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2016年7月31日 (日)

■0731■

昨夜は、小学校時代の旧友2人と『シン・ゴジラ』鑑賞。
640前回のエントリーで、「日本映画は感情にまかせて、怒鳴ってばかり」といったようなことを書いた。
『シン・ゴジラ』の主人公も、実は一度だけ激昂して怒鳴る。ところが直後に、「まずは君が落ち着け」と、同僚から水の入ったペットボトルを胸に押しつけられ、「すまん」と謝る。
そのペットボトルは、緊急時用に保管されていたものなのだろう、ラベルなどはない。主人公は都心でゴジラの引き起こした大火災から逃れてきたので、背広は汚れているし、怪我も負っている(医療キットが不足している、という短いセリフが入る)。
ガイガーカウンターで放射線量をはからないと、施設に入ることはできない。その時点で、総理大臣をはじめとする中心人物は消息不明となっている。それでも主人公は、仕事をしなければならない。

同じ規格のノートパソコンが、次々と机の上に並べられていく。会議室に仕事場所をつくるため、壁にかけられた絵を「せーの」と取り外す、短いカットが重なる。会話しながら、「未決」「既決」と分けられた箱に、次々とハンコを押して、書類を整理していく。
服が匂う、と指摘されたシーンの直後、ビニールに包まれた新しいワイシャツがアップになる。仕事机のうえで食事をおえて「ごちそうさまでした」と誰かが言う。その臨場感。
ゴジラを倒す最終作戦のあとですら、「ご苦労様でした」。感情に流されない地味なディテールのひとつひとつに、「実務」に対する謙虚さを感じる。

不意に、働いている誰かのスマホ画面が映りこむ。壁紙は、スマホの持ち主の妻子の写真である。その刹那、休みなく働いているプロフェッショナルたちの人生が立体化される。ほんの一瞬である。次のコマから、再び映画は事態収束に向けて疾走しはじめる。


ゴジラが鋭利なビームで高層ビルを切断し、崩れたビルが隣のビルに当たって砕け……といった、「物理的に当たり前」なミもフタもない映像に気おされて、「うわあ」と声が出そうだった。
初めて上陸したゴジラの、ウナギのような異様な姿にも、「映画的な作為」に回収不可能な唐突感、違和感をおぼえる。試写で見たときも「あれ? ひょっとしてCGが間に合わないから仮の映像を入れてるの? だって大手の商業映画に、こんな異常なデザイン出すわけないよね?」と戸惑った。
「しょせんはフィクションだから、安心して眺めていればいい」といった映画の良識、安全圏から放り出される不安は、初上陸時のゴジラの奇怪な容貌目撃時から生じはじめる。

その不安は、しかし心地いい。
大学入学前の春休み、地元のバウスシアターで寺山修司の特集上映を見た。単館上映とはいえ、商業映画のはずである。正規の料金を払って、しかるべき営業許可を得た施設で、段取りをふんで見ているはずだ。
なのに、「僕は今、映画館で映画を見ているんだ」という現状認識がゆらいでいく。怖いし、もう見たくない。だけど翌週、また足を運んでいる。映画館の暗闇に座って、ようやくナマの現実と接している感触を得られた。寺山の映画が上映されている間、狭い館内には風が吹いていた。僕は、素肌を風にさらしていた。
創造は、何かを破壊する。作品は、無作法だ。常識を押しのけて、無理やりに自分の居場所を獲得する。
そうした獰猛さを、寺山の映画からも『シン・ゴジラ』からも感じる。


だからこそ、この映画はあまりヒットしないのではないか……との不安がよぎる。
友人2人は面白がってくれ、うち一人は「もう一度見てもいい」と言ってくれた。酒を飲みながら、自分たちがいかに全年齢に優しいハリウッド大作に毒されていたか、確認しあった。
しかし、僕のように戸惑いや不安を楽しんでいた形跡はない。家庭をもつ親である彼らは、そこまで倒錯してはいない。

フィクションを介在させないと、社会に実感をもてない僕のような者は、きわめて少ないような気がする。少なくとも、映画が「映画」ではなくなる瞬間など、待っていないだろう。娯楽の規格がキチッと遵守されているのを確認し、安心して家路につきたいのではないだろうか。
僕は間違いなく、もう一度、映画館へ行く。この映画は、風にさらされている。

(C)2016 TOHO CO.,LTD.

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