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レンタルで、ティム・バートン監督『ビッグ・アイズ』。60年代、“ビッグ・アイズ”というシリーズを描いた画家のマーガレット・キーンと、彼女の作品を「自分が描いた」と偽って世界中で売りさばいた夫、ウォルターの対立劇であり、家庭の崩壊、夫婦の破滅と反比例するように、女性が権利と自尊心を獲得していく過程を描いていく。
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映画冒頭、元夫のもとを逃げ出したマーガレットは、車の運転席から、後ろに座る娘へと手をのばし、2人は手を握りあう。
同じ構図が、後半でくり返される。ラジオに出演し、「“ビッグ・アイズ”を描いたのは、私です」と、初めて告白するマーガレット。その背後、スタジオのガラス窓の向こうに、誰かが座っている。ピントが合うと、すっかり成長した娘であることが分かる。
もう一度、夫との公判中、マーガレットの後ろの傍聴席に、やはり同じ構図で娘が座っている。そして、冒頭シーンと同じように、2人は手を握りあうのである。やや露骨ではあるが、「母と娘の関係だけは、ずっと変わっていない」ことが、構図で明示される。
こういう“仕掛け”を見ると、僕は「映画を見ている」とき特有の充足感を味わうことができる。
冒頭、60年代はまだ女性の社会的権利が低かったと説明されるが、そういう側面から見ても、力強く示唆に富んだ映画だし、たったひとつの戦略に固執したばかりに破滅していく男(ウォルターは実人生でも、悲惨な末路をたどった)を見ていると、身につまされるものがある。
ティム・バートンは箱庭的なファンタジーを描くより、社会を舞台にしたドラマに、ちょっとファンタジーのスパイスを振りかけるほうが、上手いような気がする。とてもスマートな映画だった。
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邦画関係者「邦画をクソというな!がんばってるんだぞ!」という意見がまさかの大炎上(■)
あいかわらず、アニメばかり見ている人たちが「実写映画より、アニメのほうが面白い!」と力説しているコメント欄はさておき、僕の体験だけを話す。
僕が大学を卒業した1989年ごろは、映画界に何のツテもコネもないのに、スタッフやキャストを地道にくどきまくって、巨額の自主制作映画を作ってしまった林海象のようなニューホープが現れ、そんなどこの誰とも分からない林監督を脚本家に迎え、『帝都物語』をつくってしまうEXEという映画会社が台頭したり、「プロよりも、俺たちのほうが面白い映画つくれるぞ!」って人たちが、異業種から現れはじめていた時代。ゲーム会社のナムコが、自社製作で『未来忍者』をつくってしまったのも、その頃だ。だから、低予算でも元気とアイデアにあふれた世界に見えた。
なので、僕はアルバイトしながら、せっせと企画書をつくっては、何十社という映画会社に持ちこんだ。そのうち、新しくできた実写映画会社・AピクチャーズのKというプロデューサーが、「すごく面白い企画だから、脚本を書いてくれ」ってオーダーしてきた。シメキリも設定された。
「いよいよ、運が向いてきたかな」と、昼間はバイト、夜はせっせと脚本を書いた……のだが、「この脚本書いて、いくらもえらるんだろう?」と疑問に思い、Kプロデューサーに聞いてみた。かえってきた答えは、「日本映画界には、契約書はありません」。
シメキリをしっかり守って脚本を書いたけど、「なんかイマイチな内容だねー」で、ギャラはゼロ。さすがに怒って、Aピクチャーズの社長に電話したら、「ごめんなさい、ちゃんと払いますよ」と言ってくれたけど、あれから20数年、いまだに払ってもらってない。
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そのうち、大量につくった企画書が、あちこちぐるぐる回るうち、ちゃんと契約書を用意して、ちゃんと約束どおりのギャラを払ってくれるプロデューサーとも出会えた。だけど、アイデアの盗用は当たり前、僕の描いたイメージスケッチを勝手に別の企画に使ったり(もちろん一円も払わない)、そういう人が大多数だった。90年代前半ごろは。
確実に違ったのは、アニメ業界。「あなたは実写映画をやりたいかも知れないけど、当社規定のギャラを払うので、可能なところまで企画書をつくってほしい」。そういうオーダーが舞い込んで、簡単なプロットだけで、一本15万。一ヶ月、なんとか暮らしていけるよね。
他のアニメ会社から、「企画は俺が考えるから、廣田くんは、誰がイラストレーターを探してきて、一緒にイメージボードを作ってくれ」という依頼もきた。そのときは取っ払いで、会うたびに数万円ずつ、「これで足りる?」って感じで払ってもらえた。
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だから、「実写の人たちは黙ってアイデアをパクるけど、アニメの世界は、必ず金を払ってくれる」、それが理由でアニメ企画の手伝いは、何年かつづけていた。そのうち何本かは、ちゃんと映画館で公開されたし、テレビ放映もされた。
そんな噂がつたわって、「文章をシメキリどおりに書けるなら、ウチの雑誌や本を手伝ってよ」と、編プロに声をかけられたわけだけど、やっぱり、出版業界にもタダ働きはないわけ。結局、それが信頼の証なの。
僕はライターとして、双葉社の『シネマガールズ』に邦画のレビューや企画記事を、大量に書いた。
だって、出版界はギャラを払ってくれるもん。「ギャラを払ってもらえる」信頼関係の中でなら、低予算の邦画にだって魅力を発見することができる。
僕は、実写映画のプロデューサーから電話がかかってきても、絶対に出ないようにした。映画の企画書や脚本を書いてもタダだけど、映画のレビューを書くと、ちゃんとギャラが振り込まれるんだから、当然だよね。
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