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2016年6月 8日 (水)

■0608■

先日の「自分の考えを書きたければ、小説でも書けばいい」()で、いろいろ思い出したわ。
忘れないうちに、メモ程度に書いておきます。

僕、35歳のときに結婚して、新しくできたゲーム会社に就職して、二足のわらじでライターも続けていたんだけど、そのゲーム会社のリーダーに
「アンタは、好きなことを自分の思いどおりにやりたいだけなんだ!」
と、怒鳴られた。
ゲームを作るクリエイティブな会社のはずなのに、「好きなことを自分の思いどおりに」やってはいけない……。「小説でも書けばいい」に通底する、無気力発言なので、今日はそのことを書きます。


そのゲーム会社は、パチンコ会社に何億円も出資してもらって出来た、ピカピカの新興メーカーで。大手ゲーム会社……仮に『FF』という超大作シリーズをつくった会社としておくけど、『FF』に関われなかった(関わっても中心に立てなかった)人たちが集まって、興した会社だった。
で、「俺たちの手で『FF』に負けないゲームを作って、見返してやろうぜ」って意気ごみは、いいですよね。それが、モチベーションというかパワーになるなら。
僕のような、どこの誰とも分からないフリーライターを「今の仕事は続けたままでいいから、新鮮な話題を社内に持ってきてくれよ!」って、雇ってくれたのもいいよね。

僕はゲームづくりの経験はないけど、映画学科を出て、アニメや実写映画の企画を手伝ったり(サンライズ企画室にも在籍していたし)、自主的にシナリオを持ちこんだ経験も豊富だった。
だから、「シナリオ班」だったかな。「演出チーム」と呼ばれていたような気もするけど、ゲームのお話をつくったり、キャラクターの芝居を考えるチームに配属されたんです。

僕以外のメンバーは、ゲームは初めてだけど、とにかく「アニメが大好き」とか、「演劇が好きで自分で脚本も書いてる」とか、血気盛んな20代ばかり、6人ぐらい。
そんな僕ら「シナリオ班」のリーダーが、『FF』を作っていた会社から来た、なんか実写を使ったDVDゲームで一度だけシナリオを書いた……という、同い年の人(既婚者で、在籍中に子どもも生まれた)だったんです。

でも、そのリーダーさんが、とにかく何もしないの。
朝10時ぐらいに、みんな出社してくるんだけど、ボーッとしている。机の上に、『FF』の攻略本かデザイン画集だったかな。それが一冊だけ置いてあって、後は何もない。その人が「シナリオ班」のリーダー。


そもそも、ゲームのために何十人というプログラマーやグラフィッカーを集めておいて、『FF』を倒すようなゲームにしよう……ぐらいしか、何もコンセプトがない。タイトルも決まってないし、主人公は3人パーティで、あとから3人の仲間が加わって……ぐらいまでしか、キャラクターも決まってない。
でも、象徴的な設定が、たったひとつだけあった。主人公は、謎のアイテムを手に入れるんですよ。どんな凄いアイテムなのかっていうと、真っ白な、四角い石なんだって。その石は、何にでも変形するんだって。
そんな豆腐みたいな、「真っ白で、何にでもなるアイテム」。それが出てくることだけが、決まってるの。――なんか、象徴的だよね。「何も決められない」優柔不断さを形にしたかのようで。

そんな、ほとんど白紙の状態から、僕ら「シナリオ班」が、とにかく、『FF』に匹敵するようなキャッチーでド派手な物語やキャラクターを作らないといけないわけでしょ?
リーダーさんは何も言わないし、何も決めない。僕らがあちこちの映画や漫画、お芝居や小説からアイデアを持ってきても、「いや、俺はいいとは思わない」の一点張り。
「じゃあ、何がいいんですか? あなたの好みに合わせます。どういうゲームが好きなんですか?」と聞いても、そもそも彼は好きなゲームもなければ、アニメも映画も見ない。何ひとつ基準がない。雑談でも、何の作品名も出てこない。

その彼が、他のメンバーと僕がワーッとアイデアを話しあってるときに「アンタは、好きなことを自分の思いどおりにやりたいだけなんだ!」って、怒鳴ったわけです。
空っぽな人間って、ガツガツと貪欲な人間が「わがまま」に見えるらしい。僕と若いメンバーたちは、もう毎日毎日、いろんな漫画を持ってきたり、DVDでアニメを上映したり、社内BBSにゲームの評論を書いたり、「これが好き!」「これ面白い!」「これ見ろ! 絶対に面白い!」しか言わないわけですよ。お互いに憎いどころか、「このゲームのどこが面白いんだよ?」「お前の意見、聞いてやるよ!」って、戦うのが楽しいの。

だけど、好きなものが何もないのにリーダーになっちゃった、決定権を持たされてしまった人間は、「好き勝手にやるな」としか言えないわけです。
自分の意見がないから、「お前ら、勝手に意見を言うな!」と怒鳴るしかない。自由であることの楽しさを知らない人間は、アイロンをかけるように、状況を真っ平らにしたがる。……ね? 「自分の意見があるなら、小説でも書けばいい」に似てるでしょ?
議論を避けるんだよ。切磋琢磨して互いに高めあうより、アイロンをかけて真っ白にする力を欲しがる。そういう人間は文化を殺すよね、って話。


この会社にいた3年間のお話は、小説になるよ。
最後に、もうひとつだけ忘れられないこと。その何もないリーダーさんと仲が良かったのが、ゲームのディレクターでもある副社長だったんですよ。
彼もまた、何も決められない人間で、タイトルも何もない、制作すら始まっていないゲームなのに「みんな、もっとがんばれ! ふんばれ!」と、社員へのメッセージが社内BBSに、でっかく書いてあった。

僕ら、「何も足さない、何も加えない」「手段のためには、目的を選ばない」ってキャッチフレーズを作って笑っていたんだけど、「空回り」を絵に描いたような、空白なゲームのための濃密な3年間でした。自分の意見はないけど、小説にしたいよなあ……。

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