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月曜の朝、新宿武蔵野館で『エルストリー1976 - 新たなる希望が生まれた街 -』を鑑賞。本日火曜、地元の吉祥寺オデヲンで『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(■)3D吹き替え版を鑑賞。
エルストリー・スタジオは、イギリスにある巨大スタジオで、第一作『スター・ウォーズ』も、エルストリーで撮影された。そこで、ジョージ・ルーカスが苦悶のうちに撮影を終え、まったく理想に届かない大失敗作を撮ってしまった……という証言は、それこそ山のように出てくる。
『エルストリー1976』は、その当時、『スター・ウォーズ』を自主映画かテレビ・ムービーだと思っていた端役の人たちが、その後、各地のSFコンベンションで、新たな人間関係や人生観を獲得していく証言を追ったドキュメンタリーだ。
だが、ダース・ベイダーを演じたデヴィット・プラウズ、ボバ・フェットを演じたジェレミー・ブロックについては、大著『スター・ウォーズはいかにして宇宙を征服したのか』でもインタビューされており、正直にいうと、あまり新鮮味のある話は出てこない。
それでも、第一作(エピソードⅣという呼び方は、ふさわしくない気がする)に、格別の価値を授けた超大型ブースターである『ローグ・ワン』を見たあと、子ども向けのテレビ・ムービーだと当事者たちになめられていた頃の『スター・ウォーズ』に、その後の時代を知るよしもなく出演していた無名の俳優たちの声を聞くことには、特権的な魅力があるように思える。
その特権を享受したければ、『エルストリー1976』の上映が終わる前に急いで観にいけ!としか、言いようがない。この手のドキュメンタリーは、レンタル屋に入荷することも珍しいからだ。
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『ローグ・ワン』と『エルストリー1976』は、いやおうなく第一作『スター・ウォーズ』をサンドイッチして、その歴史的価値を問いなおす。悪評ふんぷんだった第一作の唯一の救世主が、20世紀フォックスの重役、アラン・ラッド・Jrであったことは有名な話である。もうひとり、ルーカスフィルム社のマーチャンダイジング担当、チャーリー・リッピンコットの存在を忘れてはならない。
誰ひとり見向きもしなかった『スター・ウォーズ』のフィギュア化企画を、せっせと営業して歩いたのはリッピンコットだし、各地のコンベンションに出向いてSFファンを最初の味方につけたのも、リッピンコットである。
すなわち、『スター・ウォーズ』が他の映画にくらべて決定的に異質だったのは、登場キャラクターが「商品」として認識されたことだ。ストーム・トルーパーやXウィング・パイロット、ワンシーンしか登場しないグリード、いやダース・ベイターすらも、フィギュア化されなければ、今日ほど世界的に通用するシンボルとはなっていなかっただろう(だから、『エルストリー1976』では、俳優を紹介する前に、必ずフィギュアの写真が映る)。
マーチャンダイジングの常識はずれな成功が、端役を演じた俳優たちに商品的価値を与えてしまったのだ。『エルストリー1976』に登場した俳優たちは、「映画の出演者」というより「フィギュア化された人」としてマニアから愛されているのかも知れず、その隔靴掻痒たる思いを裏づけるセリフは、同作のあちこちに見ることができる。
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もうひとつ。『スター・ウォーズ』は、ひとりひとりが細部を発見して楽しむ映画だった。
いちど見ただけでは、すべてを把握できない。誰も、Xウィングファイターの一機ずつ異なるディテールや、モス・アイズリーにいたエイリアンやドロイドの数を言い当てることはできない。何度も何度も映画館に足をはこび、たまたま「こんなキャラクターが画面の端っこにいた」と見つけた人が、子供っぽい誇らしさを感じる。
「僕だけが見つけた」快感が、いささか歪んだ経路で、愛着へと変容していく。登場人物はアクターではなくキャラクターであり、映画の些細なディテールに、過剰な価値が見出された。大失敗だったはずの「子供向けのテレビ・ムービー」「自主映画」は、マニアの偏愛(一般人のマニア的好奇心)を、一身に集めてしまった。
『ローグ・ワン』も『エルストリー1976』も、「すでに発見された後」の『スター・ウォーズ』をめぐる映画だ。
今後、果たして我々は「商品価値」以外の愛し方を、出演者たちにしてやれるのだろうか? 「これこそが『スター・ウォーズ』だ!」「こんなのは『スター・ウォーズ』ではない!」などという無責任で盲目的な、一方通行の評価軸を捨てることができるのだろうか?
考え直すなら、この冬だ、という気がする。
(C)ELSTREE 1976 LIMITED, 2015
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コメント
廣田恵介さん、こんにちは。初めまして。
Twitterでの廣田さんの博学ぶりには毎度驚かされております。
『エルストリー1976』私も昨日、大阪はシネマート心斎橋にて鑑賞しました。夜8:45からの1日1回のみの上映でロビーにディスプレイも無く、観客も20人に満たない状況と、かなり淋しい状態でしたが 笑。
私も、オープニングロールにEpisode IVの無い〝これっきりを覚悟したスター・ウォーズ〟を懐かしく思う世代で、多少ドキュメンタリーを意識したコメントであっても個性豊かな出演者たちの肉声を興味深く、楽しく観ました。
今の子らには、刺激がなくて物足らないでしょうけれど。
インタビューでは、皆さんスター・ウォーズと関わった人生を客観的に語る、個を確立した大人のコメントが多く品があるように思えました。英国人のプライドなんでしょうかね。
余談ですが、若い子らのレビューを見ていると『ローグ・ワン』は、アニメ「反乱者たち」やゲーム「バトルフロント」とも連動しているらしく、私ももっと勉強?しなくちゃいかんな〜と思いました 笑。
投稿: 墨石亜乱 | 2016年12月21日 (水) 18時13分
■墨石亜乱さま
こんにちは、初めまして。
Twitterまでご覧くださり、ありがとうございます。
新宿武蔵野館では、僕よりやや年上のご婦人たちが笑いながら鑑賞していて、ちょっと和やかなムードでした。
いずれにしても、この時期に『エルストリー1976』を観にいく人は、一人残らず勇者ですよ!
>オープニングロールにEpisode IVの無い〝これっきりを覚悟したスター・ウォーズ〟を懐かしく思う世代
そうそう、僕は『新たなる希望』ってサブタイトルが、昔からイヤでイヤで(笑)。
「こんなのヒットするわけないじゃん」と関係者に笑われていた部分まで含めて、第一作の無印『スター・ウォーズ』が愛らしいんですよ。「特別編」はあってもいいけど、第一作は公開当時のままの姿が、いちばん美しいと思います。
>皆さんスター・ウォーズと関わった人生を客観的に語る、個を確立した大人のコメントが多く品があるように思えました。
確かに、イギリス人なりのプライドもあるでしょうね。それと、ファンダムのあり方が、日本と英語圏では違うんだな……と、実感しました。ファンも作り手(俳優)も、オープンに付き合っていますよね。
そこは正直、うらやましく思いました。
>若い子らのレビューを見ていると『ローグ・ワン』は、アニメ「反乱者たち」やゲーム「バトルフロント」とも連動しているらしく
ぎりぎり『反乱者たち』は見ていたのですが、『バトルフロント』までは……(笑)。
だけど、この冬は、とても楽しく過ごしています。
投稿: 廣田恵介 | 2016年12月21日 (水) 19時09分