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旅行から帰って見た映画は、ジャン=ピエール・ジュネ監督『ロング・エンゲージメント』、ロバート・ゼメキス監督『ザ・ウォーク』。

まずは、そのソリッドな構成にしびれる。フィリップ・プティ役のジョゼフ・ゴードン=レヴィットが、画面に向かって終始、「俺はこのとき、こんな気持ちだったよ」と解説を入れる、ミもフタもない演出もいい。膨大なナレーションは、映画から物語を駆逐し、「綱渡り」の表現そのものだけを残そうと積極的になる。
事実、ついに地上417メートルで第一歩を踏み出すシーンでは、周囲の風景が消えてしまう。CGで作っているのだから当たり前のようだけど、1910~20年代のサイレント映画に逆行していくような面白さがある。映画が、大道芸と深く結びついていた時代へ。まるで、ハロルド・ロイドの映画みたいだよ。
『ザ・ウォーク』は、映画を見世物小屋の中へ、おごそかに返還しようとする。すべからく、映画を包囲していた物語性や文芸性は、霧のように消え失せていく。ただ、「高層ビルの間を綱渡りするハラハラドキドキ」だけが残される……とても爽快だ。
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機内上映で見た映画は、『ファインディング・ドリー』『ゴーストバスターズ』(2016年版)『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』など。日本語吹き替えや英語のみ、あるいは音声なしで……10本近く見たはずなのに、忘れてしまった。
来年日本で公開予定の『Monkey King: Hero is Back』(西遊記 ヒーロー・イズ・バック)を、字幕ナシながら、すべて見られた。機内の小さな画面で見ても、「おーっ」とため息が出てしまう。
期待以上にすごいクオリティだったので、帰国してから海外版ブルーレイを買おうと思ったら、なんとDVDしか発売されていない。
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時差ボケでもないのだろうが、夜中に目が覚めたり、午前中にフラリと眠ってしまったりしながら、次の旅行のことを考えている。「この辺りへ飛んでみようか?」と思いはじめた矢先、航空券が数万円で売られていて、焦る。値上がりしないうちに、入手してしまうべきなのか……。
僕は、旅行しているときの自分なら肯定できる。いつも、「何時までにここへ向かわねばならない」と、ミッションが決まっているから。遅れそうなら焦るし、余裕があるなら、ジュースかビールを飲んで、ぼんやりしている(それでも、次の行動はつねに決まっている)。
ミッションに追われているから、対人緊張しているヒマなどない。全身運動である水泳をしている間、うつ状態から脱せられるという話に、ちょっと似ている。
「我にかえる」という瞬間が、ほとんどない。なので、船に乗りたいと思ったら、「乗りたい!」「なんとかして乗る手段はないのか!」と、貪欲になる。「恥ずかしい」「みっともない」などと、自分を振り返ることがない。
確かに、「このお店は入りづらい」とか「こんな物を買ったらバカと思われるのでは」と躊躇するし、「うまく話が通じなかったら、どうしようか」と思案はする。でもね、日本の暮らしの中にいると、そうした戸惑いが何十倍ものダメージとして心に残る。ストレスも対人緊張も、環境が生み出しているんだ。
20代のころ、友だちが噛みしめるように呟いた。「人生が点ではなく、線になってしまうのが怖いのよ……」。「怖い」ではなく「つまらない」だったかも知れないが、あの言葉は真理をついていた。
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