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2017年1月11日 (水)

■0111■

レンタルで、『帰ってきたヒトラー』。悪趣味なキワモノ、軽いブラック・ジョークの類いかと甘く見ていると、これがさにあらず。
28643598_54547近い映画を探すと、『シン・ゴジラ』かも知れない。「もし、ヒトラーが現代のドイツに復活したら?」というウソ以外、起こりうる事態を生真面目なほど慎重にシミュレートしている。シミュレートというより、実際に街行く人々のリアクションは、素人のアドリブだそうで、中には「不愉快だ。いますぐ立ち去ってもらいたい」と、真顔で怒る人もいる。そこまでは、(わざわざセミ・ドキュメンタリーで撮っているのだから)想定範囲内だろう。

ところがこの映画、いちまい上手である。フィクションの部分でも、ちゃんとユダヤ人の戦争体験者を登場させ、痛烈なヒトラー批判を行い、彼を抹殺したほうがいいのではないか?と、主人公を誘導していく。
では、ヒトラーを殺しさえすれば、右傾化していく世論は救われるのだろうか? そもそも、ナチスが台頭したのは、ヒトラーの独力なのか? 実際、(映画の撮影だと気づいていない)街の人々は、笑顔でヒトラーと並んで写真を撮りまくっていたではないか……。

ちょっと、セリフが多めで理屈っぽくなってきたかな?と思わせておいて、さらなるウソを滑り込ませる手際、鮮やかというしかない。「ヒトラーのそっくりさんを使って映画を撮る」アイデアそのものを、メタレベルで応用している。


だけど、政治に詳しい人なら、もっと面白く分析できると思う。
ヒトラーは国内のあちこちに出かけて、現代のドイツの政治をどう思うか、実際に聞いてまわる(そのパートはドキュメンタリーなので、吹き替えではなく、原語で観たほうが効果的だろう)。
1015825_xitler人々の何気ない愚痴から浮かび上がってくるのは、難民問題だ。移民排斥のデモまで、モザイクを入れて撮影しているのだから、筋金入りだ。
人々と話すヒトラーの台詞は、彼の生前の言葉をなぞったものが大半だと思うが、とても説得力がある。「現実とフィクションの区別をつけろ」などという幼稚な決まり文句は、あっさり無効化される。ヒトラーの毅然とした態度、シンプルな言葉に心酔してしまう。

それこそが、この映画のキモである。ラストシーンを指してネタバレネタバレうるさい人は、自分の心境が(映画の途中で)どう変化するのか、よく観察すべき。映画の「ネタ」は、あなたの心の中にあるんだよ。
ポリコレポリコレうるさい人にも、落ち着いて胸に手をあてて、この映画を観てみろと言いたい。右も左も関係なく、人間は脆い。「選挙は行かない派なの」「行っても票が操作されるし、何も変わらないよ」……ドキュメント・パートの人々の本音が、ずんずん重たくなっていく。


俺は政治に詳しくないけれど、ドナルド・トランプの当選なんかがダブって見えてくる。
それは、トランプ大統領がヒトラーのような独裁者になるぞ!なんていう「ノストラダムスの大予言」じみた話ではない。なぜ、あんな女性蔑視や人種差別を公言した人物が支持されたのか、それを真摯に考えなくてはならないんじゃないか。

だって、甘っちょろい綺麗事がストレスしか生まないことは、この数年でよく分かったよね?
「黒でないなら白なのか?」とつねに決断を迫られる社会より、疲れたときに「疲れた」と言えない社会のほうが閉塞してるよね、という話です。

(C)2015 MYTHOS FILMPRODUKTION GMBH & CO. KG CONSTANTIN FILM PRODUKTION GMBH

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