高音質のDCPを、製作サイドが作った意味は、あまりに大きい。『新子』の大逆襲って感じ。


だから、『この世界の片隅に』の“異例の”ヒットを、“異例ではなく当然でしょ?”とか言っちゃう人は、『マイマイ新子』の立たされた苦境を調べろよとは言わないけど、もうちょっと配給会社の残酷さとか興行の苦しさを知ってほしい、とは思う。
「あの監督だから、あのスタジオだから傑作に決まっている」という言い切りには、信頼よりは責任転嫁をかんじる。なぜなら、『新子』の不入りが『この世界~』への出資をさまたげていた部分もあるからです。『アリーテ姫』だって、数えるほどの映画館でしか上映できなかったわけだし。
(昨夜、ゲストとして登壇された、音楽の村井秀清さんが家族を連れて『新子』を上映している映画館へ行ったら、8人しか観客がいなかったと、涙ながらに語っておられました。)

僕は、片渕監督が「ああ、あの客の入らない監督ね」とレッテルを貼られてしまうのだけは、絶対に避けたかった。『この世界~』が、また有志による自主上映……になるぐらいなら、意に染まなくても、お金になる企画を手がけてからにしてほしいと思っていた。
石を投げられてもいいけど、僕はクラウド・ファンディングには賛成ではなかった。出資してないです。『この世界~』の企画が、そこまでジリ貧で追いつめられていた裏事情も知らなかったけど、「今度こそ、有志に支えられるのではなく、プロの配給・興行が成功して、まっとうな商業映画して大成功してほしい」、そう願っていたのも、本当のこと。

僕が署名の話を自分からしたくないのは、ファンが自主的に動いて上映の機会をつくり、いつもいつも常連が観にいくような状況は、誉められたものではないと思っていたから。
僕があちこちの映画館に上映の話を持っていって、宣伝に協力したのは、「まだ『マイマイ新子』を見たことのない人たち」に訴えるため。それがすべて。
未知の観客を視野に入れていない、内輪受けの企画は、本当にイヤだった。


また、『新子』の公開から7年たって、映画やエンタメをとりまく環境も変わった。
気軽なネット・レビューが増えて、点数が重視されるようになって、「自分と違う意見を書いているヤツは工作員」なんて言い方が、当たり前になってしまった。
『新子』のときは、ネットでの論客は「少数精鋭」だったんです。たまごまごさんのレビュー()を見なければ、署名なんて思いつかなかったし。古谷経衡さんの評論にも、おおいに励まされたし()。
2009年12月は、寒いけれど、熱い冬だったんですよ! 負けていたけど、負けてなかった。

あの冬があったから、『シン・ゴジラ』も『君の名は。』も、「ヒットして当然でしょ?」なんて、僕には思えない。中身がよければヒットするなんて甘いもんじゃないんだなと、それこそ骨身に染みて、7年前に知ったから。
だから、「いい映画だな」と思ったら「誰か宣伝してくれないかな、誉めてやってくれないかな」なんて他人事にしないで、「いい」と思った本人がやるしかないんですよ。そうでなければ、どんな映画でも埋もれてしまう。僕、『新子』のとき、「廣田がもっと頑張りさえすれば……」って、何度も言われた。「ジブリに売り込めばいい」とかさ。なんで、そう思いついたあなたがジブリに行かないの?

昨夜のアンコール上映だって、「やりましょう」と英断した関係者がいるはずなんですね。
その程度の想像すらせず、「作品がいいんだから当然」なんて、僕には口が曲がっても言えません。 

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コメント

廣田様、昨晩は似た方がいらっしゃるな?と思いつつ席へ近づき大変驚きました。

実は私もだいぶ席がなくなった時に予約を入れました。しかも予約時当初別の席をクリックして手続きをしようとしましたがまごまごしている間に別の方に買われてしまい、改めて取った席がお隣でしたので本当に偶然でした。

当時の廣田さんのブログを改めて読み返すと、あの12月から4月までは本当に色々なことがあったんだ...と思い返されます。

読み返す中ですっかり新座のママさん上映のことを忘れていました。ですので最後に映画館で見たのはバウスではなく新座でした。

投稿: YASS | 2017年1月21日 (土) 21時29分

■YASS様
昨夜は、確実に時間がたって状況も変わって、だけど映画の中だけは変わらずに新鮮……という、不思議な夜でした。

たぶん、僕のほうが先に席をとったはずです。通路側でないと、落ち着かないので(笑)。
2009年末~2010年春は、どちらかというと、僕は怒ってばかりいました。だけど、映画館さんの苦労も分かったし、「商売としての映画」を理解する、よい機会になったと思います。

>読み返す中ですっかり新座のママさん上映のことを忘れていました。

新座に行かれたんですね。ですから、ああいう普通の主婦が出向いていって、地元の映画館の事情と折り合いをつけていった経験が、ひとつのムーブメントになったんですよね。
がんばった彼女たちに対しても、ネットには批判・中傷が書かれていて、本当に複雑な思いを味わいました。やっぱり五分の四ぐらいは怒っていて、最後の五分の一が楽しかったような気がします。

投稿: 廣田恵介 | 2017年1月21日 (土) 22時25分

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